残響鎮魂歌(レクイエム)

葉羽

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7章

幻視の恐怖

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レコード盤の音を聴き終えた葉羽は、深い疲労感と精神的な動揺に苦しんでいた。50年前の凄惨な事件の記録は、彼の想像をはるかに超えるものだった。そして、その記憶は、現実と幻覚の境界線を曖昧にし始めていた。

葉羽は目を閉じると、あの白いワンピースを着た女性の姿が浮かぶ。彼女は苦しげな表情で何かを訴えかけているが、声は聞こえない。まるで、助けを求めているかのように、葉羽の手を掴もうとするが、その手はすり抜けてしまう。

「これは…幻覚だ」葉羽は自分に言い聞かせるように呟く。しかし、幻覚は日に日に鮮明になり、現実味を帯びていく。彼は日常生活を送るのも困難になり、学校にも行けなくなってしまった。

「葉羽くん、大丈夫?ずっと顔色が悪いよ」彩由美は心配そうに葉羽を見つめる。葉羽の変化に気づき、彼女は毎日のように彼の家を訪れていた。

「ああ、大丈夫だ。少し疲れてるだけだから」葉羽は無理やり笑顔を作るが、その目は虚ろで、焦点が定まっていない。

「無理しないで。何かあったら、私に話してね」彩由美は優しく葉羽の手を握る。彼女の温もりが、葉羽の凍りついた心を少しだけ和らげる。

しかし、幻覚は悪化する一方だった。白いワンピースの女性だけでなく、50年前の事件に関わった男たちの姿も見えるようになった。彼らは薄暗い部屋の中で、女性を取り囲み、不気味な笑みを浮かべている。その光景は、葉羽の精神を深く蝕んでいく。

ある夜、葉羽は悪夢にうなされた。夢の中で、彼は50年前の豪邸にいた。白いワンピースの女性が、彼の目の前で殺害される。男たちの笑い声、女性の悲鳴、血の匂い。全てがあまりにもリアルで、葉羽は恐怖に慄き、目を覚ました。

「うっ…また、あの夢…」葉羽は冷や汗でびっしょりだった。現実に戻った安堵感よりも、悪夢の恐怖の方が強く残っていた。彼はもう、現実と幻覚の区別がつかなくなり始めていた。

「葉羽くん!」彩由美が駆け寄ってくる。彼女は葉羽の異変に気づき、すぐに駆けつけたのだ。

「彩由美…俺は…俺は…」葉羽は混乱した様子で、言葉を詰まらせる。

「落ち着いて、葉羽くん。深呼吸して」彩由美は優しく葉羽の背中をさする。彼女の温もりと穏やかな声が、葉羽の心を落ち着かせる。

「俺は…50年前の事件を…見てしまったんだ…」葉羽は震える声で言った。「レコード盤の音を聴いて…幻覚の中で…」

彩由美は驚いた表情を見せるが、すぐに真剣な顔つきで言った。「葉羽くん、その幻覚は、ただの幻覚じゃないかもしれない。もしかしたら、50年前の事件の真相を解き明かす鍵かもしれない」

彩由美の言葉に、葉羽はハッとした。確かに、幻覚はただの幻覚ではないかもしれない。時間音響学の影響で、彼は50年前の記憶に触れているのかもしれない。そして、その記憶の中に、犯人の正体を暴く手がかりが隠されている可能性もある。

葉羽は決意を新たにする。幻視の恐怖に屈することなく、事件の真相を突き止め、黒曜の死の真相を明らかにするまでは。彼は彩由美の手を握りしめ、力強く言った。

「ありがとう、彩由美。君の言うとおりだ。俺は諦めない。必ず、真相を解き明かす」

葉羽の瞳には、再び強い光が宿っていた. しかし、幻視の恐怖は、まだ彼の深層心理に深く根を張っていた。
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