平凡な村人だと思われていた俺、実は神々が恐れる最強存在でした〜追放されたけど、無自覚チートで気づけば世界の頂点〜

にゃ-さん

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第30話 そして、穏やかな日常へ

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長い戦いが終わってから、季節は二度の春を迎えていた。  
かつて戦火に焼かれた大地は青の草原に戻り、折れた木々は新たな芽を伸ばしている。  
かつて神々に怯えていた民たちは笑いながら子を抱き、再び日常という奇跡の中を歩き始めていた。  

レオンは、その景色を丘の上から見つめていた。  
吹く風は温かく、どこか胸の奥をくすぐるような匂いがした。  
目を閉じれば、かつての戦いの日々よりもあまりに静かで、信じられないほど穏やかだ。  

「ねぇ、レオン。ぼうっとしてないで手伝ってよ」  
後ろから聞こえた声に振り向く。  
リリアがエプロン姿で手を腰に当て、呆れながら立っていた。  
「まさか世界救った英雄様が、洗濯干しをサボるとはね」  
レオンは頭を掻きながら笑った。  
「世界は救えても、洗濯物には勝てないんだよ」  
「都合のいい言い訳を言わない」  
彼女が呆れたように返し、しかしその唇は僅かに笑っていた。  

少し離れた場所では、フィオナが子どもたちに飛行術を教えていた。  
白い翼はすっかり日常の一部となり、子どもたちは憧れの眼差しでその姿を追う。  
「少しだけ風に心を預けるのです。その瞬間、世界が広がるでしょう」  
「はーい!」  
フィオナの声に元気な返事が飛び、笑い声が空へ溶けていく。  

「フィオナ先生、完全に村の人気者ね」  
「うん。彼女がいるだけで、みんなが安心する。きっともう“竜”とか“神の加護”とかの言葉はいらないんだ」  
レオンの言葉にリリアが頷いた。  

やがて、アメリアもやってきた。  
彼女は相変わらず巫女服を身に着けてはいるものの、以前のような影はもうない。  
その手には小さな花束。  
「セレスの花、咲きました」  
それは女神の涙から生まれた花。淡い光を放ち、触れると微かに温かい。  
リリアが目を細める。  
「ここまで来てまだ枯れないなんて、やっぱり奇跡そのものよね」  
「奇跡はね、誰かが見ていてくれる限り、何度でも起こるんだ」  
レオンがそう言うと、アメリアは優しく笑った。  

「ねぇレオン」  
「どうした?」  
「あなた、これからどうするの?」  
「どう、って?」  
「この村を出て、また旅に出るつもりなの?」  
質問にレオンは少しだけ黙り、遠くの空を見た。  
そこには、雲ひとつない青が広がっている。  

「正直に言えば、迷ってるんだ。  
世界は平和になった。でも、まだどこかで誰かが泣いている気がしてね。  
その声を無視できない」  
「相変わらずね。本当に、休む気ないんだ」リリアが肩をすくめた。  
「でも、わかるわ。  
あんたが動かなくなったら、この世界まで止まりそうな気がするのよ」  

その言葉に、三人の笑い声が重なった。  
静かで温かい時間。昔は信じられなかった日常が、確かにそこにあった。  

ひと仕事を終え、日が傾き始めたころ。  
丘の上から見た村は灯火の集まりのように美しかった。  
人々の笑い声、夕餉の匂い、犬の吠える声。  
生きている音がそこかしこにあふれていた。  

レオンは寝転がり、空を見上げた。  
茜色の空に小さな星がまたたき始める。  
その星のひとつが、どこか懐かしい光を宿しているように見えた。  

「カイル……見てるか」  
心の中で呼びかける。  
「今は……きっと、こうして笑ってる俺たちを見守ってくれてるんだろう?」  
星が瞬き、まるで返事をするように光った。  

フィオナが静かに隣に座る。  
「主。神界の変化について報告があります」  
「ん?」  
「先ほど、アルケイオスの神印が観測されました。完全に崩壊はしていません。  
彼は新しい時代の記録者として生き残っているようです」  
「そうか。なら、もう神も“人”と同じだな」  
「ええ。神もまた動き、学ぶ。あなたが願った通りです」  

レオンは微笑む。  
「なら、俺たちはそれを見守る番だな」  

リリアが草の上に腰を下ろして顔を覗き込む。  
「見守る、ね。じゃあ、あんたが次に旅に出るとしたら?」  
「んー……魔族の子たちに畑の作り方でも教えに行こうかな」  
「地味すぎる」  
「でも、そういうのが一番いいんだよ」  

夜の帳が降りていく。  
虫の声が響き、焚き火の小さな炎が、またひとつ揺れた。  
レオンたちはそれを囲み、静かに話を続けた。  
これまでの旅、それぞれの罪、それでも選んできた癒しと未来。  

「レオン」アメリアが言う。  
「私、あなたに救われたからこそ学んだことがあるの。  
“優しさ”は人を幸せにすると同時に、痛みも抱かせる。  
でもそれでも、人は優しさを選ぶ生き物なんだって」  
「うん。結局それしか知らないからね。  
だからこそ、俺たちはきっとまた歩けるんだと思う」  

レオンが立ち上がる。  
夜明け前の空が静かに青く染まり始めていた。  
東の地平には、夜明けを運ぶ風が吹く。  

「そろそろ眠ろう。明日もきっと忙しい。フィオナの教室も子どもでいっぱいだし、リリアの畑は手が足りない。  
アメリアは……また祈ってばかりだと焼き魚焦がすぞ」  
「うるさい!」  
「主よ、釣りの成果を見せつけてあげては?」  
「それも恥ずかしい!」  

笑いながら駆け出す彼女たちを見送り、レオンは最後に丘に残った。  
遠くに見える村の屋根に、朝日の光が差し込み始める。  

「……これでいい」  

彼は小さく呟き、草の上に座った。  
その胸の中では、あの世界樹の鼓動がまだ微かに響いている。  
心の奥に宿る淡い光が、彼の中で静かに脈を打つ。  

「俺はもう、創世の子じゃない。ただ――この世界のひとりとして、みんなと生きていくだけで十分だ」  

風が頬を撫でる。  
鳥たちが空へと羽ばたいていく。  

穏やかな日常は、終わることのない再生の形。  
そしてレオンという名の青年もまた、その輪の中でひとりの人間として笑っている。  

神々が見上げる世界。  
それはもう、かつての神の国ではなく、“人の手で紡がれる未来”に変わっていた。  

レオンは空を見上げて、最後に小さく呟く。  
「……ありがとう。ここに生きることを、選べたから」  

その言葉を乗せた風が、優しく吹き抜ける。  
やがて、それは緑の海を渡り、彼が救ったすべての地へと広がっていった。  

――そして、穏やかな日常へ。  

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