気付いたら、ゲーム世界の顔グラも無いモブだった

玄月白兎

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第一章

第十四話

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「はじめまして、かな。フリート・シントール、伯爵家嫡子殿?」
「……こちらこそ初めまして。もう既に知っているようですが、フリート・シントールと申します」

 まずは第一印象。
 人との関わりにおいて、よく言われることだが第一印象の重要性は極めて高い。なにせ、初対面とは未知のものであるその人が既知へと切り替わる瞬間だからだ。概念付けがなされる瞬間と言い換えてもいい。Aという人の属性を、第一印象によって決めてしまうのだ。
 故にまずは丁寧な態度でフリートは接した。中世であるこの世界では所謂貴族嫌いの者もいるため全ての状況に当てはまるわけではないが、大抵の人間は丁寧に接せられれば悪印象を抱くことは無い。何せ丁寧な態度ということは行ってしまえばということだからだ。
 現代日本において他人と関わる際は礼をもって接するのが常識だ。故に丁寧とは普通であり、そこにさした印象は残らない。つまりは悪印象は抱かれないという訳だ。その代わり丁寧に接するだけでは大きな好印象も得られないが。
 ともかくまずは悪印象を抱かれるのだけは回避する。サーニャはゲームでルートが存在しないサブヒロインである。故に多くは無いが、ゲームで登場する回数は少なくはなかった。ある程度の嗜好をフリートは分かっているのだ。最もゲームで登場するのはここから約一年後。歳も若いし多少異なっている可能性もあるにはあるが、大きくは変わらないはずだ。

ーー……と、思ったんだがな……。これは一体、どういうことだ?

 表にはほとんど出ていないが、若干の不快感がにじみ出ている。

「何か、不快だったか?」

 故に、あえてフリートは敬語を崩した。
 ここでコンタクトを取れた以上、フリートは何としてもサーニャを雇いたいところだ。なにせ信頼できる密偵という貴重な人材だからだ。
 密偵は情報面に密接にかかわる者だ。知りたいことを探らせ、知らせたいことを相手に知らせる。それが密偵の仕事だ。情報を扱う関係上、密偵という職業に就くものは大抵頭の回転が速い。結果として雇った密偵にはフリートのしたいことのほとんどがバレてしまうことになるのだ。バレない様に振舞えば話は別かもしれないが、その場合密偵の運用性は極端に落ちる。
 最も密偵という職は信用が命でもある。元の雇い主の情報を流すことはそうないはずだが、そこに確実性はない。
 その点サーニャは信頼が出来る。ゲームで彼女はある貴族に仕えているのだが、その貴族にサーニャは決して背かなかった。盲目と言っても過言ではないほどその貴族に従っていたのだ。つまり彼女の忠義を得ることさえできれば裏切りの可能性は極めて低いということ。そしてその貴族に仕えることになるのは今から約半年後。今雇い、何ならそのままシントール家に仕えさせる事が出来れば何の問題はない。
 ストーリーに影響はあるかもしれないが、革命側で進むのならさして影響はないだろう。

ーーそういえば出てくる以前までどんなだったかは知らないな。密偵やってたのは知っているが。

「うん、崩した口調のほうが個人的には好感がもてる。……それで、どうして私を?」
「そうだな、まず、サーニャさんは雇われの密偵をやっている。それは確かだよな?」
「うん、確かに私はそうだよ。ということはなにか依頼? 今はフリーだから受けられるけど」

ーー自分からフリーとか言っちゃうのか。にしてもゲームではあまり喋らないキャラだったんだけどな。声は静かだし饒舌というわけではないが、この時期では喋らないわけではないみたいだな。

 やはり、ここから半年の間に何かがあるのかもしれない。その確信を強めつつも、フリーなことにそっと笑みをこぼす。

「そりゃあ良かった。だが、もう暗いしここじゃ機密も何もなさそうだからな。明日の夕方に……そうだな、ひとまず冒険者ギルドに来てくれないか? 以来の詳しい話はそこで話したい」

 欲を言えばフリートは今日家に連れ帰って依頼の話をしたかったが、衝動的に探し始めたため親に何も言っていないし隠すにしてもその準備ができていない。
 というか、そもそも何を頼もうかすらも曖昧なままだ。今日はとりあえずコンタクトを取れたことで満足するべきだろうと、フリートは翌日の面会を求める。

「分かった。昼過ぎぐらいから待ってるから、話しかけて」
「了解だ」

 サーニャが私語で話しかけられることに苛ついたのか、ヴァンから殺気が若干漏れている。
 それにフリートも気付いているのだが、残念。なぜ殺気を漏らしているのかまでは考えが及んでいない。強いて言えばサーニャの礼のない態度が気に食わなかったのだろうか、と考えている。

「よし、ではまた明日」

ーーここで孤児院に寄付すれば好感度も上がるんだろうけどな。だがあげたところで結局他に取られるのは目に見えている。そんな無駄なことをするのなら全員を家で引き取ったほうがマシだ。

 内心は隠し、そのまま孤児院を出ていく。良心が咎めても、理性でそれを黙らせて。


   * * *

 未来からこのときのフリートを見れば、まだ、ストーリーの闇を把握していなかったといえよう。
 犠牲のない革命など存在しない。
 かの有名なフランス革命における例をみよう。
 フランス革命では革命派の者たちがテニスコートの誓いをしたことは有名だ。そしてそれを描いた絵が存在するのだが、そこに描かれた者のうち多くはその後数年以内に亡くなっている。
 自由の夜明けといったイメージのあるフランス革命だが、その実は血にまみれた事変で、その後フランスはナポレオンの登場まで混乱が続くことになっている。
 ともかく、革命を色で表すのならばそれは赤色以外にありえない。
 そのことをまだ、このときのフリートは知らなかった。
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