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1巻
1-2
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もしかしたら両親に何かあって、病院がかけてきたのだろうか? それとも佐保の家族に何か?
恐る恐る留守電を再生しようと指を滑らせたのと同時に、再度佐保からの着信が入る。咄嗟に通話ボタンを押してしまったが仕方ない、恵里菜は嫌々ながらスマートフォンを耳に当てた。
「……もしもし?」
『あ、エリちゃん? やっと繋がった!』
高く澄んだ声が、酔った頭にダイレクトに響いた。
「……会社の先輩と飲んでたから気が付かなかった、ごめん」
『ううん、私こそ何回もごめんね。それよりエリちゃん、今どこにいるの?』
「どこって、これからアパートに帰るところだけど」
『こんな時間に? 危ないじゃない、女の子が遅くに一人で夜道を歩いちゃだめだよ!』
「もうアパートの前だから大丈夫だよ。――それより、何の用?」
早く切り上げようと恵里菜はわざと低い声を心がける。どこか焦ったような姉の声に違和感を覚えながらも、心の中では早く電話を切りたくて仕方なかった。
「急ぎの用事じゃないなら切ってもいいかな。仕事終わりで疲れてるの。大分酔ってるし、すぐに帰って寝たいんだ。……悪いけど、佐保の大声は頭に響いて痛い」
なんて嫌な妹だろう。自分で言っていて気が滅入る。佐保を前にするといつもこうだ。
双子の母親でもある姉は子育てをしながら夫の両親と同居している。佐保のことだ、彼らにも大切にされているだろう。恵里菜にはとても真似できない。
『うん、疲れてる時にごめんね』
だから、嫌い。恵里菜がどんなに冷たいことを言っても、優しい姉は絶対に怒ったりせず、笑顔で跳ね返してしまうのだ。
『でもエリちゃんにどうしても伝えなきゃいけないことがあって! エリちゃん、最近身の回りで変わったことはない? 変な人とか、危ないこととかなかった?』
「……何、それ。特にないけど」
『本当? ああ、良かった! 昼間お母さんにも電話したんだけど、お母さんったらもう、どうしてあんなこと……』
「お母さんに何かあったの?」
『え、ううん。元気そうだったよ?』
「じゃあ、何?」
要領を得ない話し方に、だんだんとイライラしてくる。
『エリちゃん、あのね、あ――』
ぷつり、と通話はそこで切れた。
「佐保? ちょっ、佐保?」
――「あ」って何?
「……なんなの、あの子は!」
訳が分からない。いきなり電話をかけてきたと思えば、変わったことはないかだなんて。
すぐにもう一度佐保からの着信があったが、今度こそ恵里菜は無視して電源を落とした。
(ああもう、早く帰ろう)
一人暮らしのアパートがこんなに恋しいなんて初めてだ。
恵里菜は1DKのアパートを格安で借りている。来年の四月に取り壊すことが決まっているからこその低家賃なのだが、部屋は南向きで広さも十分、恵里菜が落ち着ける唯一の城だ。
(年明けには新しい家探さないと。……めんどくさいな)
疲れと酔いで体力の限界だった恵里菜は、早く寝たいという一心で階段を上ったが――上り終えた瞬間、足が止まった。
(……誰?)
部屋の前に黒いスーツを着た男が座り込んでいる。薄明かりのため顔は見えないが、恐ろしく足が長い。寝ているのか酔っているのか、右手で額を押さえてうずくまるその姿は異様だった。
日付も変わった深夜。大通りから一本奥に入ったアパート周辺に人気はない。
目の前の光景に恵里菜は混乱した。よりによってなぜ、自分の部屋の前にいるのだ。
どうしよう。とりあえず警察に通報する?
先ほどの佐保との会話が思い浮かんだ。姉はこのことを言っていたのだろうか?
