追放された凡人魔導士ですが、実は世界最強の隠しステ持ちでした〜気づかないうちに英雄扱いされて、美少女たちに囲まれていました〜

にゃ-さん

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第19話 魔族領への単身潜入と、氷の魔族姫ルシア

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世界最強候補――その言葉が王国中に広まったのは、それからわずか三日後だった。  
聖都では「白の守護者」、帝都では「無自覚の天災」、辺境では「歩く災厄除け」と、場所によって呼び名は違うが、どれも同じ人物を指していた。  

エイル・シェルド――本人としては、ただ平穏に暮らしたいだけの“凡人”。  
だがそんな願いは、世界という歯車の中では最も叶いにくい部類に入るらしい。  

「……で、俺がなんでまた潜入任務なんです?」  
王城の作戦室。円卓の上には地図が広げられ、魔族領との国境線が赤く線引きされていた。  
イルゼが疲れたように眼鏡を押し上げる。  
「“潜入”というより、“偵察”ね。最近、魔族領北部で異常な魔力反応が観測されている。恐らくは、ゼルアークの後継勢力ね」  
「後継勢力……またあの黒霧の連中ですか」  
「ええ。放っておけないわ。けれど王国軍が動けば大戦になる。だから一人で行ける人間が必要なの」  
「つまり俺。いや、まぁ、予想はしてたけどさぁ」  

端でリュナが苦笑する。  
「潜入って“静かに行ける人間”がやるもんじゃないの? あんた、歩くだけで現場が片付くじゃない」  
「だからこそじゃない?」イルゼが冷静に言う。  
「万が一の時、彼なら魔族領そのものを消し飛ばして帰ってくる」  
「物騒な安心感だな……」  

セレスが少し心配そうに口を開いた。  
「無茶だけはしないで。あなたが不在になると、民が不安がるわ」  
「お言葉痛み入ります殿下。でも無茶をしない方法が分かってたら、俺、もう少し穏やかに生きてると思う」  
「自覚してるなら少しは改めなさい」  

結局、反論の余地もなくエイルは単身で魔族領へ赴くことになった。  

――二日後。  

魔族領北部、氷雪地帯。  
一面が白銀に覆われ、空気は刃のように冷たい。  
エイルの足跡が雪原に続き、風だけが吹き荒れている。  

「……やっぱり寒い。こういう時、防寒魔法もっと真面目に教わっとけばよかったな」  
身を縮めながら、彼は遠くに見える影を凝視した。  
巨大な氷柱の集合体――迷宮のような城塞。その中央から、ほんのわずかに紫の光が滲んでいる。  
「ありゃあ、完全に人工の魔力源。……ゼルアークの残党だな」  

杖を構え、一歩踏み出すと、周囲の風が一変した。  
無数の氷の柱がせり上がり、槍のように彼を狙う。  

「おっと」  
軽く指を鳴らした瞬間、氷の槍は溶けて水滴となり、静かに雪へ落ちた。  
その中心に現れたのは、一人の女。  

長い銀髪に、透き通るような肌。紅い瞳が冷たく光り、氷のドレスが月光を跳ね返す。  
彼女の周囲には数十体の氷の魔物が控えていた。  
「人間が、ここまで生きて来た……?」  
低く、澄んだ声。  

「驚かせるつもりはなかったけど、ちょっと通らせてもらいたくてね」  
「この地は魔族の聖域。人間の立ち入りを許した覚えはない」  
「聖域……なるほど、だから妙に空気が澄んでる」  

彼女の表情がわずかに揺れる。  
「その無礼な態度、命に代える覚悟はあるのか?」  
「んー。命っていうほど高価なもんでもないしな」  
「……ふざけるな」  

手をかざした瞬間、氷の魔物たちが一斉に動いた。  
鋭い爪と牙が突き立つより速く、エイルの足元が光に包まれる。  
次の瞬間、時間が止まった。  

氷の獣たちはその場で静止し、粉雪の一粒すら動かない。  
エイルだけが歩み、少女の前まで来る。  

「無用な戦い、やめよう。俺、破壊するために来たんじゃない」  
「……」  
少女の眼がかすかに揺れた。  
「なら、何をしに?」  
「ゼルアークの残した“核”を探してる。お前たちが守ってるって聞いた」  
「核?……なるほど、ではあなた、彼の敵というわけね」  

