追放された凡人魔導士ですが、実は世界最強の隠しステ持ちでした〜気づかないうちに英雄扱いされて、美少女たちに囲まれていました〜

にゃ-さん

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第12話 仕方なく助けに行ったら、魔王軍が秒で消し飛びました

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終焉峡谷の戦いから二日後。  
王都・セレスティアは妙な静けさに包まれていた。  
魔王の封印が再び動いたという情報は、限られた上層部しか知らない。だが、街中に流れ始めた不穏な空気は、まるで嵐の前触れだった。  

エイルは王宮魔導院の一室で、簡易ベッドに腰を下ろしていた。  
傍らにはミリアの寝台。彼女の顔色は幾分よくなっている。  
「……あいかわらず寝顔だけは綺麗だな」  
ぽつりとそんなことを呟くと、横から皮肉げな声が飛んできた。  

「寝顔“だけ”って付けるあたり、あんた性格悪いわね」  
リュナだった。片手に焼きリンゴを持ったまま、壁際の椅子から尻尾を揺らしている。  
「褒め言葉だよ」  
「逆の意味でしょそれ」  

軽い会話が流れるが、空気はどこか重かった。  
――ゼルアーク。  
“魔王の後継者”を名乗るあの魔族の青年の存在が、すでに王都の裏側で暗躍を始めている。  
イルゼからの伝令でも、帝国境付近に魔王軍の残党が集結しているとの報告があった。  

「……結局、また“行かなきゃ”ってなるんだろうな」  
エイルは天井を見上げながらぼそりと呟く。  
「あなたが行かないと誰も止められないでしょ」  
「他にも強い奴いるだろ」  
「みんな、あなた見て戦うタイミングを測ってるの。もう“象徴”なのよ」  
「象徴って呼び方やめてくんない? くすぐったい」  

少し笑うと、エイルは立ち上がった。  
「……置いてくるわけにもいかない、よな」  
「まさか、もう出るつもり?」  
「ああ。ミリアが目を覚ます頃には、辺りが片付いてるようにしておかないと」  

リュナが諦めたように立ち上がる。  
「わかった、行くよ」  
「いや、危ないって」  
「また置いて行かれたら、絶対あとで拗ねると思うよ?」  
「……否定できないな」  
苦笑を浮かべながら、二人は王宮を後にした。  

夜。  
王都西端、黒き霊峰グロスの裾を行く。  
風が鳴り、木々の葉がざわめく。そこには確かに、常人では感じ取れぬほど濃い魔力の流れがあった。  

「……来るね」  
リュナが耳を伏せる。  
数秒後、地面が震えた。  
黒い霧が溢れ出し、次々と魔族の影が現れる。牙を持ち、爪を光らせ、百、二百と数を増していく。  
「うわ~、多いね。あれ全部、ゼルアークの手勢?」  
「たぶん。半分は幻影だけど、めんどくさい」  
「……あんたの“めんどくさい”って、世界の終わりレベルだから怖いんだけど」  

リュナの呟きを無視して、エイルは杖を軽く振る。  
その動きに呼応するように、空気がビリビリと震え始めた。  

「最初から一気に片していい?」  
「え……ま、まって! 一応加減、加減はしてね!?」  
「一応ね」  

瞬間、世界が光に包まれた。  
雷鳴が連続し、山肌が崩壊するほどの衝撃。  
風の奔流が全方向へ拡散し、霧と魔族の群れを一瞬で吹き飛ばした。  
爆光のなか、リュナが悲鳴を上げる。  

「控えめって言ったのにっ!!!」  
「だいぶ控えたよ? 半径二キロしか消してない」  
「バカなの!? 二キロも消したら村ひとつ分だからね!?」  
「え、そんな近くに村あったの?」  
「当たり前でしょ!」  

煙が晴れたあとには、魔族の姿は一匹も残っていなかった。  
焦げ跡だけが地平に広がり、あまりの静けさに虫の声すら途絶えている。  
「……俺、やっぱり繊細な戦いには向かないな」  
「自覚したのなら少しはマシね……」  

リュナが額を押さえる中、空が不意に赤く染まった。  
稲妻のような魔力が大気を裂き、巨大な影が地上へ降りてくる。  
「……おっと、来たか」  
「ゼルアーク!」  

赤黒い衣をまとったゼルアークが、淡い笑みを浮かべて立っていた。  
周囲の空気が冷える。彼の影が伸び、幾重にも波打つ。  
「人間。本当に来るとは思いませんでしたよ。あなたが手を下すたび、“均衡”が壊れていく」  
「その均衡とやら、いつも俺に押しつけてくる側のセリフだな」  
「あなたは世界の理から外れた存在。神よりも近く、魔王よりも恐ろしい」  
「それで、気に入らないから壊すつもりか?」  
「ええ。世界は滅ぶべきだ。停滞した均衡に未来はない」  

その瞬間、ゼルアークの身体が霧へと溶けた。空間転移の速度が異常だ。  
次の瞬間、彼の手がエイルの喉元を掴もうとしていた。  

しかし。  

「……遅い」  

エイルの周囲で時間が止まった。  
ゼルアークの目が驚愕に見開かれる。  
「こ、これは……時空干渉……? この凡人が……!」  
「凡人で悪いな。でも、魔族に『凡人』の定義教えてもムダでしょ?」  

エイルが指を鳴らす。  
時間が動き出した瞬間、ゼルアークの肉体は空へと吹き飛んだ。  
衝撃が夜空を裂き、爆発が遠くの山々を照らす。  
体勢を立て直したゼルアークが叫んだ。  
「あなたは……人の皮を被った歪みだ!」  
「そういうの、言い飽きた」  
淡く光が収束し、杖の先に純白の球体が生まれる。  
「“修正”」  

世界が反転した。  
空間がうねり、虚無の白が広がる。  
ゼルアークは悲鳴をあげ、消失の中へと呑み込まれた。  
音も残さず、景色が元に戻ったとき、そこには何もなかった。  

リュナは口をぽかんと開けて呟いた。  
「……いまの、何?」  
「概念の矛盾を一つ消しただけ」  
「説明された気がしない!」  
「難しく言うと、“魔族という存在の矛盾点を一瞬修正した”。だから奴は消えた」  
「おいおい、それ消しちゃダメなレベルじゃない?」  
「うーん、気のせいだよ」  

完全に悪びれないその笑みを見て、彼女は盛大にため息をついた。  

「この人、やっぱり天災だ……」  
「そんなこと言ったらまた肩書き増えるから黙って」  

夜風が二人の間を抜けていく。  
さっきまで荒れていた山岳地帯が嘘のように静まり返っていた。  

「……帰ろうか」  
「ミリアのところに?」  
「うん。怒られる前に戻らないと」  
「いや、もう十分怒られることしたと思うけど……」  

それでも、リュナの声にはどこか安堵が混じっていた。  
世界を覆っていた瘴気が消え、星々が顔を出している。  
そして、その穏やかな光の下で、エイルはふと小さく呟いた。  

「これで多少は、穏やかな日常に戻れるかな」  
「無理だと思う」  
「え」  
「だって次は、あなたの名が全大陸に広まるもん」  
「……やっぱりそうなるか」  
「うん、諦めなさい。“英雄様”」  

彼はため息をつき、夜空にぼんやり手を伸ばした。  
「ほんと、凡人でいたいんだけどなあ」  

その声は風に溶け、ゆっくりと星の海へと消えていった。  

続く
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