追放された凡人魔導士ですが、実は世界最強の隠しステ持ちでした〜気づかないうちに英雄扱いされて、美少女たちに囲まれていました〜

にゃ-さん

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第11話 裏切りの勇者たちと、暴走する魔王軍

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夜の風が荒れ狂っていた。  
終焉峡谷――そこは世界の裂け目と呼ばれる絶界の地。  
王都から西へ数百キロ、岩の谷間が何層にも重なり、常に雷光と瘴気が渦巻いている。  
エイルはその空の上から、じっと下を見下ろしていた。  

「……この空気、ひどいな」  
魔力――いや、瘴気の奔流が風そのものを歪ませている。  
峡谷中央の大地が赤く脈打ち、そこから瘴気の柱が天へと伸びていた。  
「封印が破れてる……。ミリアが言ってた“逆利用”って、これか」  

杖を握りしめて降下する。  
地面は焦げ、崩れた岩の隙間から光がこぼれている。  
焦げたような匂い。人の気配は、かすかに。  

「……死体は、少ないな。生き残りがいるか」  
岩陰を越えた瞬間、声がした。  

「……っ、誰だ!」  
矢が一本、空を裂いた。  
かわす間もなく、指先で軽く弾くと矢は霧散する。  
声の主は、ぼろぼろの鎧を着た男だった。  
「お前は……! まさか、エイルか……?」  

「……スレイドか。まだ生きてたか」  
それはかつての仲間、戦士スレイド。  
彼は目を丸くし、戸惑うように笑った。  
「お、お前、来たのか……俺たちを見捨てたかと思ったぜ」  
「見捨てるも何も、俺はもう仲間じゃない。ただ、頼まれたから来ただけだ」  
「頼まれた……? まさかミリアが……」  
エイルは頷く。  
「勇者はどこに?」  
「中央だ。……いや、もはや“勇者だったもの”だ」  

嫌な予感を覚えながら、風を操って一気に峡谷の奥へ進む。  
そこはまるで世界の心臓だった。脈動する赤黒い光、浮遊する魔力塊、そして中央で両腕を広げ立つ男。  

「……レオナード」  

かつて『光輝の勇者』と称された男の姿は、もはや別人だった。  
金髪は血に濡れ、背には黒い翼、瞳は紫に染まっている。  
その不気味な光景を、周囲の空気が容赦なく増幅させていた。  

「よく来たな、エイル」  
声は低く、湿っていた。  
エイルは一瞬で悟った。  
彼の中に“魔王の欠片”が侵蝕している。  

「その姿、なにをしたんだ」  
「何を、だと? 俺は望んだだけだ。世界を救う力をだ!」  
「……それがその結果か?」  
「お前には分からないだろう!」レオナードが叫ぶ。  
「お前は何もしなくても称えられた! 俺はすべてを捧げたのに、誰も認めなかった! だから、この力で証明するんだ!」  

あたりの魔力が爆ぜる。  
狂気に満ちた眼が、エイルを刺す。  

(ああ、そうか。)  
エイルは静かに理解した。  
レオナードは自ら封印を壊したのではなかった。  
“壊されることを選んだ”のだ。  

「レオナード、あんたを止める」  
「貴様に俺を止める資格があるかッ!!」  

その叫びを合図に、地面がうねる。  
黒い影が次々と立ち上がった。  
それは魔王軍の残滓――かつて魔族に仕えた亡霊戦士たちが復活している。  
無数の骸骨兵と怪物の群れが、エイルを取り囲んだ。  

「やっぱり普通に話は聞いてくれないか」  
息をついて、杖を軽く一閃する。  

雷光が落ちた。  
轟音と閃光。瞬間、地形が減り、兵たちが影ごと消え去る。  
爆風が止んだあとも、エイルの表情は変わらない。  
「これでもまだやるなら……少し手加減はできない」  

