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契約結婚の後一つの理由?
契約結婚の後一つの理由?2
しおりを挟む柚瑠木さんが毎晩魘されている事は話さないようにしながら、眠っている彼が「ますみさん」という方の名を口にしたことを話しました。
柚瑠木さんに直接聞く勇気もないのに、こうして香津美さんを頼ってしまう私はなんて狡いのでしょう。だけど、香津美さんはそんな私を心から心配してくれて……
「そうね、月菜さんが不安になってしまうのも無理はないわ。しかしあの柚瑠木さんが寝言で名前を呼んでしまうほどの相手なんて……」
そう、柚瑠木さんはそう簡単に誰にでも心を開くような方ではありません。そんな彼が名前を呼ぶとすれば余程大切な相手しかいないはず。だから私は……
「……ちょっといいだろうか?勝手に話を聞いて申し訳ないと思うが、俺からも少し月菜さんと話をさせて欲しい。」
いつの間にかドアを開けて入り口に立っていた聖壱さん。彼はいつになく真面目な顔をして私達を見ていて。香津美さんはそんな聖壱さんから紅茶の乗ったトレーを受け取りソファーの端に移動しました。
「どうぞ、聖壱さん。私の隣に座って、貴方の話をしてちょうだい。」
「ああ。俺が話しても良いかな、月菜さん。」
香津美さんの隣に腰を下ろした聖壱さんが真っ直ぐに私を見つめてきます。きっと……彼が今から話すのは、柚瑠木さんに関わる大切な話なのでしょう。
「よろしく……お願いします。」
私は一度深呼吸をして、聖壱さんにしっかりと向き合いました。
香津美さんは黙って紅茶のカップをそれぞれの席の前に置くと、聖壱さんの顔を見て静かに頷きました。私はその二人を見て膝の上で重ねていた手をギュッと握りました。
「まず俺が一つだけ絶対に間違いないと言えるのは柚瑠木にとって女性として特別なのは月菜さん、貴女だけなんだ。それはだけは忘れないで欲しい。」
柚瑠木さんの幼馴染の聖壱さんがそう言うのなら、きっとそれで間違いないのだと今までだったら思えたかもしれません。ですが、柚瑠木さんはあんなに切なそうに「行かないで、ますみさん」と……
「確かにますみさんも柚瑠木にとっては特別な存在だが、そこにあるのは月菜さんへの感情と違うものなんだ。柚瑠木は……アイツはまだ傷を抱えたままだから、月菜さんがずっと傍で癒してやってくれないか?」
「それって、いったいどんな?」
私に対する柚瑠木さんの感情と、ますみさんに対する彼の持つ思いの違いとは何でしょうか?私にはまだその意味が分からなくて。もっと詳しく教えて欲しいと思ったのですが、聖壱さんは……
「これ以上は俺の口からは言えない。だけど、月菜さんは柚瑠木の気持ちを信じて、ちゃんとアイツと向き合って欲しいんだ。俺ではダメだったけれど、月菜さんがそうしてくれればいつかはきっと柚瑠木だって……」
聖壱さんはきっと、毎晩悪夢に魘される柚瑠木さんのために色んな事をされたのでしょう。それでも苦しむ彼を助けられなかった、だから今度は私に?
「私に、出来るでしょうか……?」
「月菜さんにしか出来ない。今一番柚瑠木の心の近くにいるのは月菜さんだから。」
柚瑠木さんの心の一番傍にいるのは、本当に私なのでしょうか?そんな私の不安も「心配いらない」と言わんばかりに、聖壱さんもその隣に座る香津美さんも私を見て頷いてくれて……
「柚瑠木がいまだに月菜さんと契約結婚という形を壊せずにいるのは、アイツの自信の無さと大切な人に対する不安の表れなんだ。」
「柚瑠木さんの不安……」
聖壱さんの言うそれは、きっと「ますみさん」が関係する事なのでしょう。でもその事が私たちの契約結婚と何の関係があるのかは分からないまま。
「だから月菜さんが壊してやってくれないか?「自信が無い」とか「不安だ」とかそんなこと考えられなくなるくらい、柚瑠木を心から愛して……振り回してやって欲しい。」
「私が柚瑠木さんを振り回すのですか?」
予想もしなかった聖壱さんの言葉に驚いて聞き返してしまいます。だって私が柚瑠木さんに振り回されることはあっても、その逆だなんて……
でも聖壱さんは本気で言っているようで、私にニコリと微笑んで見せると……
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