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契約結婚でも理解したい!
契約結婚でも理解したい!5
しおりを挟む「……本当に、月菜さんは……ふ、ふふっ。」
私の頭上から柚瑠木さんの笑い声、今度はハッキリと聞こえて来たんです。彼の笑い声は想像していたのよりもずっと優しく温かくて……
「あ、あの……私何かおかしなことを言いましたか?」
もしかして今、柚瑠木さんは笑顔なのでしょうか?彼の顔を見たい気持ちを必死で抑えながら、聞いてみました。
私は時々ズレたことを言ってしまう事があるらしく、今回もそうなのかと思ったんです。だけど柚瑠木さんは……
「控えめすぎると思ったら、今度は急に欲張りになるなんて……ふふ、月菜さんは僕の予想を裏切ってばかりですね。」
まだ笑いが治まらない様子の柚瑠木さんに欲張りだと言われて少しショックでしたが、私もつい三つもお願い事をしてしまっていて。
「そ、そうですよね。欲張ってしまってすみません、さっきのは聞かなかったことに……!」
私を抱きしめる柚瑠木さんの腕が緩んだので、少しだけ体を離して彼の顔を見上げたんです。
「駄目ですよ、せっかく月菜さんが上手に甘えてくれたんです。貴女の望み……全部僕に叶えさせてください。」
そう言って見せてくれたのは、柚瑠木さんのふんわりと優しい笑顔。笑う時はこんなに柔らかな表情になるのですね、柚瑠木さんは。
初めて柚瑠木さんが私に笑顔を見せてくれたことが嬉しくて、温かな気持ちで胸がいっぱいになりました。私は瞳に涙が溢れてくるのを止めることが出来ず、その滴はポロリと零れ落ちて頬を濡らしたのです。
「……どうして、泣くんです?」
「柚瑠木さんが笑ってくれたからです。」
前も同じような会話をしたような気がします。柚瑠木さんは本当に分かってないのですね、貴方の言葉や表情の一つ一つに私がどれだけ心動かされているのかを。
柚瑠木さんの言葉に傷付き辛く悲しい時もありましたが、今はこんなに嬉しい気持ちでいっぱいになっているんです。柚瑠木さんに私の心が伝わればいいのに……
「……嬉しいのなら、もう泣かないで。僕には笑った顔を見せてください、月菜さん。」
私の頬を流れる涙を、柚瑠木さんは親指でそっと拭ってくれました。私が彼の笑顔を見たいと思うように、柚瑠木さんも私に笑顔を見せて欲しいと言葉にしてくれたんです。
だから私はクシャクシャな精一杯の笑顔で――――
「柚瑠木さんの笑顔、私は大好きです!」
そう大きな声で言うと、今度は私から柚瑠木さんに思いきり抱きついてみました。
柚瑠木さん、私は……貴方のその笑顔をずっと一番傍で見ることのできる存在になりたい、そう願ってもいいですか?
思いきり柚瑠木さんに抱きつけば、彼は少し驚いた後で私の背に優しく腕を回してくれました。何度も抱きしめ合って、お互いの心が暖かなもので満たされていくような気がするんです。
柚瑠木さんの広い胸の中、私は彼の温もりを感じることの出来る幸せで胸がいっぱいだったのです。
……だけど、私は思い出してしまったんです。希子さんが作ってくれた夕食の事を。
「あの、柚瑠木さん。そろそろ夕ご飯を……」
せっかく希子さんに作ってもらった料理を冷ましてしまうのは申し訳なくて、柚瑠木さんにそう伝えたかったのですが……
「まだ離したくない……僕がそう言ったら、月菜さんはどうしますか?」
耳元で甘く囁かれて、私の頭は一気にショートしてしまいそうです。「ずっと離さなくてもいいです」と言ってしまいたいけれど、それでは希子さんのお料理が……!
「ゆ、柚瑠木さん。私は逃げませんので、先に夕飯を食べてくれませんか?」
名残惜しいのは私も同じです。でも柚瑠木さんが望んでくれるのならこれから先も貴方から離れたりはするつもりはありません。だから……
「ご飯の後でなら、もっといっぱい抱きしめてもいいので……」
「月菜さんも、結構狡いんですね?」
お互いの距離をこうやって少しずつ縮めていければ良いと思うんです。
柚瑠木さんの色んな言動にドキドキさせられて、時には彼にもドキドキしてしてもらえるように……
応援ありがとうございます!
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