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ミラグロ王国の混乱など露知らず、アテルイ一行の旅は順調そのものだった。
そして、王都を出発してから一週間後、一行はついに隣国エルツ王国の国境の町、ゼーブルックに到着した。
ゼーブルックは、ミラグロ王国の寂れた国境の町とは違い、多くの商人や旅人が行き交う、活気に満ちた場所だった。
建ち並ぶ建物はどれも綺麗で、道行く人々の表情も明るい。
「まあ、賑やかなところですこと!ミラグロとは少し雰囲気が違いますわね」
馬車の中から街並みを眺めながら、アテルイは感心したように呟いた。
彼女にとっては、見るもの全てが新鮮で、興味深い。
一行は、街の入り口に設けられた入国管理局へと向かった。
当然ながら、数十人という団体、それもただならぬ雰囲気をまとった者たちの登場に、国境警備隊は色めき立った。
屈強な鎧に身を固めた兵士たちが、槍を構えて一行の前に立ちはだかる。
「止まれ!何者だ!」
警備隊長の鋭い声が飛ぶ。
それに対し、元騎士団長のグレイフォードが一歩前に出た。
「我々は、旅の者だ。エルツ王国に入国させてほしい」
「旅の者だと?その人数でか?代表者は誰だ。身分を証明するものを提示しろ」
警備隊長は、値踏みするように一行を見回す。
明らかにただの旅人ではない。先頭に立つ馬車に乗っているであろう重要人物と、それを護衛する手練れの者たち。亡命貴族か、あるいはどこかの国の密使か。
警備隊長の警戒レベルは、一気に最高潮に達した。
その時、馬車の扉がゆっくりと開き、中から一人の女性が姿を現した。
アテルイ・アークライトである。
陽光を浴びてきらきらと輝くプラチナブロンドの髪。雪のように白い肌。そして、完璧な造形美を誇る顔立ち。
アテルイが馬車から降り立った瞬間、その場にいた兵士たちは皆、息を呑んだ。
あまりの美しさに、武器を構えていることさえ忘れ、見惚れてしまったのだ。
アテルイは、ずらりと並んだ兵士たちを前にしても、臆することなく、優雅に微笑んでみせた。
「皆様、ごきげんよう」
その場にそぐわない、あまりにも優雅な挨拶。
兵士たちは、ぽかんとして顔を見合わせる。
「わたくし、アテルイと申します。こちらの方々は、わたくしのお友達ですの。これから皆様の国にお邪魔しようと思うのですが、よろしいかしら?」
まるで、隣家の庭に遊びに来たかのような、あまりにも無邪気な口調。
警備隊長は、混乱した頭で何とか言葉を絞り出した。
「い、いや、よろしいかしら、と言われても……!我々には、入国者を審査する義務がある!所属と目的をはっきりと述べよ!」
隊長の言葉に、アテルイは少し困ったように首を傾げた。
「所属、ですの?わたくしは、わたくしですが……目的は、観光、かしら?新しいお友達と、新しい国を見て回りたくて」
その答えは、警備隊長をさらに混乱させるだけだった。
問答が全く噛み合わない。
見かねた元財務大臣のケインズが、にこやかな笑顔で前に進み出た。
「隊長殿、お見苦しいところをお見せして申し訳ない。我々、実はミラルゴ……いや、西の大陸から来た、ただの富豪でしてな。このお嬢様は、我々が支援する商会の代表なのです」
「商会の代表……?」
「ええ。エルツ王国が商業の国だと聞きましてな。何か良い投資先はないものかと、視察に来た次第でございます。決して、怪しい者ではございませんぞ」
ケインズの言葉は、実に説得力があった。
しかし、警備隊長はまだ疑いの目を向けている。
その時、これまで黙ってアテルイの背後に控えていた侍女のイゾルテが、すっと前に出た。
「隊長様。このままでは埒が明きませんわ。それに、兵士の皆様もお疲れでしょう」
イゾルテは、なぜか手に持っていたバスケットの中から、冷たい水が入った水筒をいくつも取り出し、兵士たちに配り始めた。
「まあ、お飲みになってくださいな。長旅で、たくさん用意してまいりましたので」
その手際の良さと、屈強な兵士たちを前にしても物怖じしない態度に、警備隊長は一瞬、言葉を失う。
「何だ、お前は……」
「わたくしは、主にお仕えするただの侍女でございます」
イゾルテは、完璧な笑みを浮かべた。
「立ち話もなんですし、そちらの詰所で、我々の代表と、隊長様の上官の方とで、ゆっくりお話をさせて頂くことはできませんでしょうか?もちろん、お茶菓子はこちらでご用意いたしますわ」
その提案は、あまりにも奇妙だった。
入国審査を、お茶会でやろうというのだから。
だが、アテルイの規格外の美貌と、ケインズのもっともらしい口上、そしてイゾルテの掴みどころのないペースに完全に巻き込まれ、警備隊長は、なぜか「それもそうか……」という気になってしまっていた。
「……わ、分かった。所長に話を通そう。お前たちの代表者はこちらへ」
