時を喰らう館：天才高校生探偵、神藤葉羽の難解推理

11章

悪夢の再来

玄関先に立つ白銀零士の言葉は、まるで鋭利な刃物のように、葉羽の思考を切り裂いた。全ての推理が間違っている？ そんなはずはない。集めた証拠、積み重ねた論理、全てが朽木蒼司を犯人として指し示していた。

「どういう意味ですか、零士さん？　僕の推理のどこが間違っているというんです？」

葉羽は、冷静さを保ちながら、零士に問いかけた。しかし、零士は答えず、ただ不気味な笑みを浮かべるだけだった。

「さあ、どうかな？　君には、まだ見えていない真実があるんだよ、神藤君」

零士は、そう言うと、葉羽の横をすり抜け、館内へと入っていった。葉羽は、戸惑いながらも、零士の後を追った。

零士は、葉羽を書斎へと案内した。書斎の机の上には、一冊のノートが置かれていた。零士は、そのノートを葉羽に差し出した。

「これは、雅也の日記だ。君が読んだ日記とは、少し内容が違う」

葉羽は、ノートを受け取り、ページをめくった。日記には、雅也の日常生活、思考、そして夢の内容が克明に記されていた。葉羽が以前読んだ日記と、ほとんど同じ内容だったが、ある一部分だけが、微妙に違っていた。それは、雅也がVRゴーグルを使用していたという記述だった。以前読んだ日記には、VRゴーグルの使用に関する記述は一切なかった。しかし、この日記には、雅也が毎晩のようにVRゴーグルを使用し、仮想現実空間で過ごしていたことが書かれていた。

「これは……どういうことだ？」

葉羽は、混乱した。二つの日記の内容の違いは、何を意味するのか？ 零士は、静かに語り始めた。

「雅也は、VR空間で、もう一つの人生を生きていた。そこでは、彼は裕福な貴族であり、美しい妻と子供たちに囲まれて、幸せな日々を送っていた。しかし、それは全て、仮想現実の中の偽りの幸福だった」

零士の言葉は、葉羽の心に重く響いた。雅也は、現実世界での孤独と絶望から逃れるために、VR空間に逃避していたのだ。

「そして、雅也は、仮想現実と現実世界の区別がつかなくなり、精神的に崩壊していった。彼は、自分がどちらの世界に生きているのか分からなくなり、ついには、現実世界で自殺を図ったんだ」

零士は、静かに告げた。雅也の死は、自殺だった？　葉羽は、信じられない思いで、零士を見つめた。

「そんなはずはない！　雅也さんは、殺されたんだ！」

葉羽は、叫んだ。しかし、零士は、冷たく言い放った。

「証拠はあるのか？　君の推理は、全て憶測に過ぎない。雅也は、自ら命を絶ったんだ。それ以外に、考えられない」

零士の言葉は、葉羽の推理を根底から覆すものだった。葉羽は、呆然と立ち尽くし、言葉を失った。

その時、館の外から、再び悲鳴が上がった。メイドの紅葉が、書斎の窓から転落死したのだ。現場の状況は、明らかに自殺に見せかけていた。しかし、葉羽は、紅葉の死にも、何者かの陰謀が関わっていることを直感した。

悪夢は、再び始まった。葉羽は、深い絶望と、新たな謎に直面し、再び推理の迷宮へと足を踏み入れることになった。