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第14話 聖女ミリアとの再会と、涙の懺悔
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砂漠地帯を越えて三日後。
エイルたちは、聖都ヴァルティナへ向かっていた。
太陽に焼かれた大地の上に、白亜の塔がいくつも立ち並び、中心の大聖堂は遠くからでも眩しく輝いて見える。
ここは聖教の本拠地であり、“神と契約した聖女”が仕える神聖な場所――かつてミリアが修行していた都市だ。
「懐かしいな。ミリアがここで寝坊して司祭に怒られてた頃を思い出す」
エイルが苦笑すると、隣のリュナが小首を傾げる。
「その聖女って、あのミリア? ずいぶん人間らしいエピソードね」
「そう、人間らしさが彼女のいいところ。俺と違ってちゃんと努力してた」
「……あんたほどの力持ってて、それ言うの失礼だと思う」
軽口を交わしているうちに、門前へと着いた。
入城のための魔力検査を受け、二人はすぐに中へ通される。
だが門番の一人が、エイルの名前を確認した瞬間、表情を硬くした。
「……まさか、あなたが“白衣の魔導士”エイル殿とは」
「いきなりその呼び名やめて。俺は普通の注意喚起で来ただけだから」
「そ、それでも報告を!」
慌てて兵士が奥へ走っていくのが見えた。
聖都は厳かな空気に満ちていた。白の石畳を光が滑り、風に祈りの歌が混じる。
そんな中で、ふと聞き覚えのある声がした。
「……エイル?」
振り向くと、そこにミリアが立っていた。
純白の修道服に身を包み、金の髪を風に揺らす姿はまるで光そのもの。
以前の旅の頃よりも穏やかな笑顔を浮かべていた。
「やっぱり……本当にあなたなんだね」
「久しぶりだな、ミリア」
「うん……また会えるなんて思ってなかった」
二人の間に流れる空気は、ほんの一瞬、かつての旅の記憶を蘇らせた。
けれどミリアの表情には少し翳りがあった。
「王都で……勇者様があなたを追放したあの日から、私はずっと後悔してた。あの時、あんな言葉であなたを傷つけて……」
「そんな昔のこと、もう気にしてないよ」
「いいえ。あの日、私は見ていたの。あなたが、誰よりもみんなを守ってたことを」
ミリアの声が震える。
彼女の中で、ずっと押し殺してきた罪悪感が溢れ出すようだった。
「勇者様は……あなたの力を恐れていたの。だから、自分の正義で塗り固めようとした。でも私は、それを見て見ぬふりをしたの。
あなたを信じてるって言いながら、何もできなかった……」
エイルは静かに首を振った。
「いいんだ。俺が弱かっただけだ。自分の力がどんなものかも理解してなかった。結局、自覚がないまま誰かを遠ざけてた」
「そんなことない! あなたはいつも誰よりも努力してた! 優しくて、どこまでも不器用で……だからこそ、私は――」
そこまで言って、ミリアは言葉を詰まらせた。
涙が頬を伝う。
リュナが控えめにその場を離れる。
「……二人に任せるわ」
風だけが彼らの周囲を通り抜けた。
「……ミリア」
「なに?」
「俺、あの時この世界が怖かった。力が怖くて、人の心も怖くて。だから、追放って言われた時、正直ほっとしたんだ。
誰も責めない方が楽だったから」
「……」
「でも、今は違う。リュナも、イルゼも、そしてまたお前ともこうして再会した。……だから、この力が人を救えるなら、それでいいって思えるようになったよ」
ミリアの瞳が揺れた。
「あなたって本当に……」
「凡人だろ?」
彼が微笑む。
その笑顔を見て、ミリアはぽつりと呟いた。
「……そんな優しい凡人、神ですら見間違えるよ」
そして彼女は少しだけ笑った。
「それでも、そんなあなたの隣で、もう一度歩きたい。……許してくれなくてもいい。ただ、手を貸して」
エイルはわずかに目を見開き、それからうなずいた。
「許すも何もないさ。仲間に戻るだけだろ?」
ミリアは泣き笑いのような顔で、彼に手を伸ばした。
二人の手が触れ合う瞬間――柔らかな光が降った。
聖堂の鐘が鳴る。
まるで再会を祝福するように音が街中に響き渡った。