だがレオナードの唇が嗤う。  
「ははっ……やはり貴様は化け物だ! 何が凡人だ、無自覚だ? この俺よりよほど災厄じゃないか!」  
彼の身体がさらに膨張し、背中の翼が裂け、黒い鱗に覆われていく。  
「……融合が進んでいる。魔王の核に完全に呑まれるぞ」  
「それでも、救われるなら構わない!」  

レオナードが拳を振るった瞬間、峡谷全体が揺れる。  
空をも裂く衝撃。エイルは即座に反応し、空気を一瞬で反転させた。  
二つの圧力が激突し、夜空が裂け、雷鳴が連続する。  

「レオナード……ほんと、めんどうな性格は変わってないな」  
「黙れ!! 俺は勇者だ、貴様なんかに負けは――」  
轟音と共に、彼の叫びは掻き消えた。  
エイルの魔力がゆるやかに膨らみ、爆散する衝撃波が峡谷を満たした。  

爆炎が収まり、煙のなかに、倒れ伏したレオナードの姿があった。  
全身から黒い靄が抜け落ちていく。  

「……もう、大丈夫だ」  
エイルが手を伸ばすと、レオナードが微かに笑った。  
「ふ……結局……お前に救われるのか……皮肉だな……」  
「いいじゃないか。人間らしいってことだよ」  
「……エイル、すまなかった」  
その一言を残して、レオナードは意識を失った。  

沈黙が訪れる。  
エイルは天空を見上げた。瘴気の柱は薄まり、闇が静かに消えていく。  
波打つ魔力の奔流も、徐々に透き通っていった。  

「……終わったか」  

そのとき、後方から気配が近づいた。  
「エイル!」  
振り向くと、リュナが息を切らして駆け寄ってくる。  
「無茶するんだから。やっぱり一人で来るなんて、信じられない」  
「いや、来ちゃった?」  
「ほんとにどうかしてる」  
そう言いつつ、リュナの視線は倒れた勇者に移った。  
「……これが、あなたたちの元仲間?」  
「ああ。たぶん目を覚ませば元に戻る。ミリアがいれば助けられる」  

リュナは何も言わず、エイルの頬にかかった血を拭った。  
少し冷たい指先が、妙に静かな夜に馴染む。  

その時、峡谷の奥から再び光が漏れた。  
紫紺の輝き。封印陣の中心から、黒い小球が浮かび上がる。  
「……っ! 魔王の核、まだ残ってたか!」  

エイルが一歩前に出る。  
核は生きていた。  
生気のような気配を帯び、周囲の岩石を溶かす。  
「目覚めの儀ではない……誰かが核を奪おうとしてる?」  
「誰かって?」  
リュナが問いかけた瞬間、裂けるような笑い声が響く。  

「おやおや……やはり面白いですね、あなた」  
声の主は、突如闇の中から姿を現した。  
黒衣をまとい、紅の瞳を持った青年。  
人ではない。魔族、それも王に近い威圧がある。  

「あなたが噂の“白の魔導士エイル”ですね。お初にお目にかかります」  
「……誰だ」  
「我はゼルアーク。魔王陛下の忠実なる後継者ですよ」  
その微笑は冷たくも楽しげだった。  

「世が混沌に戻る日を、どれほど待ったことか」  
彼は宙に浮かぶ核へ手を伸ばす。  
「やめろ、それに触るな!」  
「奪還完了。では、また会いましょう――“人間の天災”」  

次の瞬間、空間が歪み、彼の姿も核も霧のように消えた。  
残ったのは、風に舞う一片の黒い羽だけ。  

リュナが固く拳を握りしめる。  
「新しい魔王が……動き出したのね」  
エイルは羽を拾い、夕暮れの赤にかざした。  
「……この世界、ほんとに平穏にならせてくれないな」  

そして呟くように付け足す。  
「まだ“凡人”のままでいられるうちに、終わらせたいんだけどな」  

夜風が吹き、砂塵に混じって彼の願いが遠くへ流れていった。  

続く
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