視界迷宮の村 絶望の連鎖と歪む残像

9章

視覚誘導装置の再構築

葉羽は、白銀館の一室に持ち持ち込んだホワイトボードの前に立っていた。ボードには、蔵で見つかった視覚誘導装置の破片のスケッチ、光路の推測図、そして、白髯村の地図などが所狭しと書き込まれていた。彼は、これらの情報を繋ぎ合わせ、装置の全体像を復元しようと試みていた。

彩由美は、葉羽の隣に座り、彼の作業を見守っていた。「葉羽くん、その装置って、どんなものだったの？」彼女は、視覚誘導装置の具体的な構造が想像できず、葉羽に尋ねた。

葉羽は、ホワイトボードを指しながら説明を始めた。「この装置は、複数のレンズ、鏡、そして偏光フィルターを組み合わせた複雑な構造をしている. レンズと鏡は、特定の角度で配置され、光を屈折させることで、空間認識を歪ませる効果がある。」

彼は、光路の推測図を指しながら続けた。「光は、レンズを通過することで屈折し、鏡に反射することで方向を変え、最終的に私たちの目に届く. しかし、この装置は、その光路を巧妙に操作することで、実際の空間とは異なる像を私たちの脳に投影する. これが、視覚誘導の仕組みだ。」

「まるで、万華鏡みたいね…」彩由美は、葉羽の説明を聞きながら、装置の複雑さに感嘆の声を漏らした。

「そうだね。万華鏡も、鏡とレンズを組み合わせることで、美しい模様を作り出す. この装置も、原理は同じだ. ただ、この装置は、美しい模様を作り出すのではなく、現実の空間を歪ませるという、恐ろしい目的のために作られた。」葉羽は、真剣な表情で言った。

彼は、偏光フィルターについて説明を続けた。「偏光フィルターは、特定の方向に振動する光だけを通過させる性質を持っている。この装置は、偏光フィルターを複数枚重ねることで、特定の色や形を消したり、逆に強調したりすることができる。これにより、現実の空間をさらに歪ませ、私たちの視覚を混乱させることができるのだ。」

葉羽は、ホワイトボードに描かれた蔵の平面図を指さした。「犯人は、この装置を蔵の天井に設置し、私たちを閉じ込めた. そして、装置を操作することで、蔵内部の空間を歪ませ、あたかも密室であるかのように見せかけたのだ。」

彼は、装置の破片のスケッチを指さしながら、続けた。「これらの破片は、装置の一部に過ぎない. しかし、これらの破片を分析することで、装置全体の構造を推測することができる. そして、装置の構造が分かれば、犯人がどのようにしてトリックを実行したのか、その詳細を解き明かすことができるはずだ。」

葉羽は、装置の破片を一つずつ手に取り、丹念に観察していた。破片には、微細な傷や汚れが付着しており、それらが、装置の使用方法や犯人の特徴を示す手がかりになる可能性があった.

「葉羽くん、すごいわね…まるで、探偵みたい。」彩由美は、葉羽の推理力と観察眼に感嘆の声を上げた.

「探偵…か。」葉羽は、少し照れくさそうに微笑んだ。「僕は、ただ、真実を知りたいだけだ. そして、この事件の背後に隠された闇を暴き、犯人を捕まえたいと思っている。」

彼は、再び破片に視線を戻し、思考を巡らせた。破片の形状、材質、そして、付着している微細な痕跡。彼は、あらゆる情報を分析し、装置の全体像を頭の中で組み立てていった.

時間をかけて、葉羽はついに、視覚誘導装置の完全な設計図を完成させた。それは、非常に複雑で精巧な装置であり、高度な科学知識と技術力を持った人物でなければ、作ることは不可能だった。

「できた…！」葉羽は、達成感に満ちた声で言った.

「すごいわ、葉羽くん！」彩由美は、完成した設計図を見て、驚嘆の声を上げた。「まるで、魔法の装置みたいね。」

「魔法ではない。科学だ。」葉羽は、もう一度冷静に訂正した。「しかし、この装置は、確かに魔法のような効果を生み出す. それは、人間の視覚を操り、現実を歪ませる力だ。」

葉羽は、設計図を指しながら、装置の機能を詳しく説明した。「この装置は、単に空間認識を歪ませるだけでなく、心理的な影響を与えることもできる。特定の光や色を操作することで、人間の感情や行動をコントロールすることが可能なのだ。」

彼は、ある実験結果を思い出した。それは、特定の色や光のパターンを被験者に見せることで、被験者の心理状態を変化させることができるという研究だった。例えば、青い光は冷静さを、赤い光は興奮を、そして、特定のパターンは恐怖や不安を引き起こすことが分かっていた。

「犯人は、この装置を使って、村人たちに暗示をかけていたのかもしれない。」葉羽は、真剣な表情で言った。「彼は、装置を使って特定の光や色を操作し、村人たちの心理状態を不安定にさせ、集団パニックを引き起こした可能性がある。」

葉羽は、設計図をもう一度見直した。設計図には、まだ彼が気づいていない秘密が隠されているような気がした。彼は、装置の機能をさらに深く理解することで、犯人の真の目的、そして、事件の真相に迫れると信じていた。

そして、設計図を凝視する中で、葉羽は、ある重要な事実に気がついた. 装置には、もう一つの機能が隠されていたのだ. それは、時間の流れを操作する機能だった.

「まさか…！」葉羽は、驚愕の声を上げた。「この装置は、時間を操ることができる…！」

彼は、設計図に描かれたある特殊なレンズに目を留めた。そのレンズは、光を屈折させるだけでなく、時間の流れを遅らせたり、速めたりする効果を持つ特殊な素材で作られていた.

「このレンズは…！」葉羽は、興奮を抑えきれない様子で言った。「これは、時間操作レンズだ！このレンズを使うことで、時間の流れを操作することができる！」

葉羽は、時間操作レンズの機能を理解した. 犯人は、このレンズを使って、時間差トリックを実行していたのだ. 彼は、錬司が崖に到着する時間を操作し、彼を罠にかけたのだ.

「なるほど…全て辻褄が合う！」葉羽は、興奮した様子で言った。「犯人は、視覚誘導装置と時間操作レンズを使って、完全犯罪を企てたのだ！」

彩由美は、葉羽の説明を聞きながら、恐怖に震えていた. 犯人の知能の高さと、冷酷さに、彼女は言葉を失った。

「葉羽くん…私たち、どうすれば…」彩由美は、不安げな表情で葉羽に尋ねた。

「大丈夫だ、彩由美。」葉羽は、優しく彩由美の手を握り、力強く言った。「私は、必ず事件の真相を解き明かし、犯人を捕まえる。」

彼の言葉には、揺るぎない決意が込められていた. 葉羽は、どんな困難にも屈することなく、真実を追求することを誓ったのだ。