こうして、前代未聞の入国審査が、幕を開けようとしていた。
そして、王都を出発してから一週間後、一行はついに隣国エルツ王国の国境の町、ゼーブルックに到着した。
ゼーブルックは、ミラグロ王国の寂れた国境の町とは違い、多くの商人や旅人が行き交う、活気に満ちた場所だった。
建ち並ぶ建物はどれも綺麗で、道行く人々の表情も明るい。
「まあ、賑やかなところですこと!ミラグロとは少し雰囲気が違いますわね」
馬車の中から街並みを眺めながら、アテルイは感心したように呟いた。
彼女にとっては、見るもの全てが新鮮で、興味深い。
一行は、街の入り口に設けられた入国管理局へと向かった。
当然ながら、数十人という団体、それもただならぬ雰囲気をまとった者たちの登場に、国境警備隊は色めき立った。
屈強な鎧に身を固めた兵士たちが、槍を構えて一行の前に立ちはだかる。
「止まれ!何者だ!」
警備隊長の鋭い声が飛ぶ。
それに対し、元騎士団長のグレイフォードが一歩前に出た。
「我々は、旅の者だ。エルツ王国に入国させてほしい」
「旅の者だと?その人数でか?代表者は誰だ。身分を証明するものを提示しろ」
警備隊長は、値踏みするように一行を見回す。
明らかにただの旅人ではない。先頭に立つ馬車に乗っているであろう重要人物と、それを護衛する手練れの者たち。亡命貴族か、あるいはどこかの国の密使か。
警備隊長の警戒レベルは、一気に最高潮に達した。
その時、馬車の扉がゆっくりと開き、中から一人の女性が姿を現した。
アテルイ・アークライトである。
陽光を浴びてきらきらと輝くプラチナブロンドの髪。雪のように白い肌。そして、完璧な造形美を誇る顔立ち。
アテルイが馬車から降り立った瞬間、その場にいた兵士たちは皆、息を呑んだ。
あまりの美しさに、武器を構えていることさえ忘れ、見惚れてしまったのだ。
アテルイは、ずらりと並んだ兵士たちを前にしても、臆することなく、優雅に微笑んでみせた。
「皆様、ごきげんよう」
その場にそぐわない、あまりにも優雅な挨拶。
兵士たちは、ぽかんとして顔を見合わせる。
「わたくし、アテルイと申します。こちらの方々は、わたくしのお友達ですの。これから皆様の国にお邪魔しようと思うのですが、よろしいかしら?」
まるで、隣家の庭に遊びに来たかのような、あまりにも無邪気な口調。
警備隊長は、混乱した頭で何とか言葉を絞り出した。
「い、いや、よろしいかしら、と言われても……!我々には、入国者を審査する義務がある!所属と目的をはっきりと述べよ!」
隊長の言葉に、アテルイは少し困ったように首を傾げた。
「所属、ですの?わたくしは、わたくしですが……目的は、観光、かしら?新しいお友達と、新しい国を見て回りたくて」
その答えは、警備隊長をさらに混乱させるだけだった。
問答が全く噛み合わない。
見かねた元財務大臣のケインズが、にこやかな笑顔で前に進み出た。
「隊長殿、お見苦しいところをお見せして申し訳ない。我々、実はミラルゴ……いや、西の大陸から来た、ただの富豪でしてな。このお嬢様は、我々が支援する商会の代表なのです」
「商会の代表……?」
「ええ。エルツ王国が商業の国だと聞きましてな。何か良い投資先はないものかと、視察に来た次第でございます。決して、怪しい者ではございませんぞ」
ケインズの言葉は、実に説得力があった。
しかし、警備隊長はまだ疑いの目を向けている。
その時、これまで黙ってアテルイの背後に控えていた侍女のイゾルテが、すっと前に出た。
「隊長様。このままでは埒が明きませんわ。それに、兵士の皆様もお疲れでしょう」
イゾルテは、なぜか手に持っていたバスケットの中から、冷たい水が入った水筒をいくつも取り出し、兵士たちに配り始めた。
「まあ、お飲みになってくださいな。長旅で、たくさん用意してまいりましたので」
その手際の良さと、屈強な兵士たちを前にしても物怖じしない態度に、警備隊長は一瞬、言葉を失う。
「何だ、お前は……」
「わたくしは、主にお仕えするただの侍女でございます」
イゾルテは、完璧な笑みを浮かべた。
「立ち話もなんですし、そちらの詰所で、我々の代表と、隊長様の上官の方とで、ゆっくりお話をさせて頂くことはできませんでしょうか?もちろん、お茶菓子はこちらでご用意いたしますわ」
その提案は、あまりにも奇妙だった。
入国審査を、お茶会でやろうというのだから。
だが、アテルイの規格外の美貌と、ケインズのもっともらしい口上、そしてイゾルテの掴みどころのないペースに完全に巻き込まれ、警備隊長は、なぜか「それもそうか……」という気になってしまっていた。
「……わ、分かった。所長に話を通そう。お前たちの代表者はこちらへ」
こうして、前代未聞の入国審査が、幕を開けようとしていた。
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