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第19話 一瞬で沈む最強の傭兵団
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空を裂く光の奔流が消えたとき、草原は焦げたような匂いで満ちていた。
天界の使徒エルメリアの姿も、嵐が去るように霧散している。
風が止まり、静かな時間の中でリリアが息を吐いた。
「……行った、のか?」
「一時的に退いただけでしょう」
フィオナが冷静に分析する。
「神界の波動が途切れたわけではありません。むしろ……周囲に監視の陣が張られています」
レオンは空を見上げた。
青空が広がっているはずなのに、見えない天の網が張り巡らされている感覚があった。
彼がその正体を探ろうとする前に、リリアが草原の奥を指さす。
「……誰か来る」
乾いた足音が重なり、大地の向こうから黒ずんだ影が現れた。
鎧をまとい、獣のような目をした兵士たちが列を成して歩いてくる。
その背後に立つのは、背丈よりも長い槍を携えた巨漢だった。
「まさか、傭兵団……!?」フィオナが目を細める。
「“暴風の牙”――神国直下の討伐組織です。かつて魔王国を滅ぼした最強の傭兵集団……」
巨漢が唸るように笑った。
「おお、噂の“創世の子”ってのはお前か。俺は第一師団長ダルガスだ。命令だ。今すぐその体を神に返せ」
「……命令?」レオンが眉を上げる。
「大陸中の神官がてめえを異端だと認めた。お前の存在そのものが均衡を壊す。死ねと言われりゃ、殺すだけだ!」
リリアが一歩前に出る。
剣を指先で軽く回し、冷ややかに笑う。
「自分の信念もなく戦うのね。哀れな傭兵だこと」
「はははっ、いい女だ。骨の一本でももらってやるよ!!」
風が鳴った瞬間、戦闘が始まった。
槍が地を叩くたびに衝撃波が生まれ、草原が盛り上がる。
リリアは瞬時に跳び退き、剣で風の刃を切り裂いた。
「くっ……!普通の人間じゃない、魔法陣を纏ってる!」
「“天鎧士”でしょう」フィオナが翼を広げ、空から竜の光を放つ。
だが、傭兵団の兵士たちも光の障壁を展開し、容易には崩れなかった。
「なるほど。神界の加護で強化されてるのか」
レオンがひとり呟く。
「坊主、てめぇは動くなよ!お前を捕らえりゃ、神から金貨一千万!」
「そんなことで命張るなんて……割に合わないと思うけどな」
レオンの口調は柔らかかった。
だが、その次の瞬間、彼の足元に淡い光が広がる。
草原の花が一斉に咲き、空気が震えた。
「なっ……!」
リリアもフィオナも、その変化に息を呑む。
レオンが目を細めて言う。
「もうこれ以上、誰も傷つけさせない」
一呼吸の間に、風景が変わった。
空が金色に輝き、草が伸び、花々が傭兵たちの足元を包み込む。
彼らは身動きを取ろうとするが、踏むたびに大地が柔らかく沈み、足を取られていく。
「なんだこれは……!?」
「魔法じゃねぇ……世界そのものが変わってやがる!」
レオンの加護が発動していた。
世界樹の祝福――“命の加護”が、戦場そのものを生命の楽園に変える。
「せめて少しだけ眠ってください」
その声と同時に、大地から光の蔦が伸びた。
金色の鞭が音も立てずに傭兵たちを捕らえ、一人残らず地面に縫いつけた。
抵抗する者もいたが、その力は全て吸い取られて草に変わる。
巨漢ダルガスが咆哮を上げ、槍を構えた。
「ふざけるなぁああああ!」
彼の全身に刻まれた紋章が赤く燃え上がる。
「“神威解放・戦鎧ノ式”!」
魔力が爆発し、体躯がさらに膨張する。