とにかく、いったんここを離れよう。コンビニでも車の中でもいい、不審者がどこかに行ってしまうまで待たなければ。
状況が呑み込めないながらも物音を立てぬよう一歩後ろに下がった、その時だった。
「きゃっ!」
ヒールが滑って思いきりその場にひっくり返る。腰から上を強く打ち、一瞬目の前が真っ白になった。
尋常じゃない痛みだ。頭にも絶対こぶができている。痛い、最悪だ。
「……何やってんだよ。大丈夫か?」
「見てないで助けて……え?」
恵里菜は我に返った。気付かれないように動いていたのに、自分から転倒した挙句、不審者に助けを求めてどうする。
慌てて立ち上がろうとするも痛みで体に力が入らない。
怖い。恥ずかしい。とにかくなんでもいいから立ち去ってほしい。
しかしそんな願いとは裏腹に、男はあろうことか恵里菜の体を抱き上げた。
「え……なに、やだ、下ろして!」
ふわりとした浮遊感と、頬に感じるスーツの感触に慌てて身をよじる。けれど、男の逞しい腕は長身の恵里菜の渾身の力を持ってしても、びくともしなかった。
「鍵、出して。部屋って一番奥だろ。この通り両手が塞がってるから、エリが開けてくれないと中に入れない」
なぜ不審者を家に招かなければならないのだ。男の顔を睨みつけようとして何かが引っかかった。
(……待って、今この人、私のこと――)
「エリ」と。この男は確かに恵里菜をそう呼んだ。
どくん、と心臓が激しく鼓動する。冷えきっていた足先から指先まで勢い良く血が巡り始めるような錯覚さえ覚えた。「新名さん」でも「エリー」でも「エリちゃん」でもない。ただ一人だけ恵里菜をそう呼んだ――思い出すのが嫌で、あれ以来誰にも呼ばせなかった「エリ」という愛称。
「……あき、ら……?」
八年前に比べて随分と逞しくなった体。真っ黒な髪に、シルバーの眼鏡。あの頃では考えられない真面目な姿だけれど、眼鏡の奥から恵里菜を見下ろす視線の強さは何も変わらない。
最後に別れた時よりずっと――悔しくなるほど素敵な、「大人の男」。
――ああ。
だから会いたくなかった。こうなってしまうと心のどこかで思っていたから。
卒業後の彼がどんな道に進んだかを、本人にはもちろん、人に聞こうともしなかった、それなのに。
八年ぶりに現れた幼馴染は、呆気無く恵里菜の心を奪っていった。
2
「初めて会った時にね、分かったの」
姉の結婚前夜、「どうして結婚を決めたのか」と恵里菜は一度だけ尋ねたことがある。妹からの珍しい問いかけに、佐保は一瞬驚いた表情をしたあと小さく笑った。
「好きだとか、かっこいいなあとか思うより前に『この人だ!』って思ったの。直感……なのかな。よく分からないけど。まだ高校生だったのに、変だよね」
幸せの絶頂にある彼女の微笑みは、恵里菜も思わず見とれてしまうくらいに素敵だった。花が綻ぶような笑顔というのはきっと、あの時の佐保のものを言うのだろう。
佐保は高校一年生の春に、後に夫となる人に出会った。恵里菜もよく知るその人が佐保にとっての「運命の人」ならば、きっと恵里菜にとっての「運命の人」は晃だったのだと思う。
それくらい、十八歳の幼い自分は真剣に恋をした。これから先も二人はずっと一緒にいる――そう信じて疑わないほど、恵里菜は晃を想っていたのだ。だからこそ振られた後、恵里菜は何度も考えた。
もしも別れた直後に晃がよりを戻そうと言ってくれていたら。もし、あれは嘘だ、やり直そうと晃が言ってきたら。
それでも現実は何も変わらなくて、恵里菜は晃を失った現実に直面した。
――そんな相手が何の前触れもなく突然目の前に現れた。
「足、痛いんだろ。早く鍵出せって」
どうしてここにいるの。なんでそんな風に普通にしていられるの。
「エリ?」
呼ばないで。私を見ないで、触らないで。
