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「まあ……」
アテルイは、目の前でひざまずくクリストフを見て、感嘆したかのように、小さく息を漏らした。
彼女は、驚きで頬をほんのりと染めながらも、その表情は、どこか嬉しそうに見えた。
「わたくしに、妃になってほしい、と。……殿下も、なかなか、面白いことを仰るのですね」
その、少しズレた第一声に、クリストフは、思わずずっこけそうになった。
物陰から見守っていたイゾルテは、「(お嬢様、そこですか……!)」と心の中で天を仰ぐ。
しかし、アテルイは、すぐに言葉を続けた。
彼女は、クリストフが差し出す指輪には触れず、そっと、彼の手を取った。
そして、彼に立ち上がるよう、優しく促す。
「クリストフ殿下。わたくしのような女で、本当によろしいのですか?」
アテルイは、クリストフの瞳を、まっすぐに見つめ返して尋ねた。
「わたくしは、一度は国を追われた身。それに、わたくしが隣にいると、殿下は、きっと、これからも、たくさんの面倒ごとに巻き込まれることになりますわよ?わたくしの侍女は、少々、過激ですし」
彼女の言葉に、物陰でイゾルテが「失礼な」と小さく呟く。
「それでも、殿下は、わたくしが良いと、そう仰ってくださるのですか?」
それは、彼女なりの、最後の確認だった。
自分という存在が、彼の未来にとって、本当に良いものなのか、と。
クリストフは、アテルイの手を、優しく、しかし力強く握り返した。
「ああ、君が良い。君でなければ、駄目なのだ」
彼の瞳に、迷いは一切なかった。
「君が隣にいてくれるなら、どんな面倒ごとも、僕にとっては、喜びに変わるだろう。それに、君の侍女殿が過激なら、僕が、君と彼女を、まとめて守ってみせる」
その、あまりにも男前な宣言に、イゾルテの眉が、ぴくりと動いた。
「(ほう、なかなか言いますわね、この王子……)」
クリストフの、揺るぎない覚悟。
その真っ直ぐな想いは、ついに、アテルイの心の、最後の扉を開いた。
アテルイは、はにかむように、ふわりと微笑んだ。
それは、これまでの、どの微笑みよりも、愛らしく、そして幸せに満ちた、一人の女性としての、微笑みだった。
「……まあ、わたくしで、よろしければ」
その言葉は、肯定。
クリストフの顔が、ぱあっと、喜びに輝いた。
「アテルイ!」
彼は、思わず彼女を抱きしめようとして、はっと我に返る。
そんなクリストフの姿に、アテルイは、くすくすと笑った。
「あなた様のいる場所が、これからは、わたくしの居場所ですわ。クリストフ」
初めて、彼を、名前で呼んだ。
その響きの甘さに、クリストフの心は、完全に、溶かされてしまった。
「ありがとう……!ありがとう、アテルイ!必ず、君を、世界一、幸せにしてみせる!」
彼は、今度こそ、愛する人を、優しく、しかし強く、抱きしめた。
アテルイも、そっと、その背中に腕を回す。
その瞬間、物陰から、わっ、という歓声と、盛大な拍手が巻き起こった。
「おめでとうございます、アテルイ様、クリストフ殿下!」
「いやあ、めでたい!今夜は、宴会ですな!」
ケインズも、グレイフォードも、フローラも、皆、涙ながらに二人の婚約を祝福していた。
イゾルテだけは、腕を組んで、少しだけ不満そうな、それでいて、どこか満足そうな、複雑な表情で、二人を見つめていた。
「……まあ、仕方ありませんわね。うちのお嬢様を、盗られてしまいましたか。ですが、王子様。もし、お嬢様を、ほんの少しでも悲しませるようなことがあれば……分かっておりますわよね?」
その呟きは、誰の耳にも届かなかったが、彼女の瞳は、未来の主君に、鋭い忠告を送っていた。
こうして、多くの苦難を乗り越えた令嬢は、ついに、本当の愛と、安らぎの場所を見つけた。
彼女の新しい物語は、今、始まったばかりである。
