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21話
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フウカが誘拐された、という一報は、ロイゼフ公爵邸にも、嵐となって吹き荒れた。
「なんだと……!? フウカが、攫われた……?」
父、トウカは、報告を聞いた瞬間、その場に崩れ落ちそうになった。
顔は真っ青になり、ただ、わなわなと震えながら、侍従に何度も同じことを問い質している。
公爵としての威厳など、そこには欠片もなかった。ただ、愛する娘を案じる、無力な一人の父親の姿があるだけだった。
一方、その報告を、応接室で静かに聞いていた母、フリンダの反応は、正反対だった。
彼女は、手にしていたティーカップを、ことり、と、音もなくソーサーに戻した。
その表情に、変化はない。驚きも、悲しみも、怒りさえも、浮かんでいない。
ただ、その場の空気が、絶対零度を下回ったかのように、凍りついただけだ。
報告を終えた侍従が、恐怖に引きつった顔で部屋から退出する。
応接室に、一人きりになったフリンダは、ゆっくりと立ち上がった。
そして、暖炉の上に飾られていた、フウカの、幼い頃の肖像画に、その視線を向けた。
絵の中の娘は、はにかむように、幸せそうに、微笑んでいる。
その、かけがえのない笑顔を、汚そうとした者がいる。
その、愛しい娘を、恐怖に陥れた者がいる。
その事実が、フリンダの中で、静かに、そして、確かな一つの結論を導き出す。
「…………私の娘に手を出したこと、地獄で後悔させてやる」
それは、誰に聞かせるともない、静かな、けれど、神々の裁きよりも、絶対的な、死の宣告だった。
フリンダは、もはや、ポチ王子が率いる近衛騎士団の捜査など、待ってはいなかった。
彼女には、彼女自身の、情報網がある。
光の当たる世界では裁けぬ悪を、闇の中で葬り去るための、影の繋がりが。
黒衣に着替えたフリンダは、夜の闇に、音もなく溶け込んだ。
王都の、最も薄汚れた裏路地。
一人の、しがない情報屋の男が、突如、背後から現れた、死神のような気配に、悲鳴を上げた。
「ひぃっ……! な、なんだ、あんた……」
フリンダは、何も言わない。
ただ、その冷たい瞳で、男を見下ろすだけ。
それだけで、男は、全てを悟った。この女には、逆らえない。
「グロルシュ男爵……! 近頃、羽振りがいいと思ったら、ロイゼフの嬢ちゃんに、手を出したんで……」
男が、言い終わる前に、フリンダの姿は、再び、闇の中へと消えていた。
必要な情報は、手に入れた。
目的地は、グロルシュ男爵の、寂れた屋敷。
***
その頃、ポチもまた、怒りに燃える瞳で、馬を駆っていた。
彼の、王子直属の諜報部隊が、犯人を特定するのに、時間はかからなかった。
「グロルシュ男爵」
その名を聞いた瞬間、ポチは、全ての状況を理解した。
金に困った、愚かな小物が、ロイゼフ家の財産目当てに、最悪の選択をしたのだと。
「全隊、グロルシュ男爵邸へ向かえ! 一人たりとも、逃がすな!」
ポチが率いる近衛騎士団が、グロルシュ男爵邸を、完全に包囲する。
屋敷の中からは、下品な笑い声と、音楽が漏れ聞こえていた。
「突入する!」
ポチが、命令を下そうとした、まさに、その瞬間だった。
ドゴォォォォォン!!!!