抱き上げられた状態のまま、恵里菜の中では泉のように言葉が湧いてくる。
しかしそれらを声に出すことはできなかった。代わりにぐっと奥歯を噛みしめて唇を引き結ぶ。
十代の頃ならばきっと泣き喚いた。でも恵里菜は、もう二十六歳の大人だ。学生の頃とは違う。
かといって全てを水に流して受け止められるほど大人にもなりきれていない。今の自分にできるのは、ただ無理やり感情を押し込めることだけだ。
「……鍵、バッグの内側に入ってる。それより、早く下ろしてよ」
「だめだ、足捻ったんだろ」
晃は恵里菜を抱いたまま、落ちていたバッグから器用に鍵を取り出し、部屋の扉を開けた。
玄関に入ると真っ暗な部屋が二人を迎える。恵里菜は抱きかかえられた体勢で、電気のスイッチを押すと、頭上で「うわ……」と呟く声が聞こえた。
「……きったねえ部屋」
「なっ……!」
反論したかったけれど、改めて部屋を見ると何も言えなくなってしまう。
確かに「きったねえ」部屋だった。ベッドには脱ぎっぱなしの服が乱雑に散らばっていて、小さな丸テーブルには漫画と小説が山積みになっている。台所のシンクには二日前に使った食器がそのまま置いてあるし、ゴミ箱にはコンビニ弁当の残骸が堂々と陣取っていた。
「……仕方ないでしょ。最近忙しくて、家事まで手が回らなかったの」
この一ヶ月は、本当に寝に帰るだけの生活だったのだ。貴重な休みも体力の回復に努めるだけで終わってしまった。
晃はそれに答えず、「上がるぞ」と革靴を脱ぐなり、ダイニングキッチンの椅子に恵里菜を下ろした。晃のぬくもりが離れたところで、ようやく恵里菜はほっと息を吐く。一方の晃はといえば、スーツの上着を丁寧に畳んで向かい側の椅子の背もたれにかけると、そこに座った。
まるで我が家のようにくつろぐその姿に、恵里菜は一瞬自分が家主であることを疑った。
問答無用で叩きだしてしまえばいい。頭の隅では冷静な自分がそう訴えているのに、いざ実行しようとすると、とても難しかった。
晃が目の前にいる。その現実に思考と行動がついていかない。
沈黙が二人の間に流れる。それはわずかな時間だったけれど、恐ろしく長く感じられた。恵里菜にできるのはただ、うつむいてテーブルを睨みつけることだけだ。そうでもしないとこの沈黙に耐えられない。そんな状態にも拘わらず、晃の視線がどこを向いているのか嫌でも分かった。
――見られている。
視線が、熱い。
「エリ」
びくん、と大げさなくらい肩が震えた。恐る恐る顔を上げれば、何かを探すように室内を見渡していた晃と目が合った。
「救急箱、どこ?」
晃の口から救急箱という単語。似合わない組み合わせに反射的にぽかんとしてしまう。
「救急箱なんて置いてないよ」
「ない? 一人暮らしの女の家なのに?」
信じられないと言わんばかりの言い草にかちんときた恵里菜は、テーブルの下でぐっと拳を握って晃を睨んだ。晃は、一人暮らしの女の家には救急箱があって当然だと思っている。それはつまり、比較対象がいるということだ。
別れたあと晃が誰と付き合っていようと恵里菜には関係ない。それでも無意識に比較するような発言をした晃に……何よりそれを敏感に感じ取ってしまう自分に苛立った。
「――帰って。っていうか、お願いだから今すぐ帰れ」
付き合っていた頃、晃に対して命令口調で話したことなんて一度もない。
晃もそれを覚えていたらしく、彼はあからさまに不機嫌な表情を見せた。
「……お前、口悪くなってねえ?」
「そう? 元彼に影響されたのかもね」
暗にあんたのせいだと言えば、晃の眉間に皺が寄る。
「……『元彼』?」
なまじ顔立ちが整っているだけにその様子はどこかすごみがあって、恵里菜は情けなくも動揺した。こうして室内の灯りのもとで真正面から見る晃は、悔しいくらいに格好いい。