アテルイは、目の前でひざまずくクリストフを見て、感嘆したかのように、小さく息を漏らした。
彼女は、驚きで頬をほんのりと染めながらも、その表情は、どこか嬉しそうに見えた。
「わたくしに、妃になってほしい、と。……殿下も、なかなか、面白いことを仰るのですね」
その、少しズレた第一声に、クリストフは、思わずずっこけそうになった。
物陰から見守っていたイゾルテは、「(お嬢様、そこですか……!)」と心の中で天を仰ぐ。
しかし、アテルイは、すぐに言葉を続けた。
彼女は、クリストフが差し出す指輪には触れず、そっと、彼の手を取った。
そして、彼に立ち上がるよう、優しく促す。
「クリストフ殿下。わたくしのような女で、本当によろしいのですか?」
アテルイは、クリストフの瞳を、まっすぐに見つめ返して尋ねた。
「わたくしは、一度は国を追われた身。それに、わたくしが隣にいると、殿下は、きっと、これからも、たくさんの面倒ごとに巻き込まれることになりますわよ?わたくしの侍女は、少々、過激ですし」
彼女の言葉に、物陰でイゾルテが「失礼な」と小さく呟く。
「それでも、殿下は、わたくしが良いと、そう仰ってくださるのですか?」
それは、彼女なりの、最後の確認だった。
自分という存在が、彼の未来にとって、本当に良いものなのか、と。
クリストフは、アテルイの手を、優しく、しかし力強く握り返した。
「ああ、君が良い。君でなければ、駄目なのだ」
彼の瞳に、迷いは一切なかった。
「君が隣にいてくれるなら、どんな面倒ごとも、僕にとっては、喜びに変わるだろう。それに、君の侍女殿が過激なら、僕が、君と彼女を、まとめて守ってみせる」
その、あまりにも男前な宣言に、イゾルテの眉が、ぴくりと動いた。
「(ほう、なかなか言いますわね、この王子……)」
クリストフの、揺るぎない覚悟。
その真っ直ぐな想いは、ついに、アテルイの心の、最後の扉を開いた。
アテルイは、はにかむように、ふわりと微笑んだ。
それは、これまでの、どの微笑みよりも、愛らしく、そして幸せに満ちた、一人の女性としての、微笑みだった。
「……まあ、わたくしで、よろしければ」
その言葉は、肯定。
クリストフの顔が、ぱあっと、喜びに輝いた。
「アテルイ!」
彼は、思わず彼女を抱きしめようとして、はっと我に返る。
そんなクリストフの姿に、アテルイは、くすくすと笑った。
「あなた様のいる場所が、これからは、わたくしの居場所ですわ。クリストフ」
初めて、彼を、名前で呼んだ。
その響きの甘さに、クリストフの心は、完全に、溶かされてしまった。
「ありがとう……!ありがとう、アテルイ!必ず、君を、世界一、幸せにしてみせる!」
彼は、今度こそ、愛する人を、優しく、しかし強く、抱きしめた。
アテルイも、そっと、その背中に腕を回す。
その瞬間、物陰から、わっ、という歓声と、盛大な拍手が巻き起こった。
「おめでとうございます、アテルイ様、クリストフ殿下!」
「いやあ、めでたい!今夜は、宴会ですな!」
ケインズも、グレイフォードも、フローラも、皆、涙ながらに二人の婚約を祝福していた。
イゾルテだけは、腕を組んで、少しだけ不満そうな、それでいて、どこか満足そうな、複雑な表情で、二人を見つめていた。
「……まあ、仕方ありませんわね。うちのお嬢様を、盗られてしまいましたか。ですが、王子様。もし、お嬢様を、ほんの少しでも悲しませるようなことがあれば……分かっておりますわよね?」
その呟きは、誰の耳にも届かなかったが、彼女の瞳は、未来の主君に、鋭い忠告を送っていた。
こうして、多くの苦難を乗り越えた令嬢は、ついに、本当の愛と、安らぎの場所を見つけた。
彼女の新しい物語は、今、始まったばかりである。
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