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契約結婚に希望を見つけて
契約結婚に希望を見つけて5
しおりを挟む複雑な気持ちでインコの赤ちゃんを見つめていると、その様子を黙ってみていた馬場さんが匡介さんに近寄ってそっと耳打ちをする。
ちょっと……仲が良いと言ってもいくらなんでも距離が近すぎるのではないかしら? 自分ではなく彼女が匡介さんの特別な人のように見えてとても不快だった。
両手を握りしめて二人のそんな様子に気付かないふりをする、素直に嫌だと伝える事も出来ない契約妻という立場の自分が情けなかった。
「相変わらず人使いが荒いな、馬場は。すまない杏凛、少しの時間俺は外に出てくる」
「え? でも私は……」
初めてきた場所で一人きりにされても困る、インコの赤ちゃんもどうするか決めれていないし匡介さんは何を考えてるの?
それなのに匡介さんは馬場さんに追い出されるようにドアから出て行ってしまった。
匡介さんがビルから出て行ったのを窓から確認して、馬場さんはこちらを振り返りニッと笑ってみせる。彼の親しい人だから悪い人ではないはずなのに、彼女の微笑みに胸がバクバクと音を立てているよう。
「ごめんなさいね、私どうしても杏凛さんと二人きりで話をしたくって」
「私と馬場さんで、ですか? いったい何の話を……?」
こういうシーン、小説やよくあるドラマで見たことがある。まさか匡介さんに限ってそんな事あるわけないと思っても、馬場さんの含みのある言い方に不安は一気に大きくなる。
このままこの場所から逃げ出してしまおうか、そう思った時に馬場さんがスッと手を差し出してきて————
「これ、ちょっと見てくれる?」
差し出されたのはシンプルな黒のパスケース、だけど何となく馬場さんのイメージには合ってないような? そう思いつつ彼女から受け取ってみたのだけど……
「あの、これが何か……?」
電子カードの入れられたパスケースにおかしなところは無さそう、裏表と何度か確認し馬場さんに尋ねてみる。すると彼女はクスッと笑って電子カードをトントンと指さして見せた。
「アイツが忘れ物するなんて珍しいのよ? よほど大事なものなのか、わざわざ休日に取りに来るなんてね。ちょっと興味がわいて覗いちゃったの、ごめんなさい」
そう言われてパスケースからカードを取り出すと、同時に何か小さな紙がヒラリと出てきて床に落ちる。慌てて拾って見てみると、驚きでうまく声が出せなくなる。
小さな四角の紙に写っているのは私だった、それも最近のものではなく二~三年は前のもの。こんなものをどうして匡介さんが……?
「私ね、匡介と結構付き合い長いんだけどさ。驚いちゃった、こんなことする男だなんて思わなかったもの。よっぽど匡介に愛されてるのね、杏凛さん」
「私が、匡介さんに……?」
今見たもの、馬場さんから言われた言葉が信じられなくて、ぼんやりと視線を彷徨わせてしまう。いつも過保護な夫だと感じながらも、匡介さんは私のことを病気で放っておけない妻だと思っているのだとばかり。
でもこの写真が、馬場さんの言葉が、それだけじゃないんだと私に気付かせる。
「あの、本当に匡介さんは私のことを……?」
「ふふ、それは本人に確認してみるのね。でも、私が杏凛さんにこれを見せたことは内緒よ?」
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