凄まじい轟音と共に、屋敷の、堅牢であるはずの正門が、内側から、木っ端微塵に吹き飛んだ。
それは、まるで、巨大な攻城兵器の一撃。
騎士たちが、何事かと、呆然とする。
その、もうもうと立ち上る土煙と、瓦礫の中から、一つの、人影が、ゆっくりと、現れた。
月明かりに照らされた、黒衣の、女。
フリンダ・ロイゼフ。
彼女は、正面突破を選んだのだ。
ステルスも、奇襲も、必要ない。
ただ、正面から、全ての敵を、叩き潰す。
それが、彼女の、やり方だった。
「な、なんだぁ!? 敵襲だ!!」
屋敷の中から、慌てたゴロツキたちの声が聞こえる。
十数名の男たちが、剣を手に、フリンダへと、殺到した。
それは、もはや、戦闘とさえ呼べなかった。
一方的な、蹂躙。
フリンダは、まるで、散歩でもするように、優雅な足取りで、男たちの群れの中へと、歩みを進める。
向かってくる剣を、指二本で、へし折る。
振り下ろされる棍棒を、軽く腕でいなし、その勢いを利用して、相手を、壁へと叩きつける。
悲鳴を上げる暇もなく、ゴロツキたちは、次々と、戦闘能力を失っていく。
それは、恐怖を通り越して、どこか、幻想的ですらある、破壊の舞踏だった。
ポチと騎士たちが、屋敷の中に突入した時、彼らが見たのは、地獄のような、光景だった。
広間には、手足を、あり得ない方向に曲げ、呻き声を上げる男たちが、そこら中に転がっている。
そして、その中心に。
フウカを人質に、震える手で、ナイフを突きつけている、グロルシュ男爵と。
その男を、絶対零度の瞳で見下ろす、フリンダの姿があった。
「フウカ!」
ポチが、叫ぶ。
フウカは、その声に、はっと顔を上げた。その瞳には、恐怖と、そして、安堵の涙が浮かんでいる。
「ポチ様……! お母様……!」
「ひ、ひぃぃ……! く、来るな! こいつの喉を、切り裂くぞ!」
グロルシュ男爵が、狂乱したように叫ぶ。
その、あまりにも愚かな選択に、フリンダの眉が、ぴくり、と動いた。
次の瞬間。
フリンダの姿が、掻き消えた。
と思った、刹那。
グロルシュ男爵の背後に、音もなく、現れていた。
「……え?」
ゴキッ、という、乾いた音。
グロルシュ男爵は、白目を剥くと、糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
ナイフが、からん、と、床に落ちる。
フリンダは、彼の、首の骨と、両腕の関節を、同時に、外しただけだった。
全ての、脅威が、排除された。
完璧な、制圧。
ポチは、その光景に、一瞬、言葉を失ったが、すぐに我に返ると、騎士たちに、命令を下した。
「グロルシュ男爵と、そこに転がっている者どもを、全員、捕縛しろ! 一人残らずだ!」
騎士たちが、慌ただしく動き出す。
そんな中、フリンダは、娘の元へと、静かに歩み寄った。
そして、その震える体を、優しく、抱きしめる。
「……怪我は、ないか、フウカ」
その声には、珍しく、焦りと、そして、深い安堵の色が、滲んでいた。
ポチもまた、フウカの元へと駆け寄る。
フウカは、自分を救ってくれた、二人の、大切な人たちの顔を、涙に濡れた瞳で、見上げた。
この世で最も、恐ろしくて、強い、お母様。
そして、この世で最も、優しくて、頼りになる、王子様。
この二人がいれば、もう、何も怖くない。
フウカは、心の底から、そう、感じていた。
「なんだと……!? フウカが、攫われた……?」
父、トウカは、報告を聞いた瞬間、その場に崩れ落ちそうになった。
顔は真っ青になり、ただ、わなわなと震えながら、侍従に何度も同じことを問い質している。
公爵としての威厳など、そこには欠片もなかった。ただ、愛する娘を案じる、無力な一人の父親の姿があるだけだった。
一方、その報告を、応接室で静かに聞いていた母、フリンダの反応は、正反対だった。
彼女は、手にしていたティーカップを、ことり、と、音もなくソーサーに戻した。
その表情に、変化はない。驚きも、悲しみも、怒りさえも、浮かんでいない。
ただ、その場の空気が、絶対零度を下回ったかのように、凍りついただけだ。
報告を終えた侍従が、恐怖に引きつった顔で部屋から退出する。
応接室に、一人きりになったフリンダは、ゆっくりと立ち上がった。
そして、暖炉の上に飾られていた、フウカの、幼い頃の肖像画に、その視線を向けた。
絵の中の娘は、はにかむように、幸せそうに、微笑んでいる。
その、かけがえのない笑顔を、汚そうとした者がいる。
その、愛しい娘を、恐怖に陥れた者がいる。
その事実が、フリンダの中で、静かに、そして、確かな一つの結論を導き出す。
「…………私の娘に手を出したこと、地獄で後悔させてやる」
それは、誰に聞かせるともない、静かな、けれど、神々の裁きよりも、絶対的な、死の宣告だった。
フリンダは、もはや、ポチ王子が率いる近衛騎士団の捜査など、待ってはいなかった。
彼女には、彼女自身の、情報網がある。
光の当たる世界では裁けぬ悪を、闇の中で葬り去るための、影の繋がりが。
黒衣に着替えたフリンダは、夜の闇に、音もなく溶け込んだ。
王都の、最も薄汚れた裏路地。
一人の、しがない情報屋の男が、突如、背後から現れた、死神のような気配に、悲鳴を上げた。
「ひぃっ……! な、なんだ、あんた……」
フリンダは、何も言わない。
ただ、その冷たい瞳で、男を見下ろすだけ。
それだけで、男は、全てを悟った。この女には、逆らえない。
「グロルシュ男爵……! 近頃、羽振りがいいと思ったら、ロイゼフの嬢ちゃんに、手を出したんで……」
男が、言い終わる前に、フリンダの姿は、再び、闇の中へと消えていた。
必要な情報は、手に入れた。
目的地は、グロルシュ男爵の、寂れた屋敷。
***
その頃、ポチもまた、怒りに燃える瞳で、馬を駆っていた。
彼の、王子直属の諜報部隊が、犯人を特定するのに、時間はかからなかった。
「グロルシュ男爵」
その名を聞いた瞬間、ポチは、全ての状況を理解した。
金に困った、愚かな小物が、ロイゼフ家の財産目当てに、最悪の選択をしたのだと。
「全隊、グロルシュ男爵邸へ向かえ! 一人たりとも、逃がすな!」
ポチが率いる近衛騎士団が、グロルシュ男爵邸を、完全に包囲する。
屋敷の中からは、下品な笑い声と、音楽が漏れ聞こえていた。
「突入する!」
ポチが、命令を下そうとした、まさに、その瞬間だった。
ドゴォォォォォン!!!!