しかし、その穏やかな時間は長く続かなかった。
外の方角で、突如として強烈な魔力波が弾けたのだ。
「っ……この反応……!」
リュナが戻ってくる。耳がぴんと立ち、尻尾が逆立っていた。
「災厄級の魔族が……聖都の外に出た!」
「なんだって?」
「ゼルアークの残党ね。たぶん、“核”の欠片を移送しようとしてたんだわ!」
ミリアが即座に祈りの印を結ぶ。
「エイル、私も行く!」
「まだ回復しきってないだろ!」
「関係ない! 聖女として、見過ごせない!」
「……わかった。ただし、俺から離れないこと」
「了解」
三人は大聖堂を飛び出した。
空には黒雲が渦を巻き、巨大な影が現れる。
それは翼を持つ獣――かつて“封印の守護獣”だった存在が、魔族によって歪められた姿だった。
「おいおい、またでかいの来たな……」
リュナが呆れ声を上げ、ミリアは杖を構える。
「この街を……二度と誰にも奪わせない!」
エイルは彼女の前に立ち、静かに笑った。
「じゃあ、ちょっと仕事するか」
彼の杖から光が溢れる。
聖都全体を包むかのような巨大な魔法陣が地面に浮かび上がった。
人々が空を見上げる。金と白の光が交錯し、雲を突き抜ける。
そしてエイルは、軽く呟いた。
「浄化、展開」
次の瞬間、世界が白に染まった。
光が放たれた刹那、空の魔獣が音もなく塵となり、黒雲すら晴れ渡る。
陽光が聖都に降り注ぎ、鐘の音が再び鳴った。
リュナとミリアは、それを目の当たりにしながらただ言葉を失っていた。
「……この人、加減の意味を本当に知らない……」
「でも……綺麗」
ミリアの頬を涙が伝う。
エイルは杖を肩に担いで、肩をすくめた。
「ほら、終わっただろ。怪我人の治療に戻るぞ」
「今のを“終わった”って言うの、あなたくらいよ……」
リュナが呆れて言う中、ミリアはただ笑っていた。
その笑顔には、もう迷いはない。彼女が信じる光は、目の前にあった。
そして――その日。
聖都ヴァルティナでは、人々が口々に「聖女と白の賢者」の奇跡を語り始めた。
だが当人たちは、そんな呼び名など知らぬまま、ただ次の宿へと足を向けた。
「俺、本気で凡人でいたいんだけど……もう無理かな」
「とっくに無理だと思う」
リュナの即答に、エイルは素直に頭を抱えた。
続く
エイルたちは、聖都ヴァルティナへ向かっていた。
太陽に焼かれた大地の上に、白亜の塔がいくつも立ち並び、中心の大聖堂は遠くからでも眩しく輝いて見える。
ここは聖教の本拠地であり、“神と契約した聖女”が仕える神聖な場所――かつてミリアが修行していた都市だ。
「懐かしいな。ミリアがここで寝坊して司祭に怒られてた頃を思い出す」
エイルが苦笑すると、隣のリュナが小首を傾げる。
「その聖女って、あのミリア? ずいぶん人間らしいエピソードね」
「そう、人間らしさが彼女のいいところ。俺と違ってちゃんと努力してた」
「……あんたほどの力持ってて、それ言うの失礼だと思う」
軽口を交わしているうちに、門前へと着いた。
入城のための魔力検査を受け、二人はすぐに中へ通される。
だが門番の一人が、エイルの名前を確認した瞬間、表情を硬くした。
「……まさか、あなたが“白衣の魔導士”エイル殿とは」
「いきなりその呼び名やめて。俺は普通の注意喚起で来ただけだから」
「そ、それでも報告を!」
慌てて兵士が奥へ走っていくのが見えた。
聖都は厳かな空気に満ちていた。白の石畳を光が滑り、風に祈りの歌が混じる。
そんな中で、ふと聞き覚えのある声がした。
「……エイル?」
振り向くと、そこにミリアが立っていた。
純白の修道服に身を包み、金の髪を風に揺らす姿はまるで光そのもの。
以前の旅の頃よりも穏やかな笑顔を浮かべていた。
「やっぱり……本当にあなたなんだね」
「久しぶりだな、ミリア」
「うん……また会えるなんて思ってなかった」
二人の間に流れる空気は、ほんの一瞬、かつての旅の記憶を蘇らせた。
けれどミリアの表情には少し翳りがあった。
「王都で……勇者様があなたを追放したあの日から、私はずっと後悔してた。あの時、あんな言葉であなたを傷つけて……」
「そんな昔のこと、もう気にしてないよ」
