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契約結婚の全てを知って…
契約結婚の全てを知って…5
しおりを挟む「いいえ、月菜さん。僕はあの時ほんの少しだけですが、こんな風に思ったんです……僕との約束を破った真澄さんが悪いんだ、と。」
今の柚瑠木さんからは想像出来ない言葉。ですがそれほどまでに真澄さんが発表会にを見に来てくれなかったことに、彼がショックを受けていたことも分かって……
小学生だった柚瑠木さんが、そんな事故に巻き込まれて正常な判断なんて出来るはずもないでしょう。それでも彼は、一瞬でもそんな風に考えてしまった自分を今も責めているのだと思います。
「柚瑠木さんの自分を責めてしまう気持ちは分かります、それでも!」
真澄さんは、柚瑠木さんがこんなに過去に縛られ毎晩魘されることを望んでいるでしょうか?きっとそんなことは無いはずです、ですが……
「……あの飲酒運転のバイクも、最初から僕を狙うように仕組まれていたのだとしたら?」
私の背中にゾクッと冷たい感触が走ります。それは柚瑠木さんが二階堂財閥の御曹司である以上、絶対にないとは言い切れない事なのです。知らない誰かに恨まれたり、彼の存在を目障りだと思う人もいるはず。
「それは、調べたのですか……?」
「子供の僕にはどうする事も出来ませんでしたが、大人になってから聖壱にも協力してもらいバイクの運転手について調べました。結果は、月菜さんの想像したので合っていると思います。」
私が想像した通り、それってつまり……まだ小学生だった柚瑠木さんを交通事故に見せかけて、消してしまおうとした人がいるという事なんですよね。
その事実にどうしようもないくらいの寒気を覚え、身体中に鳥肌が立つのを感じました。
「最初から狙われていたのは僕だったんです。僕が真澄さんにあんな我が儘を言わず、いつも通り家にさえいれば何も無かったはず。彼女が僕を庇い事故に合う事も……だから全部、僕の所為なんです。」
事故に関わりの無い私が何を言っても、柚瑠木さんが自分を責める気持ちは変わらないかもしれません。ですが、そんな柚瑠木さんを少しでも癒してあげたいんです。私に出来る事があるのならば……
私はソファーから立ち上がると、柚瑠木さんの目の前に移動してそのまま両腕を彼に向かって伸ばしました。柚瑠木さんの頭を引き寄せると、私の胸へと優しく抱き寄せたんです。
いつもの身長差では、彼をこうして抱きしめてあげることは出来ませんから。
「今の私では柚瑠木さんの過去を変えることは出来ません。それでも私は、柚瑠木さんが少しでも安らげる場所になりたいんです。だから……」
驚いたように私を見上げる、柚瑠木さんの額にそっと口付けて。
「もう、一人だけで苦しまないでください。貴方の妻である私をもっと頼ってくれませんか?」
これでも柚瑠木さんが私に頼りたくないと言うのならば、傍で見守らせてもらうだけでもいいんです。私にはもう、貴方を放っておくことなんて出来ないんですから。
私は柚瑠木さんに、こうして少しでも温もりを与えることが出来るのならそれだけでもいい……
下げたままになっていた柚瑠木さんの両腕が、ゆっくりと私の腰の辺りに回されて力が籠められるのが分かりました。その身体が小さく震えてることに気付き、私も柚瑠木さんを自分の胸に埋めるようにギュッと抱きしめて……
「聖壱からこの契約結婚の話を持ち掛けられたとき、僕は自分にとって都合のいい事を考えていました。貴女を囮にする事だけではなく、これで愛し愛される必要のない僕にとって理想の結婚が出来る、と。」
「……理想?夫婦なのに愛し愛されないことが、ですか。」
柚瑠木さんが契約結婚を望んだ後一つの理由は、私ももうなんとなく分かっています。だけどそれは柚瑠木さんの本当の願いだとは思えなくて……
「月菜さんが婚約解消をされて、十条の家で居場所が無かった事も分かっていました。真面目な性格な貴女が自分を責めて、どうにかあの家に役に立ちたいと思っている事も。」
……知ってます、結婚前に柚瑠木さんと聖壱さんで私や香津美さんの事を調べ上げていたんですよね。それに今なら私が柚瑠木さんから渡された契約書の意味が分かります。
応援ありがとうございます!
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