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契約結婚が想像と違います
契約結婚が想像と違います2
しおりを挟む匡介さんの言葉に甘えてゆっくりと浸かって身体を癒す、今夜から二人でこの家で暮らすと思うとやはり不思議な気持ちになる。
きっと彼は私との契約結婚の期間中は、誠実な夫になってくれるでしょう。私もそれに応え彼に迷惑をかけない妻にならなければ……
ふやけそうになるほど長湯をしてしまった、そろそろ上がらなくてはと身体を浮かせようとする。
「杏凛、随分長いが大丈夫か?」
浴室の扉の向こうから匡介さんの声が聞こえて、慌てて浴槽に身体を沈める。あちらから見えていないとは分かっていても、反射的にそうしてしまう。
「だ、大丈夫です! 今からあがりますから」
「そうか、杏凛が無事なのならばいい。急かしているようで悪かった」
すぐに匡介さんの足音は遠のいていく。もしかして私が遅いから心配して、それだけのために……?
あの強面で心配性だなんて想像も出来なかった、人は見かけによらないとは言うけれど匡介さんもそうなのかしら?
私はいつも遠くからあの人を見たことしかなかった、両親から聞いた話や調査書に彼が心配症だなんて書いてはなかったもの。
「ふふふ、変な人……」
なんとなく面白くて、笑ってしまう。この時はまだ匡介さんが私にどれだけ過保護になるかなんて思いもせず、彼の意外な一面を知れたのを楽しんでいるだけだった。
「冷たいお茶を用意しておいたから、それを飲んで先に休むといい」
リビングに戻ると匡介さんがテーブルにグラスに入ったお茶を用意して待っていた。まさか結婚初日から夫の彼にそんな事をさせてしまうなんて。
「匡介さん、そういうのは妻の私がやる事ですから」
「そんな古臭い考え方は俺は好きじゃない、それとも杏凛は俺の用意したお茶では不満か?」
キッパリハッキリそう言われると、逆に自分が間違っているのかしらと思いそうになる。だけど私に出来る事はそう多いわけではない、このままでは匡介さんの妻として何の役にも立てない。
「そうではありません。ですが、私は……」
やっぱり、自分の考えを上手く言うことが出来ない。昔から彼に見つめられるといつもそうだった、私の心まで見られているようなこの視線が苦手なの……
「……悪かった、俺は君の仕事まで奪うつもりはない。今日は疲れているだろうから早く休みなさい、俺は風呂に入ってくる」
俯いたままの私の肩にそっと手を置いた後、匡介さんは自分の部屋へと着替えを取りに行った。私が口に出せずにいた言葉を、彼はちゃんと気付いてくれた。
今夜は疲れている私を気遣ってくれただけなのに、私はそんな彼にお礼も言えなかった。
「初日から上手くいくわけないものね……」
私はそう呟いて彼が用意してくれたお茶を飲み終え片付けをすませると、その夜は用意された自分の部屋で休んだ。
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