〘完結〛婚約破棄ですか、ところで浮気相手はどちら様で?

桜井ことり

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ヴァイス王国の王宮、その最も壮麗な『太陽の間』。

高い天井からは、数えきれないほどの水晶を使ったシャンデリアが吊り下げられ、床に敷かれた真紅の絨毯の上を、着飾った貴族たちが行き交っている。

建国記念を祝う、一年で最も華やかな舞踏会。

その華やぎの頂点で、アルフレッド王太子は、意気揚々とセラフィーナをエスコートしていた。

「見てくれ、セラフィーナ! 皆が、君の美しさに見とれているぞ!」

「まあ、殿下ったら…」

セラフィーナは、純白の豪奢なドレスに身を包み、これでもかとばかりに宝石をちりばめていた。そのどれもが、国費から賄われたものであることを、彼女とアルフレッド以外、この場の多くが知っている。

彼らに向けられる笑顔が、嘲笑と憐憫の入り混じったものであることに、二人は気づいていない。

彼らは、今日の主役が自分たちであると信じて疑わなかった。

その時、会場の入り口が、ひときわ大きくざわめいた。

全ての視線が、そこに注がれる。

現れたのは、クラインフェルト伯爵にエスコートされた、リリアンヌだった。

夜空色のドレスを纏った彼女が、静かに一歩、足を踏み入れる。その瞬間、会場の空気が変わった。

セラフィーナの華美な装飾が、まるで子供の火遊びのように色褪せて見えるほどの、圧倒的な気品と存在感。

「リリアンヌ…!」

アルフレッドが、苦々しげにその名を呟く。

私は、周囲の視線を一身に浴びながら、ゆっくりと広間を進み、国王陛下と王妃殿下が座る玉座の前へと向かった。

そして、最も優雅なカーテシーを捧げる。

「リリアンヌ・フォン・クラインフェルト、ただいま参上いたしました」

「うむ、参ったか」

国王陛下が、威厳に満ちた声で応える。

やがて、開会を告げるファンファーレが鳴り響き、国王陛下の短い挨拶の後、ワルツの演奏が始まった。

アルフレッド殿下は、見せつけるようにセラフィーナの手を取り、ダンスの輪の中心へと踊り出る。

私は、その様子を壁際から静かに眺めていた。隣には、心配そうに寄り添う父様と、そして、いつの間にか現れたカイがいた。彼は、シルヴァーナ王国の賓客として、正式に招待されていたのだ。

「いよいよだな」

カイが、低い声で囁く。

「ええ」

私は頷いた。一曲目が、終わろうとしている。

音楽が優雅なフィナーレを迎え、止まった。拍手が広間を満たす。

その拍手が鳴り止むのを待って、私は一歩、前に進み出た。そして、会場の隅々まで響き渡る、凛とした声で言った。

「皆様、ご歓談のところ、大変恐縮ではございますが、しばし、お耳を拝借したく存じます!」

広間が、シン、と静まり返る。全ての視線が、私に集中した。

私は、玉座におわす国王陛下に向き直り、深く一礼した。

「陛下、恐れながら、この場をお借りし、皆様に、ある一つの『真実』をお伝えすることの許可を、お願い申し上げます」

国王陛下は、全てを知る目で私を見つめ、厳かに頷いた。

「…許す」

その一言が、断罪のゴングとなった。
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