少女は指を鳴らした。止まっていた時間が流れ出し、氷の獣たちは粉雪のように崩れ落ちる。  

「私はルシア。この氷の地の支配者。そして……元はゼルアークの婚約者だった者」  
「婚約者……え?」  
「私が彼を止めたいの。だが、一度も届かなかった。彼はあの“核”と融合して、私の手の届かぬ存在になってしまったのよ」  

声が震えていた。  
厳しく見えた彼女の瞳の奥に、ほんのわずかな痛みが宿る。  
「彼を憎んでも、愛してもいない。ただ……終わらせたい」  
「……そうか」  
エイルは静かに頷いた。  

「協力しようか」  
「……簡単に言うわね。私を信用していいの?」  
「この目で見てる。お前が本気で止めたいって」  
「見抜けるのね?」  
「人の“迷い”は、意外とわかりやすいもんだよ」  

ルシアは短く息を吐き、微笑とも溜め息ともつかない表情を見せた。  
「不思議な人間ね。力に呑まれず、なお光を保つなんて」  
「いや、その光、しょっちゅう暴発するんだ」  
「ふふ……無自覚最強、というわけ?」  
「言うなって」  

思わず笑い合ったその瞬間、氷の地の中心――城塞の奥から、どす黒い魔力が噴き上がった。  
重たい振動が地面を揺らす。  

「来たな」  
ルシアの顔が一変する。  
「彼の残した守護の欠片、“凍龍”が目覚めたのよ!」  

轟音と共に、氷の塔が崩れ、虹色の光をまとった龍が姿を現した。  
四肢には黒い鎖、瞳は狂気の紫に染まっている。  
「……こりゃ確かに暴走だ」  
エイルが杖を構えるより、ルシアが先に叫んだ。  
「私が押さえる! あなたは封印を!」  
「了解!」  

氷と風の嵐が吹き荒れる。ルシアが氷壁を展開し、龍の咆哮を受け止めるも、圧力で徐々に押し込まれていく。  
その足元をすり抜けるように、エイルは滑るように駆け抜けた。  

「さて……封印ね。方法は知らないけど、抑えればいいんだろ」  
杖を地面に突き刺した瞬間、大地が光った。  
複雑な紋様が雪原一面に広がり、まるで夜空が地上に舞い降りたような光景になる。  

「“修正領域・凍界安定”!」  
言葉と同時に、氷龍が悲鳴をあげた。光が反転し、龍の暴走した魔力が静かに吸い込まれていく。  
爆発音すら存在しない、完璧な消滅。  

風が止んだ。  
雪がしんと降り積もる中、ルシアがゆっくり立ち上がる。  
その頬に一筋、涙が伝っていた。  
「……ありがとう。長い間、やっと……終わらせられた」  
「どういたしまして」エイルは照れくさそうに笑う。  
「でも、また再封印だから。また暴走したら手伝ってね」  
「もう嫌よ……ゆっくり眠りたい」  

ルシアはふとエイルを見上げた。  
「あなた、本当に不思議な人。出会った瞬間から、何もかも見透かされるようだった」  
「そうかな。俺、むしろ人の感情鈍いって言われるけど」  
「ええ。だからこそ安心できるの。あなたは人の心を利用しない」  

ルシアが微笑むその顔は、氷の姫というより、ただ一人の儚い女性のものだった。  
「……あなたが世界を変える、きっとね」  
「勝手に変わってくれた方が楽なんだけどな」  

冗談めかして返すと、ルシアは小さく笑った。  
そしてその身体が淡い光に包まれていく。  
「もう十分。氷の民も眠りにつくわ。ありがとう、エイル」  
「……お休み、ルシア」  

氷の姫の微笑は、雪とともに空に散った。  

一人静かに雪原を歩き出したエイルは、ため息を漏らす。  
「……また、誰かの終わりに居合わせちまったな」  
吹きつける風が、その言葉を飲み込み、静寂だけが残った。  

続く
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