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第22話 勇者パーティ没落劇と、追放の真実
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白の守護者が人魔の絆を結んだその裏で、ひとつの組織が静かに崩壊していた。
かつては王国最大の戦力と称された勇者パーティ〈黎明の剣〉――エイルを追放したあの日から、彼らの栄光はみるみるうちに色褪せていた。
セレス王女の宰相館。
イルゼが机の上に分厚い報告書を置きながら言う。
「……これ、あの勇者一行の現状報告よ。読まない?」
「うーん……正直、あんまり見たくないんだけど」エイルは苦笑しながら書類を指でつついた。
「でも“勇者パーティの没落”って噂は聞こえてるよ」
「事実、ほとんど崩壊ね。残っているのは勇者レオナード本人と回復役だった僧侶エレナだけ。剣士マリナも賢者バルドも、各国で拘束された」
「……拘束って、何やらかしたんだよ」
「魔族との密取引。武器横流し。しかも、相手が例のゼルアーク残党だった」
リュナが尻尾をぴたりと止める。
「え、それってつまり――敵側に加担?」
「本人たちは“力を得るための契約”だと供述しているわ。その意識の先にあったのは、たぶん強さへの渇望。……かつての同僚が一撃で災厄を倒したのを見て、均衡が壊れたのよ」
エイルは何も言わず、無表情で書類をめくった。
そこには、尋問記録の断片が記されている。
――「俺たちの中で、“凡人”だった奴が世界最強になった。笑えるよな。努力が無意味だと証明されたんだ。だったら、力なんてどこからでも取ればいい」
「……俺のせいだな」エイルはぽつりと呟いた。
イルゼが静かに首を振る。
「誰のせいでもないわ。ただ、人は弱い。理不尽を見せられると、正しいものを信じる気力が削がれるのよ」
「それでも、あいつらの選択は間違いだ」
「ええ。だからこそ“勇者パーティ”はもはや存在しない。王家も正式に解体を認めたわ」
窓の外では、穏やかな風が吹いている。
かつて共に戦った者たちの結末を耳にして、エイルの胸の奥は不思議な静けさで満たされていた。
怒りも恨みも、もう無い。ただ“虚しさ”が残るだけ。
夜、彼は月明かりの中で一人立っていた。
王城の屋上。
いつも彼が考えごとをするときに訪れる場所だ。
足音。
「……見つけた」
現れたのはミリアだった。
彼女は以前よりも落ち着いた笑顔を浮かべている。
エイルが視線を向けると、彼女は小さく笑った。
「昔と同じ場所ね。考えごとする時、いつも一番高いところに来る」
「まぁ、景色はいいからな」
「あなたの噂、もう国中に広まってるわ。“白の守護者”と“人魔をつなぐ賢者”。これ以上ない称号ね」
「皮肉だな。昔は“役立たず”呼ばわりだったのに」
二人の間に、静かな時間が流れる。
ミリアがゆっくりと息を吐いた。
「……エイル。レオナード、明日処刑される」
「……やっぱりか」
「彼、自分から望んだの。“罪を償うには命を捧げるしかない”って」
「真面目すぎるやつだよ、ほんと……」
エイルはしばらく空を見つめたあと、ぽつりと呟いた。
「俺が行く」
「え?」
「最後くらい、見届ける。仲間だったんだから」
◇
翌朝、王都西広場。
民衆が遠巻きに見守る中、処刑台の上で勇者レオナードが静かに立っていた。
その顔に怯えも後悔もない。
「勇者レオナード、罪状――国家反逆および魔族への加担。よって、王の名により――」
宣告が読み上げられようとした時、風が流れた。
人々の視線が動く。白衣の青年がゆっくりと壇上へ歩いてくる。
「……処刑はやめろ」
衛兵たちは動けなかった。
エイルの放つ圧力が、彼らの足を縫いとめる。
「止まれ、賢者エイル! 王命に――」
「王とは話をつけてある。……形式は、もう不要だろ」
エイルの言葉に、広場は静まり返った。
レオナードが目を見開く。
