追放された最弱村人、実は世界最強でした 〜神々に愛された無自覚チート、気づいたら聖女も魔王も嫁希望だった件〜

uzura

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第5話 襲いくる森の魔獣

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夜がすっかり明けきる前、薄明りの中でリオは慌ただしく動いていた。  
昨夜、空から落ちてきた少女――その身体は、治癒魔法によって外傷は癒えたものの、体力はまだ戻っていない。  
寝息を立てる彼女を見下ろしながら、リオは焚き火を静かにくべた。  

「……やっぱり綺麗な髪だな。」  
淡い金の髪が炎の揺らめきに照らされ、柔らかく輝いていた。  
彼女の顔には静けさと儚さが混じっている。  
「リオ、惚れたにゃ?」  
肩の上でシリスがにやりと笑う。尻尾がわざとらしく揺れていた。  
「ば、ばか言うな。ただの観察だ。」  
「顔が赤いにゃ。にゃはは、図星にゃ。」  
「……シリス、静かにしないと飯抜きだぞ。」  
「うぐっ……それは困るにゃ。」  
二人の軽口に、沈んだ夜の空気が少しだけ和む。  

ふと少女が小さく身じろぎをした。  
眉を寄せ、うなされるように小さく声を漏らす。  
「……神よ……どうか……もう、これ以上……」  
痛々しいほどの声に、リオの胸が締めつけられた。  
彼はそっと少女の手を握る。温もりを感じさせたかった。  

やがて陽が昇り、鳥のさえずりが森に満ちていく。  
少女がゆっくりとまぶたを開いた。  
「……ここは……?」  
「落ちた場所のすぐ近くだ。傷は治ってる。少しは楽になったか?」  
リオの声に、彼女は一瞬警戒するように身を起こしたが、すぐに倒れ込んだ。  
「まだ無理するな。怪我が治ったばかりだ。」  
「あなた……昨日、私を助けてくれた方ですね。」  

少女の青い瞳が炎を映す。  
声は柔らかく、礼を尽くすように響いた。  
「私はリア……聖都ルミナス・テイルの聖女です。」  
その言葉に、リオの胸が微かに鳴った。  
リア――偶然とは思えない名。追放前、同じ名を持つ仲間がいた。  

「……リア、ね。」  
「何か?」  
「いや、少し思い出しただけだ。……お前、空から落ちてきたの覚えてるか?」  
「……あれは、“儀式”の最中でした。天空神殿で祈りを捧げていたとき、魔力の流れが乱れて……気づけば、光の裂け目に飲み込まれていました。」  
彼女の表情に翳りがさす。  
「何者かの干渉です。神殿の結界は外部から破れない。……つまり、内通者がいたのでしょう。」  

リオとシリスは無言で顔を見合わせた。  
「――勇者一行かもしれないにゃ。」  
シリスの小声に、リオも眉をしかめる。  
「まさかとは思うが……ありえる。」  
勇者が手にした聖剣は神殿から授けられたもの。その儀式に彼女が関わっていたのなら、利害が交わるのは当然だ。  

「リア、しばらく動けそうにない。ここで休もう。」  
「でも、私……追われている気がします。昨夜、空から落ちた私を、誰かが見ていたような……」  
その瞬間、シリスの耳がぴくりと動いた。  
「来るにゃ。三つ、いや四つの気配!」  

リオが振り返るより早く、森の奥から巨大な影が飛び出してきた。  
黒狼。普通の魔獣よりも二回りは大きい。背中に棘のような骨が並び、赤黒い瘴気を吐き散らしていた。  
続けて三体現れ、咆哮が森を震わせる。  

「リア、後ろに下がれ!」  
リオはすぐに前に出た。  
右手に光が集まり、掌の中で渦を巻く。  
「さっそく“採取”の出番にゃ。」  
「おう、大暴れしてくれる。」  