凄まじい轟音と共に、屋敷の、堅牢であるはずの正門が、内側から、木っ端微塵に吹き飛んだ。
それは、まるで、巨大な攻城兵器の一撃。
騎士たちが、何事かと、呆然とする。
その、もうもうと立ち上る土煙と、瓦礫の中から、一つの、人影が、ゆっくりと、現れた。
月明かりに照らされた、黒衣の、女。
フリンダ・ロイゼフ。
彼女は、正面突破を選んだのだ。
ステルスも、奇襲も、必要ない。
ただ、正面から、全ての敵を、叩き潰す。
それが、彼女の、やり方だった。
「な、なんだぁ!? 敵襲だ!!」
屋敷の中から、慌てたゴロツキたちの声が聞こえる。
十数名の男たちが、剣を手に、フリンダへと、殺到した。
それは、もはや、戦闘とさえ呼べなかった。
一方的な、蹂躙。
フリンダは、まるで、散歩でもするように、優雅な足取りで、男たちの群れの中へと、歩みを進める。
向かってくる剣を、指二本で、へし折る。
振り下ろされる棍棒を、軽く腕でいなし、その勢いを利用して、相手を、壁へと叩きつける。
悲鳴を上げる暇もなく、ゴロツキたちは、次々と、戦闘能力を失っていく。
それは、恐怖を通り越して、どこか、幻想的ですらある、破壊の舞踏だった。
ポチと騎士たちが、屋敷の中に突入した時、彼らが見たのは、地獄のような、光景だった。
広間には、手足を、あり得ない方向に曲げ、呻き声を上げる男たちが、そこら中に転がっている。
そして、その中心に。
フウカを人質に、震える手で、ナイフを突きつけている、グロルシュ男爵と。
その男を、絶対零度の瞳で見下ろす、フリンダの姿があった。
「フウカ!」
ポチが、叫ぶ。
フウカは、その声に、はっと顔を上げた。その瞳には、恐怖と、そして、安堵の涙が浮かんでいる。
「ポチ様……! お母様……!」
「ひ、ひぃぃ……! く、来るな! こいつの喉を、切り裂くぞ!」
グロルシュ男爵が、狂乱したように叫ぶ。
その、あまりにも愚かな選択に、フリンダの眉が、ぴくり、と動いた。
次の瞬間。
フリンダの姿が、掻き消えた。
と思った、刹那。
グロルシュ男爵の背後に、音もなく、現れていた。
「……え?」
ゴキッ、という、乾いた音。
グロルシュ男爵は、白目を剥くと、糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
ナイフが、からん、と、床に落ちる。
フリンダは、彼の、首の骨と、両腕の関節を、同時に、外しただけだった。
全ての、脅威が、排除された。
完璧な、制圧。
ポチは、その光景に、一瞬、言葉を失ったが、すぐに我に返ると、騎士たちに、命令を下した。
「グロルシュ男爵と、そこに転がっている者どもを、全員、捕縛しろ! 一人残らずだ!」
騎士たちが、慌ただしく動き出す。
そんな中、フリンダは、娘の元へと、静かに歩み寄った。
そして、その震える体を、優しく、抱きしめる。
「……怪我は、ないか、フウカ」
その声には、珍しく、焦りと、そして、深い安堵の色が、滲んでいた。
ポチもまた、フウカの元へと駆け寄る。
フウカは、自分を救ってくれた、二人の、大切な人たちの顔を、涙に濡れた瞳で、見上げた。
この世で最も、恐ろしくて、強い、お母様。
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