「……来たのか」
「約束しただろ。二度と仲間を見捨てないって」
「……俺に救われる資格なんてない」
「資格ってなんだよ。助けるのにそんなもん関係ない」
沈黙。
やがてレオナードは小さく笑い、膝を折った。
「……俺は勇者失格だった。でも、お前がいれば、この国は大丈夫だ」
「そりゃどうも。ただ俺は勇者じゃないよ。どこまでいっても凡人だ」
「その凡人に憧れて、俺は勇者になったんだよ」
エイルは無言のまま目を閉じ、そっと杖を彼の肩に当てた。
「お前の罪、俺の名で消す」
柔らかな光が周囲に広がり、群衆が息を呑む。
一瞬の後、レオナードの首輪に刻まれた呪印が淡く光って霧散した。
「――な……っ!? あれを解除できた!?」
「白の守護者の名は伊達じゃねぇ!」
人々の叫びが上がる中、エイルは静かに言う。
「罰はもう与えられた。あとは生きて償えばいい。それでいいだろ」
レオナードの目から、静かに涙がこぼれた。
「……ありがとう、エイル」
エイルは軽く笑い、振り返った。
「行け。やり直せ。……お前なら、きっと大丈夫だ」
群衆がざわめく中、処刑は白紙となった。
王の特赦として記録上は「被赦免」となり、同時に勇者制度そのものが解体された。
夜。
城下町の酒場の灯りの下で、リュナとミリアが小声で話していた。
「やりすぎじゃない? 国の法律変えちゃったわよ」
「でもあの人らしいじゃない。助けられるなら助ける。それだけ」
扉の外で風が吹き、エイルの声が聞こえた。
「……ようやく一つの終わりを見届けられたな」
リュナが笑う。
「終わり? あなた、まだ十くらい“未解決案件”抱えてるけど?」
「えぇ……」エイルが苦笑いを浮かべる。
「明日こそ、ゆっくり寝られるかなって思ったんだけどな」
「無理でしょ。ほら、聖女様がまた相談あるって」
ミリアがにっこり微笑みながら近づく。
「ね、エイル。次は“災厄の核”の再調査なんだけど」
「……俺の平穏ってどこに売ってます?」
笑い声が夜空に溶けた。
そして、彼がまだ知らぬ新たな闇が、静かに国の地下で蠢き始めていた。
続く
かつては王国最大の戦力と称された勇者パーティ〈黎明の剣〉――エイルを追放したあの日から、彼らの栄光はみるみるうちに色褪せていた。
セレス王女の宰相館。
イルゼが机の上に分厚い報告書を置きながら言う。
「……これ、あの勇者一行の現状報告よ。読まない?」
「うーん……正直、あんまり見たくないんだけど」エイルは苦笑しながら書類を指でつついた。
「でも“勇者パーティの没落”って噂は聞こえてるよ」
「事実、ほとんど崩壊ね。残っているのは勇者レオナード本人と回復役だった僧侶エレナだけ。剣士マリナも賢者バルドも、各国で拘束された」
「……拘束って、何やらかしたんだよ」
「魔族との密取引。武器横流し。しかも、相手が例のゼルアーク残党だった」
リュナが尻尾をぴたりと止める。
「え、それってつまり――敵側に加担?」
「本人たちは“力を得るための契約”だと供述しているわ。その意識の先にあったのは、たぶん強さへの渇望。……かつての同僚が一撃で災厄を倒したのを見て、均衡が壊れたのよ」
エイルは何も言わず、無表情で書類をめくった。
そこには、尋問記録の断片が記されている。
――「俺たちの中で、“凡人”だった奴が世界最強になった。笑えるよな。努力が無意味だと証明されたんだ。だったら、力なんてどこからでも取ればいい」
「……俺のせいだな」エイルはぽつりと呟いた。
イルゼが静かに首を振る。
「誰のせいでもないわ。ただ、人は弱い。理不尽を見せられると、正しいものを信じる気力が削がれるのよ」
「それでも、あいつらの選択は間違いだ」
「ええ。だからこそ“勇者パーティ”はもはや存在しない。王家も正式に解体を認めたわ」
窓の外では、穏やかな風が吹いている。
かつて共に戦った者たちの結末を耳にして、エイルの胸の奥は不思議な静けさで満たされていた。
