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奥手な二人の蕩ける蜜月
奥手な二人の蕩ける蜜月 2
しおりを挟む旅行の前日にアレンとリトンをペットショップに預け、当日の朝早くにタクシーで駅へと向かう。荷物を持とうとすると、全部匡介さんに奪われて結局小さなバッグ一つでそのままグリーン車の席へと座らされる。
行先はキチンとは教えてもらっていないが、切符は東京から名古屋までのものだった。新幹線だから名古屋につくまでに二時間もかからないはず。
今日は天気もいいし、窓から見える景色も綺麗で時間がのんびりと過ぎていくような気がする。私の隣で匡介さんはスマホと真剣に睨めっこしているようなので、そのままぼんやりしているうちにウトウトしてしまっていた。
「起きてくれ杏凛、そろそろ着くから……」
「え、あ……もう?」
朝早かったためか少し眠ってしまったらしく、匡介さんに肩を揺すられて起こされた。私が目を覚ましたのを確認すると、匡介さんはお茶のペットボトルを渡してくれた。
まだ温かなそれはきっと私を起こす時間に合わせて用意してくれたのだと分かる。
「ありがとう、匡介さん」
「……気にしなくていい、俺がしたくてしている事だから」
それだけ言って私から目を逸らすのは照れているからなのかも知れない。そんな所も今は可愛いとしか思えないから不思議だわ。
新幹線を降りると少し歩いて近鉄名古屋駅へと移動する、ここからどうするのかと尋ねたが匡介さんはまだ教えてくれる気はないらしい。
ホームに入ってきた電車に乗り込むと、そのまま匡介さんに手を引かれて連れて行かれたのは和風の個室だった。
「ええ、これって……?」
「今日のために個室を予約しておいた。このほうが杏凛もゆっくり出来ると思って」
当然のように匡介さんはそう言うけれど、まさかここまで匡介さんに気を使わせていたかと思うと逆に申し訳ない気持ちになる。
私の病気もだいぶ良くなってはいるが、やはり彼は心配で仕方ないらしく……
「でも、そこまでしなくてもいいんですよ。私ばかりをそうやって過保護に甘やかさなくても」
「杏凛に何かあってからじゃ俺が後悔するんだ、だから出来る限り君を守らせてくれ」
匡介さんのそういう所は変わらない、変わったのは彼が素直に私への愛情を言葉にするようになっただけ。その事が嬉しくて、胸がいっぱいになってしまう。
同じくらい私も匡介さんが好きだって伝えたいのに、上手く言葉に出来ないのがもどかしい。
「とりあえず座るといい、電車が動き出したから揺れて危ないだろう?」
「そうね、そうしましょう」
掘りごたつ風のような造りの部屋、私は靴を脱いで席に座る。大きな窓からは外の景色が良く見えてとても落ち着いた雰囲気だった。
「まさか個室まで用意しているとは思わなかったわ、よく二人で予約が取れましたね」
「いや、それは必要な人数分の切符を買って……」
気まずそうにそう言った匡介さんに唖然としてしまう、まさかそこまでして個室を予約するなんて。私の事が心配なのはわかるが、それは無駄遣いだと思う。
そう私から言われることは最初から分かっていたのでしょう、匡介さんは少し迷ったようだったが素直に余ったチケットを私に見せて謝ってくれた。
「それでも杏凛と二人きりの時間を過ごしたかったんだ、そんな風に考えてしまう俺はやはり我儘だろうか?」
真面目な顔でそう言われると、私だってそれが我儘だなんて言えるわけない。彼はこうやって何度も私が特別な存在だと繰り返す、狡いと思うのにそのたびに嬉しくなってしまう自分がいる。
「今回だけ、そう約束してください。次に来るときは……家族が増えている可能性だってありますから」
「杏凛……」
もちろんすぐに私が妊娠できる状態ではないことくらい私も匡介さんも分かってる。でも鵜方先生の処方してくれる薬の量は減り、発作が起こる回数もずっと少なくなった。
そういう未来を望むことが出来るようになる可能性は十分あるはずだから。
「俺は、女の子がいいな。杏凛に似て美人でしっかり者の子に育つだろう」
「気が早いです、あくまでその可能性もある。そう言っただけですから」
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