地面を踏み砕きながら、彼は雷光のごとき速さで突進した。
だが、レオンは一歩も動かない。
彼の瞳が淡く光ると、世界が静止したように風が止んだ。
残響だけが耳に残り、次の瞬間には――
巨漢の槍が粉々に砕けて消えた。
何が起きたのか、誰にもわからなかった。
ほんの一瞬、ダルガスの周囲の空気が歪んだのだ。
重力も時間も、何もかもがそこだけ消し飛んでいた。
巨漢はそのまま地に手をつき、呆然と呟く。
「う……うそだろ……俺の槍が、砕けた……?」
レオンは静かに言う。
「誰も死なないなら、それでいい。これ以上戦えないなら、撤退してください」
彼の声に波動が乗り、空気が震える。
傭兵たちは次々に武器を手放し、膝をついた。
その光景は圧倒的だった。
数百の戦士が一瞬で沈黙し、風の音さえも消えていく。
リリアが呆れたように笑った。
「“世界最強の傭兵団”が、たった一言で黙ったわね」
「殺気も感じなかった……。主、あなたの力はもう、理そのものに到達しています」フィオナが感嘆する。
「でも、まだ俺の意思は変わらないですよ。できるなら戦いたくない」
「そう言えるうちはいいけど……次はそうはいかないわ」リリアが険しい目を向ける。
遠くの空に、今度は別の光が灯り始めていた。
炎のように揺れる巨大な柱。その先端に、見覚えのある人影。
白銀の装甲と黄金の瞳を持つ男――勇者カイル。
「……カイル」
レオンの声が低く響く。
彼の胸で静かに光が脈打つ。
上空から、堕天の使徒エルメリアの笑い声が聞こえた。
「よくぞ生き延びましたね、創世の子。さあ、神が定めた最終の試練を始めましょう!」
光が爆ぜ、草原全体が揺れる。
フィオナが翼を広げ、リリアが剣を構える。
そしてレオンは静かに息を整えた。
「避けられないみたいだね。なら――会いに行こうか」
空と地が繋がり、雷鳴が鳴り響く。
神と人とが相まみえる運命の戦いが、ここに幕を開けようとしていた。
続く
天界の使徒エルメリアの姿も、嵐が去るように霧散している。
風が止まり、静かな時間の中でリリアが息を吐いた。
「……行った、のか?」
「一時的に退いただけでしょう」
フィオナが冷静に分析する。
「神界の波動が途切れたわけではありません。むしろ……周囲に監視の陣が張られています」
レオンは空を見上げた。
青空が広がっているはずなのに、見えない天の網が張り巡らされている感覚があった。
彼がその正体を探ろうとする前に、リリアが草原の奥を指さす。
「……誰か来る」
乾いた足音が重なり、大地の向こうから黒ずんだ影が現れた。
鎧をまとい、獣のような目をした兵士たちが列を成して歩いてくる。
その背後に立つのは、背丈よりも長い槍を携えた巨漢だった。
「まさか、傭兵団……!?」フィオナが目を細める。
「“暴風の牙”――神国直下の討伐組織です。かつて魔王国を滅ぼした最強の傭兵集団……」
巨漢が唸るように笑った。
「おお、噂の“創世の子”ってのはお前か。俺は第一師団長ダルガスだ。命令だ。今すぐその体を神に返せ」
「……命令?」レオンが眉を上げる。
「大陸中の神官がてめえを異端だと認めた。お前の存在そのものが均衡を壊す。死ねと言われりゃ、殺すだけだ!」
リリアが一歩前に出る。
剣を指先で軽く回し、冷ややかに笑う。
「自分の信念もなく戦うのね。哀れな傭兵だこと」
「はははっ、いい女だ。骨の一本でももらってやるよ!!」
風が鳴った瞬間、戦闘が始まった。
槍が地を叩くたびに衝撃波が生まれ、草原が盛り上がる。
リリアは瞬時に跳び退き、剣で風の刃を切り裂いた。
「くっ……!普通の人間じゃない、魔法陣を纏ってる!」