「いいえ。あの日、私は見ていたの。あなたが、誰よりもみんなを守ってたことを」
ミリアの声が震える。
彼女の中で、ずっと押し殺してきた罪悪感が溢れ出すようだった。
「勇者様は……あなたの力を恐れていたの。だから、自分の正義で塗り固めようとした。でも私は、それを見て見ぬふりをしたの。
あなたを信じてるって言いながら、何もできなかった……」
エイルは静かに首を振った。
「いいんだ。俺が弱かっただけだ。自分の力がどんなものかも理解してなかった。結局、自覚がないまま誰かを遠ざけてた」
「そんなことない! あなたはいつも誰よりも努力してた! 優しくて、どこまでも不器用で……だからこそ、私は――」
そこまで言って、ミリアは言葉を詰まらせた。
涙が頬を伝う。
リュナが控えめにその場を離れる。
「……二人に任せるわ」
風だけが彼らの周囲を通り抜けた。
「……ミリア」
「なに?」
「俺、あの時この世界が怖かった。力が怖くて、人の心も怖くて。だから、追放って言われた時、正直ほっとしたんだ。
誰も責めない方が楽だったから」
「……」
「でも、今は違う。リュナも、イルゼも、そしてまたお前ともこうして再会した。……だから、この力が人を救えるなら、それでいいって思えるようになったよ」
ミリアの瞳が揺れた。
「あなたって本当に……」
「凡人だろ?」
彼が微笑む。
その笑顔を見て、ミリアはぽつりと呟いた。
「……そんな優しい凡人、神ですら見間違えるよ」
そして彼女は少しだけ笑った。
「それでも、そんなあなたの隣で、もう一度歩きたい。……許してくれなくてもいい。ただ、手を貸して」
エイルはわずかに目を見開き、それからうなずいた。
「許すも何もないさ。仲間に戻るだけだろ?」
ミリアは泣き笑いのような顔で、彼に手を伸ばした。
二人の手が触れ合う瞬間――柔らかな光が降った。
聖堂の鐘が鳴る。
まるで再会を祝福するように音が街中に響き渡った。
しかし、その穏やかな時間は長く続かなかった。
外の方角で、突如として強烈な魔力波が弾けたのだ。
「っ……この反応……!」
リュナが戻ってくる。耳がぴんと立ち、尻尾が逆立っていた。
「災厄級の魔族が……聖都の外に出た!」
「なんだって?」
「ゼルアークの残党ね。たぶん、“核”の欠片を移送しようとしてたんだわ!」
ミリアが即座に祈りの印を結ぶ。
「エイル、私も行く!」
「まだ回復しきってないだろ!」
「関係ない! 聖女として、見過ごせない!」
「……わかった。ただし、俺から離れないこと」
「了解」
三人は大聖堂を飛び出した。
空には黒雲が渦を巻き、巨大な影が現れる。
それは翼を持つ獣――かつて“封印の守護獣”だった存在が、魔族によって歪められた姿だった。
「おいおい、またでかいの来たな……」
リュナが呆れ声を上げ、ミリアは杖を構える。
「この街を……二度と誰にも奪わせない!」
エイルは彼女の前に立ち、静かに笑った。
「じゃあ、ちょっと仕事するか」
彼の杖から光が溢れる。
聖都全体を包むかのような巨大な魔法陣が地面に浮かび上がった。
人々が空を見上げる。金と白の光が交錯し、雲を突き抜ける。
そしてエイルは、軽く呟いた。
「浄化、展開」
次の瞬間、世界が白に染まった。
光が放たれた刹那、空の魔獣が音もなく塵となり、黒雲すら晴れ渡る。
陽光が聖都に降り注ぎ、鐘の音が再び鳴った。
リュナとミリアは、それを目の当たりにしながらただ言葉を失っていた。
「……この人、加減の意味を本当に知らない……」
「でも……綺麗」
ミリアの頬を涙が伝う。
エイルは杖を肩に担いで、肩をすくめた。
「ほら、終わっただろ。怪我人の治療に戻るぞ」
「今のを“終わった”って言うの、あなたくらいよ……」
リュナが呆れて言う中、ミリアはただ笑っていた。
その笑顔には、もう迷いはない。彼女が信じる光は、目の前にあった。
そして――その日。
聖都ヴァルティナでは、人々が口々に「聖女と白の賢者」の奇跡を語り始めた。
だが当人たちは、そんな呼び名など知らぬまま、ただ次の宿へと足を向けた。
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