一体目の黒狼が地を蹴った。  
迫る牙の光と共に、リオは足元の草を掴むように指を動かす。  
草木が瞬時に伸び、狼の体を締め上げた。  

「〈採取〉――生命吸収・循環化!」  
狼の瘴気が白い霧に変わり、草の蔓を通じてリオの腕に吸い込まれる。  
体内で何かが弾け、力が増す。  
「にゃっは!無自覚最強ってこれにゃ!」  
「調子づくなよ!」  

二体目が後ろから襲いかかる。リオはとっさに足元を叩いた。  
地中の鉱石の粒子が舞い上がり、瞬時に透明な壁になる。  
狼がぶつかり、骨の砕ける音を上げて沈んだ。  

「“採取”って、素材を得るだけじゃない。周囲の命を、必要な形に変えられるんだ。」  
リオはそのまま右腕を振り上げる。  
風が集まり、透き通った刃となる。  
三体目が突進してきた瞬間、風の刃が深く裂き、地面に沈ませた。  

最後の一体が背後からリアに迫る。  
リオは一瞬遅れた。  
「リア!」  
風を蹴って跳ぶ、しかし間に合わない――  

その瞬間、眩い光が弾けた。  
リアの前で、黄金の紋章が浮かび上がる。  
彼女の掌から放たれた聖光が、黒狼を焼き尽くした。  

「……すげぇ……」  
「あなたこそ。私を庇おうとしたの、気づいていました。」  
リアは息を整え、微笑んだ。  
そして、リオを見つめる瞳に驚きが走る。  
「あなた……その光、もしかして“創世の加護”?」  
リオは表情をこわばらせた。  
「それを知っているのか?」  
「伝承にあります。神が人に最初に授けた力。万物を再生し、理を塗り替える力を持つ者。――まさか現存していたなんて。」  

風の音が一瞬止む。鳥も鳴かない。  
リアは息を呑み、手を胸に当てた。  
「私が空から落ちたのも……あなたに導かれたからかもしれません。」  
「導かれた?」  
「“始まりの子を守れ”――神託でそう告げられたのです。その意味を今、理解しました。」  

リオは何も言えなかった。胸の奥が熱くなる。  
力。神託。守るべきもの。  
すべてがまだ霧の中だが、確かに何かが動き始めている。  

「シリス、聞いたか? 神託だってさ。」  
「にゃっ、わたしは最初から知ってたにゃ。」  
「知ってて言わなかったのか?」  
「言っても信じなかったにゃ? それにサプライズの方が楽しいにゃ。」  
リオがため息をつくと、リアがくすりと笑った。  

戦いの跡に漂う静けさの中、太陽の光が差し込む。  
黒い瘴気は完全に消え、緑が生き返るように輝いていた。  

「森が、息を取り戻している……」  
リアが呟く。  
その足元で新しい芽が芽吹き、小鳥が枝に降り立った。  
リオはそれを見届けると、拳を握る。  

「この力は……やっぱり破壊じゃない。命を繋ぐためのものだ。」  
「あなたがそう思うなら、それが真実になるでしょう。」  
リアの言葉に、リオの胸がわずかに震えた。  

日暮れが近づく頃、三人は小さな丘の上に腰を下ろした。  
風が穏やかに吹き、遠くには村の煙が見える。  
「リオさん、これからどうするのですか?」  
「森を抜けて、王都に向かうつもりだ。俺の名前を知る奴がいる。確かめたいことがある。」  
「私も同行させてください。天空神殿で起きたことを調べたい。そして、あなたの力を知っている者を止めなければ。」  

リオは少し考え、頷いた。  
「わかった。一緒に行こう。……頼りにしてる。」  
「光栄です。」  
リアの笑顔に、シリスが小声で囁く。  
「にゃ~ん、また一人惚れたにゃ。ハーレム街道まっしぐらにゃ。」  
「やかましい!」  
リオの頬が真っ赤になる。  

夕陽が沈み、空が橙に染まる。  
森の奥で、再び小さな命の息吹が生まれていく。  
無自覚にして最強の青年の旅路は、今、聖女を仲間に迎えて新たな段階へと進み始めた。  

続く
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