「“天鎧士”でしょう」フィオナが翼を広げ、空から竜の光を放つ。
だが、傭兵団の兵士たちも光の障壁を展開し、容易には崩れなかった。
「なるほど。神界の加護で強化されてるのか」
レオンがひとり呟く。
「坊主、てめぇは動くなよ!お前を捕らえりゃ、神から金貨一千万!」
「そんなことで命張るなんて……割に合わないと思うけどな」
レオンの口調は柔らかかった。
だが、その次の瞬間、彼の足元に淡い光が広がる。
草原の花が一斉に咲き、空気が震えた。
「なっ……!」
リリアもフィオナも、その変化に息を呑む。
レオンが目を細めて言う。
「もうこれ以上、誰も傷つけさせない」
一呼吸の間に、風景が変わった。
空が金色に輝き、草が伸び、花々が傭兵たちの足元を包み込む。
彼らは身動きを取ろうとするが、踏むたびに大地が柔らかく沈み、足を取られていく。
「なんだこれは……!?」
「魔法じゃねぇ……世界そのものが変わってやがる!」
レオンの加護が発動していた。
世界樹の祝福――“命の加護”が、戦場そのものを生命の楽園に変える。
「せめて少しだけ眠ってください」
その声と同時に、大地から光の蔦が伸びた。
金色の鞭が音も立てずに傭兵たちを捕らえ、一人残らず地面に縫いつけた。
抵抗する者もいたが、その力は全て吸い取られて草に変わる。
巨漢ダルガスが咆哮を上げ、槍を構えた。
「ふざけるなぁああああ!」
彼の全身に刻まれた紋章が赤く燃え上がる。
「“神威解放・戦鎧ノ式”!」
魔力が爆発し、体躯がさらに膨張する。
地面を踏み砕きながら、彼は雷光のごとき速さで突進した。
だが、レオンは一歩も動かない。
彼の瞳が淡く光ると、世界が静止したように風が止んだ。
残響だけが耳に残り、次の瞬間には――
巨漢の槍が粉々に砕けて消えた。
何が起きたのか、誰にもわからなかった。
ほんの一瞬、ダルガスの周囲の空気が歪んだのだ。
重力も時間も、何もかもがそこだけ消し飛んでいた。
巨漢はそのまま地に手をつき、呆然と呟く。
「う……うそだろ……俺の槍が、砕けた……?」
レオンは静かに言う。
「誰も死なないなら、それでいい。これ以上戦えないなら、撤退してください」
彼の声に波動が乗り、空気が震える。
傭兵たちは次々に武器を手放し、膝をついた。
その光景は圧倒的だった。
数百の戦士が一瞬で沈黙し、風の音さえも消えていく。
リリアが呆れたように笑った。
「“世界最強の傭兵団”が、たった一言で黙ったわね」
「殺気も感じなかった……。主、あなたの力はもう、理そのものに到達しています」フィオナが感嘆する。
「でも、まだ俺の意思は変わらないですよ。できるなら戦いたくない」
「そう言えるうちはいいけど……次はそうはいかないわ」リリアが険しい目を向ける。
遠くの空に、今度は別の光が灯り始めていた。
炎のように揺れる巨大な柱。その先端に、見覚えのある人影。
白銀の装甲と黄金の瞳を持つ男――勇者カイル。
「……カイル」
レオンの声が低く響く。
彼の胸で静かに光が脈打つ。
上空から、堕天の使徒エルメリアの笑い声が聞こえた。
「よくぞ生き延びましたね、創世の子。さあ、神が定めた最終の試練を始めましょう!」
光が爆ぜ、草原全体が揺れる。
フィオナが翼を広げ、リリアが剣を構える。
そしてレオンは静かに息を整えた。
「避けられないみたいだね。なら――会いに行こうか」
空と地が繋がり、雷鳴が鳴り響く。
神と人とが相まみえる運命の戦いが、ここに幕を開けようとしていた。
続く
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