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必要ない、その心配

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「おはよう、横井よこいさん。昨日はあれからゆっくり休むことが出来た?」

 昨日と変わらない完璧な作り笑顔で私に近寄り話しかけて来る梨ヶ瀬なしがせさん、その何か含んだようなものの言い方止めてもらえます?
 近くにいた数人の女子社員が梨ヶ瀬さんの言葉に反応し、ヒソヒソと話し出す。変な噂の的になんてなりたくないのに……

「ええ、誰かさんが散々脅してくれたおかげでビクビクドキドキしながら眠りにつきましたよ」

 これは半分本当の事、いくら私だって自分がストーカーされていると言われればそれなりに恐怖だって感じるに決まってる。
 あの後の伊藤いとうさんとの会話で少し気が紛れたけれど、なかなか寝付けないまま時間だけが過ぎていった。

「そうだろうね。ほらココのところ、隈になってる」

「ちょっ……、止めて下さい」

 梨ヶ瀬さんが当然のように私に触れようとするから、つい彼の手を強く払ってしまった。しまったと思い謝ろうとしたけれど、梨ヶ瀬さんは気にした様子も見せず「ごめんね?」とだけ言ってデスクへと戻っていく。
 こっちの意見をまるで聞かずにグイグイ来るかと思えば、こうやってあっさり引いていく時もある。梨ヶ瀬さんの考えている事は、私にはちっとも分らない。

 デスクに鞄を置いて仕事の準備をしていると、スマホが震えてメッセージの受信を教えてくれる。画面を確認すると、メッセージの送り主は眞杉ますぎさんで……

『今日、横井さんに話したいことがあるから近くのファミレスに来てくれますか?』




 もしかして昨日のことだろうか? 鷹尾たかおさんが席に付いた後の眞杉ますぎさんの態度はおかしかったし、その事について私に相談したいのかもしれない。
 という事は今日のお昼は梨ヶ瀬なしがせさん達とは一緒にとらずに済む、そのことに思わずホッとしてしまう。私はデスクでパソコンの画面と睨めっこしている梨ヶ瀬さんに、なるべく小さな声で話しかける。

「あの……昼休みにちょっと予定が入ったので、今日は鷹尾さんと梨ヶ瀬さんで昼食は済ませてくれませんか」

「その相手って眞杉さん? それとも俺の知らない誰かだったりする?」

 梨ヶ瀬さんはパソコン画面を見つめ、こちらを振り向きもせずそう言った。梨ヶ瀬さんの知らない誰かって、どうしてこの人はそんな事を気にするんだろう?

「眞杉さんであってます、ですが大事な話をしたいという事だったので二人きりで話をしたいんです」

「……そうだろうね。でもちゃんと分かってる? 横井よこいさんは鷹尾に協力するって約束したんだよ」

「それは……ちゃんと分かってますけど」

 今更ながら、簡単に鷹尾さん達からの頼みを聞いてしまった事を後悔しそうになる。かなり強引に約束させられたとはいえ、眞杉さんの気持ちを無視するような事はしたくなかった。

「協力はすると言いましたが、眞杉さんに無理強いするつもりは無いんです。そんなやり方で彼女が鷹尾さんに好意を持つとは思えませんし」


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