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契約結婚に戸惑いを隠して

契約結婚に戸惑いを隠して5

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「今日は電車で目的地まで行こうと思っているんだが平気か?」

「電車、ですか……」

 そう言われて少し迷った、普段は歩きか車での移動ばかりで人の多い電車になんて何年も乗ってはいなかったから。いつもの匡介きょうすけさんなら絶対に私を車に乗せていたのに、今日に限ってどうして?
 私は電車に乗る事が怖いのではなく、人の多い場所で発作を起こして周りの人に迷惑をかけるのが嫌なのだけど……

「もちろん杏凛あんりが嫌だと思うのなら無理強いするつもりはない。たまにはいつもと違う事にチャレンジしてもいいかと思っただけだ」

 匡介さんは最近私の担当医である鵜方うがた先生と二人で話す事が増えた、もしかしたら彼は私の病気について何かアドバイスを受けているのかもしれない。
 それならば……

「いえ、それなら電車で行きましょう。何かあった時は、すみませんがお願いします」

「……ああ、俺が君の傍にいるから安心して欲しい」

 いつもいつも臆病になって色んなことを諦めてしまっていた。けれどこうしてこの人が傍にいてくれるというのなら、私も少しだけ前に進めるかもしれない。

 ……あの日以来、初めてそう思えたの。だからついその事について、匡介さんに聞いてしまっていた。

「……匡介さんは私の病気についてどの程度の事をご存じなんですか? 私はその日の記憶がほとんどなくて」




 ピタリと匡介きょうすけさんの足が止まった、もしかして彼は動揺しているのかもしれない。今まで私が発作で動けなくなった時以外、あまり病気について話をしてくることは無かった。
 そのわりには彼の私の発作時の対処はかなり冷静で正しく行われていたのを覚えてる。

 だから、もしかして両親か主治医である鵜方先生から話を全て聞いているのかと考えていたの。

「……もし俺がその事について知っていたとして、君はどうしたい?」

「どうって……それはどういう意味ですか?」

 匡介さんが言いたいことが分からない、もし匡介さんがその事を知っていたとしても私にはどうする事も出来ないのに……
 だけど匡介さんは、私が考えもしなかったことを口にした。

「……あの日の事を、どのくらい杏凛あんりは知りたいのかと聞いている」

「あの日の事を、ですか? ええと、匡介さんからそんな風に言われるとは思いませんでした」

 今まであれほど発作の心配をし、過保護になっていた匡介さんが私の病気の原因の話をしてくるだなんて。両親も友人もみんな思い出さなくてもいいと口を揃えて言っていた事なのに。

「変だったか、俺がその話をするの事は。杏凛がその事を知りたいと考えてないかと思うのは」

「変というか、意外でした。それならば今ここであの日の事を私に教えてくれるんですか?」

 本当に知りたいと思っているのかは分からなかったけれど、なんとなく今の匡介さんの考えを聞いてみたかった。


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