追放された凡人魔導士ですが、実は世界最強の隠しステ持ちでした〜気づかないうちに英雄扱いされて、美少女たちに囲まれていました〜

にゃ-さん

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第20話 最強同士の模擬戦と、一瞬で終わる決着

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魔族領で氷の姫ルシアと出会い、暴走した凍龍を鎮めて三日後。  
エイルが王都に戻る前に立ち寄ったのは、北方防衛線の駐屯地だった。  
吹雪地帯の関所であり、人間と魔族が唯一協定を結ぶ中立地帯でもある。  

「おい、あれが“白の守護者”か?」  
「嘘だろ、噂よりも若いじゃないか」  
「いや、あの人だよ。北の氷原に踏み込んで“氷龍”を一人で消したってやつ」  

エイルが門を通るたびに兵士たちがざわめく。  
当の本人は肩をすくめ、隣で歩くリュナにぼやいた。  
「……なんか最近、歩くだけで騒ぎになる気がする」  
「そりゃ、毎回世界救ってたらそうなるでしょ」  
「仕事帰りくらい静かにしたいのに」  
「残念、あんたは静けさに嫌われてる」  

駐屯地内の指令本部に入ると、そこで待っていたのは銀の鎧をまとった女騎士だった。  
背筋をピンと伸ばし、鋭い碧眼がまっすぐこちらを射抜く。  
氷のような美貌と緊張感のある気配。――彼女は、連合軍最強と噂される将軍、クラウディアだった。  

「あなたがエイル・シェルドね」  
低く透る声。  
「北の異変を単身で鎮めた功績、感服するわ。けれど……実際の実力、確かめてみたい」  
「はぁ?」  

いきなりの提案に、エイルは眉を上げた。  
「確かめるって、今の流れでそうなる!?」  
「私たちは軍だ。報告だけでは信じない。特にあなたの力のような例外は、直接“体験”しなければ判断できない」  
「いや、俺あれただの偶然で――」  
「模擬戦だ」クラウディアは言い切った。  
「手加減は不要。全力で来なさい」  

リュナが頭を抱える。  
「また始まった……。このパターン、何回目だろ」  
エイルは苦笑して肩をすくめた。  
「ま、軽くやるだけね。ほんとに壊さないように気をつけよう」  

――数十分後。  

模擬戦場は、駐屯地の外縁にある凍結した平原。  
風が強く、陽光が氷に反射して眩しい。  
観戦に集まった兵士たちが周囲を取り囲み、次々と声を上げている。  

「クラウディア様なら勝てるぞ!」  
「エイルっての、本当に人間なのか?」  
「史上最強同士の対決だ!」  

緊張感が高まる中、エイルはため息混じりに杖を構える。  
「先に言っとくけど、勝っても何も出ないからね?」  
クラウディアは剣を抜き、穏やかに微笑んだ。  
「ふふ、あなたに借りを作るつもりはないわ。ただ、対等に戦える相手がどれほどいるか確かめたいだけ」  

風が静まる。氷の粒が陽光にきらめき、時間が止まったかのように感じられる。  

「始め!」  

号令の声と同時に、クラウディアが動いた。  
氷の地面を滑るような速さ。肉眼で捉えられない一瞬の突き。  
彼女の剣は超音速で一直線にエイルを貫こうとした。――だが。  

「おっと」  

乾いた音。  
気づけば、クラウディアの剣の切っ先はエイルの衣袖に触れる前に静止していた。  
まるで空気そのものに絡め取られたように、光を放ちながら動かなくなる。  

「な……何を……!」  
「俺もよく説明できないんだけどさ、衝突しそうなもの見ると反射で“止まる”んだ」  

クラウディアの瞳が一瞬、驚愕と――次に興味に変わる。  
「では……この距離なら?」  
剣を引き、魔力を纏わせる。彼女の背から氷の翼が広がり、冷気が空を覆った。  
「奥義・“凍閃輪”!」  

天から降る氷柱が嵐のように降り注ぐ。  
数秒で視界が白に覆われ、観戦していた兵士たちが息を呑んだ。  
「まさか、あのクラウディア様の全力を……!」  
「もう終わりだ!」  

しかし。  

風が止む。  
白煙が晴れたその中心で、エイルは片手を上げていた。  
衣の裾すら焦げていない。  
周囲の氷柱は、まるで彫刻のように宙で静止している。  

「すごい技だね。造形が美しい」  
彼の一言で、氷柱のすべてが粉雪になって崩れ落ちる。  

クラウディアは沈黙した。  
剣を握る手がわずかに震える。  
「……どうして、傷一つないの?」  
「時間の流れを一瞬止めて、落下の角度だけ変えただけ」  
「時を……操った……?」  

沈黙が走る。兵士たちも息をのんで凍りついたように動かない。  
エイルは苦笑を浮かべ、ゆるく杖を回した。  
「もうやめよう。これ以上は模擬戦にならなくなる」  
「……あなた、本当に人間なの?」  
「みんな同じこと言うなぁ。俺、普通に腹も減るし、眠くもなる人間だよ」  

次の瞬間。クラウディアの剣が地面に落ちた。  
彼女はまっすぐ立ったまま、深く頭を下げた。  

「完敗よ。あなたの力、確かめるまでもなかった。……ありがとう。私は、この目で本物の“世界の理”を見た」  
「だからそういう大げさな言い方やめようよ……」  
「いいえ、あなたはもはや“力を測る尺度”の外側にいる。戦場に立つ限り、誰もあなたに敵わない」  

観衆の間にどよめきが走り、次々と歓声が上がる。  
「勝負、一瞬で終わったぞ!」  
「神と人の戦いみたいだった!」  

リュナが横からぶすっとした顔で言う。  
「だから言ったじゃん、軽く終わらせるって。あたしたち見物してる時間、十秒もなかったわよ」  
「うん、少し控えめにやったからね」  
「控えめって単語、あんたの辞書で再定義したほうがいい」  

やがてクラウディアは剣を拾い上げ、再び顔を上げた。  
「皮肉にも、あなたの力があるからこそこの国は守られている。どうか、あなたのその優しさが失われないよう祈らせて」  
「祈りっていうほど立派なもんじゃないけどね。ただ、冷気を出さないよう頑張るよ」  

クラウディアはかすかに笑った。  
「……その軽口が、あなたを人に留めているのね」  

その言葉がなぜか、エイルの胸に静かに残った。  

模擬戦の帰り。  
兵士たちは英雄の凱旋のように彼を見送り、歓声を上げていた。  
だが、エイルの顔は少し複雑だった。  
「リュナ。俺、また証明しちゃったのかな」  
「なにを?」  
「人間って、案外壊れやすいなって」  
「大丈夫よ。あんたがまだ“人間”だってこと、見てたら分かるもん」  
「……そうだといいけど」  

夕暮れの空が赤く染まり、風が遠くの雪原を渡っていく。  
その先には、まだ知らぬ戦いが待っている。  
エイルにとっての“穏やかな日常”は、やはり幻のままだった。  

続く
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