追放された凡人魔導士ですが、実は世界最強の隠しステ持ちでした〜気づかないうちに英雄扱いされて、美少女たちに囲まれていました〜

にゃ-さん

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第27話 最終決戦前夜、それぞれの想いと告白ラッシュ

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王都は今、静寂に包まれていた。  
昼間は人や兵士たちの声で賑わうはずの街が、夕刻になるとまるで風そのものが息を潜める。  
赤く染まる空の下、塔の頂にひとりの青年――エイル・シェルドが立っていた。  

薄い風がローブをなびかせる。  
彼の視線の先には、街の遥か彼方、空に走る黒い亀裂。  
それは空間を貫きながら、徐々に広がっていた。  
「まるで世界が、限界を訴えてるみたいだな」  
呟きは風に消え、誰にも届かない。  

やがて背後から静かな足音がした。  
「……ここにいたのね」  
振り返るとセレス王女がいた。  
夜のような藍色のドレスに白金のマントを羽織り、冠は外している。  
優雅でありながら、どこか少女のような表情をしていた。  

「いよいよ明日ね。黒点――“断層域”の中心に出る」  
「ああ」  
「怖くはない?」  
「怖いよ」  
エイルの即答に、セレスが思わず笑う。  
「あなたでも、怖いことあるんだ」  
「そりゃああるよ。俺は凡人だもん」  
「ふふっ……その答えが聞けて少し安心したわ」  

沈黙の中で、風がまた通り抜ける。  
セレスは夜空を見上げながら言葉を続けた。  
「……ねえ、エイル」  
「ん?」  
「明日、もし……生きて戻ったら、私の隣に立ってくれる?」  
その声は、王女ではなくひとりの女性のものだった。  
エイルは一瞬、驚いたように目を見開き、視線を逸らした。  
「俺、そんな立派な人間じゃないよ」  
「違うの。私は“国の王女”としてじゃなく、“一人のセレス”として言ってるの」  
彼女の横顔に夕陽が差し、金糸の髪がきらめく。  
「あなたといると、怖くなくなるの。理由もわからないけど、それだけは確か」  
「……俺なんかでいいのか?」  
「“なんか”じゃない。世界を守る英雄じゃなくて、あなた自身に惹かれてるの」  

エイルは言葉を失った。  
けれど彼女の手がそっと彼の手を握る。  
温かかった。  
「……ありがとう、セレス。でも、俺はまだやることがある」  
「わかってる。だからいいの。終わったら、答えをちょうだい」  

その言葉を残して、彼女は階段へと戻っていく。  
ローブの裾が夕日に溶けるように消えた。  

続いて現れたのはリュナだった。  
彼女は耳を揺らし、ふてぶてしい笑みを浮かべる。  
「なんだ、ロマンチックな雰囲気に浸ってるとこ悪いね」  
「盗み聞きしてた?」  
「たまたま通りかかっただけ。……たまたまね」  
「どの道、聞いてたんだな」  
「そりゃそうでしょ。城中、ピリピリしてるのに一人でボーッとしてたら心配になるよ」  

彼女は少し真面目な顔になる。  
「明日、行くんでしょ? 断層域へ」  
「うん。俺じゃなきゃ、どうにもならない場所だ」  
「……分かってる。でもね、勝手に死んだら許さないから」  
「死なないよ。まだ散歩も飯もうまいものも残ってる」  
「ほんと、ズルいんだから。  
あんた、いつも軽口叩いてるけど……誰よりも人の痛みに敏感なんだもん。そういうとこ、憎めない」  

ぎゅっとリュナがエイルの袖を掴む。  
「……帰ってきたらさ、またあの辺境の村に来てよ。あんたが“凡人らしい暮らしをしたい”って言ってた場所。  
あたし、そこに家建てといたから」  
「え?」  
「仮拠点ってやつ。……まぁ、泊まってくれたらそれでいいんだけど」  
「ありがとう、リュナ」  
「礼はいらないから。絶対、生きて」  

そのとき、廊下の向こうで足音が三つ重なった。  
ミリア、ルシア、そしてイルゼだった。  
三人とも無言で階段を上ってくる。  
「こんな時間に集まるなんて、不思議な縁ね」イルゼがため息をつく。  
ルシアが笑みを浮かべる。  
「縁じゃなくて“引力”でしょう。……彼がいる限り、誰も離れられない」  

ミリアは何も言わず、ただ彼の正面に立った。  
「みんな、顔怖いよ?」エイルが苦笑する。  
「冗談を言っている場合ではないの」ミリアの瞳が少し潤む。  
「あなた、明日命を懸けるでしょう?」  
「いや、懸けるというか……行って戻るだけだから」  
「その“だけ”を信じるのが一番怖いのよ!」  

彼女が珍しく声を荒らげた。  
するとルシアが前に出る。  
「でも止めても無駄。彼は世界を護るって理屈じゃなく、“誰か”を救うためにしか動かないの。  
その“誰か”が、今はこの世界全てなのよ」  
「……ずるい言い方ね」イルゼが小さく笑う。  
「そんな人を、私たちはずっと支えてる。もう後戻りなんて出来ないわね」  

ルシアは彼に近づき、そっと頬に触れた。  
冷たくも柔らかい手だった。  
「もし、あなたがこの戦いで本当にすべてを終わらせたら……そのときは私の国で休みなさい。氷の宮殿ならば、どんな疲れも凍らせて癒すわ」  
「仰々しいな。でも、ありがと」  

ミリアも涙を拭いながら笑う。  
「私は祈ってる。神にじゃなく、あなたに」  
「願われる側ってプレッシャーだな」  
「だから笑って返して。いつもの調子でいいの」  

イルゼは二人の様子を見て呆れたように眉を下げた。  
「もうここまでくると、恋愛の戦争ね」  
「え、戦争……?」エイルはさらに顔を青ざめさせた。  
「あなたの罪ね、エイル。誰にでも優しい顔をするから」  

五人の女性に囲まれた彼は、まるで“世界の中心”みたいに立っていた。  
その姿を見て、リュナが小さく笑う。  
「ま、これはこれでいいでしょ。あんたがこの世界の希望なんだから」  

その夜。  
王都全体が夜の帳に沈むころ、雲の上に黒い光が蠢いた。  
断層域――それは空間の歪みではなく、並行世界への“道”だと観測された。  
もし開けば、世界ごと呑み込まれる。  

各国の代表は戦慄しながらも、ただひとり信じていた。  
明日、彼が風を裂いてそこに立つことを。  

塔の窓辺で、エイルは再び空を見上げた。  
「さて……これで最後、にしたいな。  
みんな笑って暮らせる世界、そろそろ作っちゃおうか」  

彼の目に映る黒い裂け目は、ゆっくりと脈動していた。  
まるで、彼を“迎える”かのように。  

そして夜が明ける。  
世界が息を呑む最終決戦の朝が、静かに始まろうとしていた。  

続く
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