追放された凡人魔導士ですが、実は世界最強の隠しステ持ちでした〜気づかないうちに英雄扱いされて、美少女たちに囲まれていました〜

にゃ-さん

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第9話 「英雄様」と呼ばれても、俺はただの凡人です

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――あれから三日。  

ウォルズの町はまだ祭りの熱を残していた。  
通りには飾り布がかかり、酒場からは笑い声が響く。  
けれど、その中心に立つエイル本人は、相変わらず気の抜けたような顔で通りを歩いていた。  

「……あのさ、なんで俺、行くところ行くところで“英雄様”とか呼ばれるんだろうな」  
隣を歩いていたリュナが、獣人らしい耳をぴこぴこと動かしながら笑った。  
「当たり前でしょ。竜を倒して村を救ったんですから。種族を越えて感謝してるんですよ」  
「いやいや、偶然だってば。俺、強くなろうと思って強くなったわけじゃないし」  
「それ、本気で言ってるから困りますよね……」  
リュナはため息をつき、ちらりと横目で彼を見る。  
白いローブに杖を背負った青年――周囲の人々が自分に気づくたびに、気まずそうに目を逸らす。  
派手さのない、ごく普通の人間に見える。  
だが、その“普通さ”が逆に人々の畏怖を煽るのだ。  

「よっ、英雄様。今日も平和そうで何よりだ」  
活気ある屋台の前で、魚屋の中年が手を振ってくる。  
エイルは反射的に頭を下げた。  
「だから英雄じゃないってば!」  
「ははっ、謙遜も度が過ぎるぜ。兄ちゃんがいなきゃ今頃この町は燃えてたんだ、感謝してもしきれねぇ」  
「ちょっと火事の延焼を止めただけなんだけどな……」  
「その火事って、災厄級のブレスのことですよね?」  
「……」  
リュナのツッコミが入る。  
エイルは何も言えず、苦笑して魚を一匹買った。  

そんなやり取りをしながら市場を抜け、二人はギルドへ向かった。  
ウォルズ冒険者ギルド――今や帝都でも注目される支部となっていた。  
災厄級魔物を短期間に三件も処理したことで、各国の連絡官が次々に訪れている。  

扉を押し開けると、今日も人の熱気が充満していた。  
「お、本人だ!」「エイル様、お疲れ様です!」「写真描いてもいいですか!?」  
(……写真って何だよ)  
見たこともない携帯式描画魔道具を向けられ、慌てて拒否する。  
「いいって!顔出せるほど立派な人間じゃないから!」  

受付カウンターの向こうでは、いつものようにリタが忙しそうに書類を整理していた。  
「エイルさん、フェルド村から追加の感謝状が届きましたよ!」  
「え、また?」  
「はい、なんと“獣人族の守護者”の称号まで贈られてます!」  
「勘弁してくれ……。俺、守護した覚えないのに」  
後ろでリュナが尻尾を振りながら微笑んだ。  
「あなたはもう獣人族の誇りなんです。うれしいことですよ」  
「うれしいような、重いような……」  

しばらくして、ギルド長イルゼが書類を手に現れた。  
眼鏡越しの視線は相変わらず鋭いが、口の端にはかすかな笑みが宿っている。  
「また騒ぎを起こすんじゃないかと心配したけど、なんとか三日も平穏に過ごしたのね」  
「“も”ってなんですか、“も”って。俺、騒ぎ好きみたいな言い方」  
「実績が物語っているのよ。あなたが動くたびに何かが崩れるの」  
「……いや、まあ、偶然だから」  
「それを“偶然で済ませる天災”って言うの」  

イルゼは書類を机に置き、真剣な顔で言った。  
「帝都から正式な招待状が届いたわ。来月、王城で英雄叙勲式が開かれる。あなたも参加してほしいと」  
「……行きたくないんですけど」  
「行きなさい。拒否すれば外交問題になるわ」  
「俺、外交できるような人間じゃ……」  
「知ってる」  

リタとリュナがくすりと笑う。  
エイルは思わず椅子にへたり込んだ。  

「王城とか、緊張するなぁ。貴族って苦手だし」  
「気楽にいればいいんです。あなたは人間側の“英雄象徴”なんですから」  
「だからその肩書きが嫌なんだよ。俺、ただの凡人でいたいのに……」  
ぽつりと零れた言葉は、誰にも否定されなかった。  
リュナも、イルゼも、ただ静かに微笑んでいた。  

しばらくして、ギルド内部を少年冒険者たちが駆け抜けてきた。  
「ギルド長ーっ、北の防衛拠点が魔物に襲われてるって!」  
「負傷者多数です!」  
その声に、場の空気が一気に緊迫する。  
イルゼが即座に指示を飛ばした。  
「戦闘可能ランクB以上の者を集めなさい! 救援隊を組織する!」  

エイルは立ち上がった。  
「行くよ」  
「待って、正式派遣の命令を――」  
「間に合わないんでしょ? 被害広がる前に止める」  
「……はぁ、もう慣れたけど、本当にあなたは独断が好きね」  
「いや、正義感が強いだけですよ?」  
「自覚なしの最強は、もはや最恐の独裁者予備軍ね」  

言いながらも、イルゼは苦笑して手を上げる。  
「行ってらっしゃい。……ただし、今度こそ街一つ吹き飛ばすのはやめて」  
「気をつけるよ」  

リュナが後を追うように走る。  
「待って! 私も行く! 前みたいに後始末で怒られたくないから!」  
二人の背中が扉を抜け、通りの向こうへ消えていった。  

――数時間後。  

北の防衛拠点跡地では、すでに戦火が上がっていた。  
砦の石壁が半分崩れ、魔族の群れが押し寄せている。  
冒険者と兵士たちが死力を尽くす中、上空に一筋の光が走った。  

「……な、なんだあれ……?」  
誰かが呟いた瞬間、天を裂くような閃光が降り注ぐ。  
爆音と衝撃、だが熱はない。  
気づけば敵の群れは蒸発し、砦の前にただ一人の影が立っていた。  
白衣の男と、銀髪の獣人の少女――。  

その場にいた者全員が息を呑む。  
「――悪い、助太刀遅れた」  
気楽にそう言う声が、地響きのように響いた。  

戦いは一瞬で終わった。  
魔族軍の残滓は光となって消え、砦の兵士たちは呆然と立ち尽くす。  
誰からともなく、歓声が上がった。  
「英雄様だ! 白の英雄様だ!」  
「救われた……!」  

再び耳を塞ぎたくなるような称号の嵐。  
リュナが小声でささやいた。  
「やっぱり、あなたは英雄だよ」  
「違うって……助けたかっただけだ」  
「それで十分。英雄なんて、そういう人のことを言うんですよ」  

彼女の言葉に、エイルは何も返せなかった。  
沈みかけた太陽の光が、瓦礫の上で煌めく。  
遠くで仲間たちの歓声がこだまする中、エイルは空を見上げて呟いた。  

「――ほんとに俺、凡人でいたいのにな」  

その願いが届く日は、まだ遠い。  
世界はこの凡人を、誰よりも必要とし始めていた。  

続く
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