怒りも恨みも、もう無い。ただ“虚しさ”が残るだけ。
夜、彼は月明かりの中で一人立っていた。
王城の屋上。
いつも彼が考えごとをするときに訪れる場所だ。
足音。
「……見つけた」
現れたのはミリアだった。
彼女は以前よりも落ち着いた笑顔を浮かべている。
エイルが視線を向けると、彼女は小さく笑った。
「昔と同じ場所ね。考えごとする時、いつも一番高いところに来る」
「まぁ、景色はいいからな」
「あなたの噂、もう国中に広まってるわ。“白の守護者”と“人魔をつなぐ賢者”。これ以上ない称号ね」
「皮肉だな。昔は“役立たず”呼ばわりだったのに」
二人の間に、静かな時間が流れる。
ミリアがゆっくりと息を吐いた。
「……エイル。レオナード、明日処刑される」
「……やっぱりか」
「彼、自分から望んだの。“罪を償うには命を捧げるしかない”って」
「真面目すぎるやつだよ、ほんと……」
エイルはしばらく空を見つめたあと、ぽつりと呟いた。
「俺が行く」
「え?」
「最後くらい、見届ける。仲間だったんだから」
◇
翌朝、王都西広場。
民衆が遠巻きに見守る中、処刑台の上で勇者レオナードが静かに立っていた。
その顔に怯えも後悔もない。
「勇者レオナード、罪状――国家反逆および魔族への加担。よって、王の名により――」
宣告が読み上げられようとした時、風が流れた。
人々の視線が動く。白衣の青年がゆっくりと壇上へ歩いてくる。
「……処刑はやめろ」
衛兵たちは動けなかった。
エイルの放つ圧力が、彼らの足を縫いとめる。
「止まれ、賢者エイル! 王命に――」
「王とは話をつけてある。……形式は、もう不要だろ」
エイルの言葉に、広場は静まり返った。
レオナードが目を見開く。
「……来たのか」
「約束しただろ。二度と仲間を見捨てないって」
「……俺に救われる資格なんてない」
「資格ってなんだよ。助けるのにそんなもん関係ない」
沈黙。
やがてレオナードは小さく笑い、膝を折った。
「……俺は勇者失格だった。でも、お前がいれば、この国は大丈夫だ」
「そりゃどうも。ただ俺は勇者じゃないよ。どこまでいっても凡人だ」
「その凡人に憧れて、俺は勇者になったんだよ」
エイルは無言のまま目を閉じ、そっと杖を彼の肩に当てた。
「お前の罪、俺の名で消す」
柔らかな光が周囲に広がり、群衆が息を呑む。
一瞬の後、レオナードの首輪に刻まれた呪印が淡く光って霧散した。
「――な……っ!? あれを解除できた!?」
「白の守護者の名は伊達じゃねぇ!」
人々の叫びが上がる中、エイルは静かに言う。
「罰はもう与えられた。あとは生きて償えばいい。それでいいだろ」
レオナードの目から、静かに涙がこぼれた。
「……ありがとう、エイル」
エイルは軽く笑い、振り返った。
「行け。やり直せ。……お前なら、きっと大丈夫だ」
群衆がざわめく中、処刑は白紙となった。
王の特赦として記録上は「被赦免」となり、同時に勇者制度そのものが解体された。
夜。
城下町の酒場の灯りの下で、リュナとミリアが小声で話していた。
「やりすぎじゃない? 国の法律変えちゃったわよ」
「でもあの人らしいじゃない。助けられるなら助ける。それだけ」
扉の外で風が吹き、エイルの声が聞こえた。
「……ようやく一つの終わりを見届けられたな」
リュナが笑う。
「終わり? あなた、まだ十くらい“未解決案件”抱えてるけど?」
「えぇ……」エイルが苦笑いを浮かべる。
「明日こそ、ゆっくり寝られるかなって思ったんだけどな」
「無理でしょ。ほら、聖女様がまた相談あるって」
ミリアがにっこり微笑みながら近づく。
「ね、エイル。次は“災厄の核”の再調査なんだけど」
「……俺の平穏ってどこに売ってます?」
笑い声が夜空に溶けた。
そして、彼がまだ知らぬ新たな闇が、静かに国の地下で蠢き始めていた。
続く
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