【完結】婚約破棄令嬢の仕立て屋ですが、完全に巻き添えをくいました。〜災い転じて服と成す、なんて上手いこと言ってる場合じゃない〜

福田 杜季

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前編①

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人生の転機というものは、いつ訪れるかわからない。
そんなことを、私は実感する。

「ほ、本当ですか?お嬢様。本当に、私に花嫁衣装の作成を任せてくださるんですか⋯⋯?」

祈るように指を組みながら、私が仕立てた新作のドレスを身にまとう少女を見つめた。

「ええ、言った通りよ。わたくしのウエディングドレスは、ニーナ、貴女に作成をお願いするわ。二言はございません」

煌めく豪奢な金髪に、宝石のような碧色の瞳。目が吊り気味であるせいで、見る者に少し気の強そうな印象を与えるが、誰が見ても美少女だと断じるだろう美貌をもつ。
──それが、ファリノス伯爵家の至宝と呼ばれる、エルミラお嬢様だった。

そして、仕立て屋をしている私はありがたいことに、そんなお嬢様に縫製の腕や作成するドレスのデザインを気に入られ、彼女の社交界デビューから今まで、何度も指名を受けてドレスを作らせていただいている。

そんな私にエルミラお嬢様は、一生に一度の晴れ舞台である結婚式で着用するウエディングドレスまでも、作成を依頼してくれたのだ。
こんなの、仕立て屋冥利に尽きる──そんな言葉でも言い尽くせないほどの感激だ。

「お任せください!私ニーナは全身全霊をかけて、エルミラ様のために最高のウエディングドレスを仕立てると誓います!」

お嬢様の前に片膝を着き、決意を込めて握りしめた拳を胸に当て、私は心の底からの思いをこめてエルミラ様のために誓った。
エルミラ様はそんな私に淡く微笑み、期待しているわと言ってくださったのだった。


エルミラ様は、某侯爵家のご嫡男とご婚約なさっていた。
王立学院からの卒業後に結婚式を挙げられるということで、私は今からそれまでの2ヶ月、彼女のドレスのために全力を傾けることを約束した。

侯爵家の嫡男の結婚式だ。式にはきっと、高位貴族の方々が多数列席されることだろう。
そこで、美しい花嫁が私の作ったウエディングドレスを着る──想像するだけで胸が躍った。
だからこそ、渾身のドレスを作り上げようと心に決めた。

2ヶ月の間、その他の依頼をすべて断り、ただひたすらに、エルミラ様をどこの誰よりも美しく映えさせるためのドレスを作ることだけを考え、デザインを練り、素材を吟味し、寝食を忘れるほどに没頭して作った。


そして──1ヶ月と少し。
そういえば今日は王立学院の卒業式だったかと、最高級品である繊細なレースを縫いつけながら、ふと思い出した。
ドレスはもう、8割がた完成していた。

人生、何があるかわからない。
そう改めて思ったのは、そんなことを思い出した数日後のことだった。

『ファリノス伯爵家のエルミラ嬢、王立学院の卒業パーティーで婚約破棄される!』

「──っ、はぁ⁉︎」

貴族のゴシップが載る週刊新聞─社交界の情勢を知るために愛読している─の一面トップに、そんな言葉が踊っていた。

お相手の某侯爵令息は、同時に同級生の某男爵令嬢との婚約を発表しており、以前からの昵懇の仲が窺える──とか、そんなことは頭に入ってこなかった。

これはまさしく──災いだ。

私は徹夜明けの姿そのままで、急ぎファリノス伯爵家へと向かった。


門前払いを喰らうこと二度、身なりを整え、粘りに粘り、なんとかファリノス伯爵家のお屋敷の方とお話しすることができた。
と言っても、対応したのは当主であるエルミラ様の父君でも、嫡男である兄君でもなく、ひどく面倒くさそうな顔をした執事だった。
しかも、中に通されるどころか敷地内に入ることも許されず、対面は敷地と外とを区切る鉄柵越しだ。

「はぁ。で、何用でしょう?」

鉄柵の門扉をすこーしだけ開けた先で、大きくため息をついてから、燕尾服を着た中老の男性が言う。

「わ、私、エルミラお嬢様のウエディングドレスを依頼されていた仕立て屋でございますが──」
「ああ、左様ですか。残念ですが結婚は取り止めとなりましたので、そのドレスはそちらでご随意になさってください。こちらではお引き取りいたしませんので」
「──え?」
「お話は以上ですか?では、お引き取りくださいませ」

すこーしだけ開けられていた鉄柵の門扉を、言うが早いか速攻で閉ざそうとする。
慌ててそれに取りすがり、言い募る。

「待ってください!だとしても、お代は前金として一部しかいただいていません!」

執事は、深々とため息をついた。

「話を聞いていましたか?と申しました。品物を受け取らないのです、お代を払う道理はございません。むしろ、前金を返せと言わないだけ有難いとお思いください」
「そんな⋯⋯」

そんな馬鹿な話があるか。
この2ヶ月、他の仕事を一切断ってこのドレスに集中していたのだ。

前金をもらったといえど、材料費だってかかっている。
むしろ、金に糸目をつけるなとの仰せに従い、すべて最高級の素材を使用したのだ。
前金からはとっくに足が出ていた。

このウエディングドレスを仕上げたことによる報酬と、それ以上に得られるだろう名誉が頼りだったのに──


「当家も忙しいのです。これ以上平民ごときが時間を取らせないでください」

吐き捨てるように言われ、無情にも目の前で鉄柵の門扉は閉め切られた。
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