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番外編 新しい出会いは必然で 後編
番外編 新しい出会いは必然で 後編
しおりを挟む「ここで少し休んでいきましょうか?」
車をパーキングへと停めて、私達は繁華街を見て回っていました。その脇道に入ったところ、奥にあるモダンなカフェを見つけた柚瑠木さんがそう言いました。
普段外で食事をする事も少ないのか、千夏さん嬉しそうにその頬を染めています。
「いらっしゃいませー、今ちょっと混んでるからカウンターしか空いてないんですけど……」
「それで構いません、お願いします」
扉を開けるとすぐに声をかけてきた店員に柚瑠木さんはそう答えます。私達は笑顔の素敵なスタッフさんに案内され、ちょうど四席空いていたカウンター席に並んで座りました。
「私ね、ずっとお洒落なランチに憧れてたの。月菜さんは柚瑠木兄さんとよくこういうお店に行くの?」
「ええ、最近はよく連れて行ってくれます。いつもしてもらってばかりで申し訳ないくらい」
私達は三人とも本日のランチメニューを頼んで、のんびり話を始めます。するとまたドアの開く音がして、店員の挨拶が聞こえてました。どうやらまたカウンターの席を案内されているようです。
「……隣、いいですか?」
「あ、はい。どうぞ?」
明るめの色のスーツを着こなしたスマートな男性が、千夏さんに声をかけ彼女の隣に座りました。
千夏さんはこういう事にも慣れていないようで、少しソワソワとしています。代わりましょうか、と声をかけたけど笑って大丈夫だと答える千夏さん。
「マスター、今日のランチお願い……」
スーツの男性がマスターと呼んだのは口髭のお洒落な五十代くらいの男性、どうやらこの人はこのカフェの常連さんなのでしょう。
素敵なマスターに笑顔の素敵なスタッフ、そしてこんなカッコいい男性のお客さんなんてこのお店に女性が多いのも頷けます。
そんな事をのほほんと考えていると……
「どうしたのかな? 今日は酷い声をしてる」
「ああ、今日は朝から会議で大きな声を出しっぱなしだったんだ。もう喉がガラガラで……」
よほど声が変わっているのでしょう、スーツの男性の言葉にマスターは渋い顔をしてみせました。男性は「大丈夫、大丈夫」と笑っているのですけど。
「どうぞ、のど飴です。たくさんあるので気休めくらいにはなるかと」
男性の横で黙って座っていた千夏さんが、バックの中から飴玉を取り出して男性に差し出しました。それでも知らない男性と話すのに緊張しているようで、顔は下を向いたまま。
けれどそうやって自分に出来る事は進んでやろうとするところ、とても素敵だと思います。
「ありがとう……ございます」
「いえ、早く良くなるといいですね」
少し驚きながらも飴玉を受け取る男性。千夏さんはすぐに男性から顔を隠すようにこちらを向きましたが、彼はしばらく千夏さんの事を見つめているようでした。
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