艶のある黒髪にシルバーの眼鏡をかけた姿は知的で、見た目だけなら八年前と真逆の雰囲気だ。仕事終わりなのだろうか、ワイシャツの胸元を緩める姿に学生時代にはなかった色気が感じられた。
だが恵里菜とて負けていられない。
(どうして私が睨まれなきゃいけないの)
元彼と言った瞬間、晃はいっそう不機嫌になった。恵里菜と付き合っていた過去などなかったことにしたいのだろうか。
(そんなの、私だって同じだ)
好きにならなければ、付き合わなければ。今更そんなことを考えても仕方がないと理解しているのに、あの時ああしていればという思いは、いつまでたっても消えない。
何よりこんな再会は――いいや、再会自体望んでいなかったのだ。
「――この通り、私は口が悪いんです。きっとあなたのことも不快にさせるでしょうから、今すぐお引き取り下さい。あなたに驚かされたせいだけど、転んだところを助けて下さってありがとうございました。さあどうぞ、お出口はあちらです!」
一気に言い切った恵里菜を晃は呆れたように眺める。
「少し落ち着けよ。俺はお前に用があって来たんだから、帰るわけにいかない」
「残念ね。あなたに用があっても、私にはありません」
「敬語やめろ」
「赤の他人と敬語以外の何で話せって?」
二度と会いたくないと思っていた男。
それは恵里菜にとって、もはや他人だ。たとえ、こうして相対している間も、痺れるような胸の痛みを感じていたとしても――自分たちの関係はもう、八年も前に終わっているのだから。
「なんで私の住所が分かったのか知らないけど、もしかして大量の不在着信もあなたですか?」
「仕方ないだろ。何回電話しても、お前出ないし」
「普通、知らない番号からの着信は取りません」
「――エリ」
宥めるような静かな声に、一瞬胸が痛んだ。彼だけが呼んだその名前。なれなれしいと憤る一方で、懐かしさを覚える自分もいた。混同する二つの感情に、だんだんと息が詰まってくる。
「……誰に私の番号を聞いたの」
「おばさんに聞いた。佐保に電話しても、絶対教えない! の一点張りだったからな」
ごく自然に呼ばれた「佐保」という響き。晃の声が幼馴染の名前を呼んだ。そんななんでもないことなのに、こんなにも気分が沈む。
「……エリ?」
そんな風に呼ばないで。私はもう、あの頃の私じゃない。
「――顔も見たくない、か。当然だよな」
自嘲めいたため息にも恵里菜は顔を上げなかった。
「悪かったな」
そう言って晃は背広を手に立ち上がる。頑なな態度に呆れたのだろう。部屋から出ていくその後ろ姿を恵里菜が止めることはなかった。構わない、これで良かったのだ。
「なのに、なんで……」
こんなにも胸が痛いのだろう。
ほんの少し言葉を交わしただけの晃の姿が目に焼き付いて離れなかった。大人になった晃。突然現れて、心をかき乱して――そして、出ていった。
「……全部、夢ならいいのに」
だが、現実逃避をしたままでいられるわけもなかった。電源を落としていたスマートフォンを起動させると、案の定佐保からの着信が入っている。遅い時間を承知の上で折り返すと、一コール待たずに『エリちゃん?』という眠そうな声が聞こえてきた。
『さっきはごめんね、充電が切れちゃって。でも、どうしても言わなきゃいけないことが――』
「佐保。……晃が来たよ」
電話の奥で佐保が息を呑むのが分かった。
『……あっくん、なんて言ってたの?』
「用事があったみたいだけど、聞かずに追い返した。佐保が電話してきたのってこのことだよね?」
『……うん。実は、この前いきなりエリちゃんの連絡先を教えてって、あっくんから電話が来て……私は教えなかったんだけど、今日お母さんと話してたら、教えちゃったって聞いたの。間に合わなくて、ごめんね』
「佐保が悪い訳じゃないから。……ねえ、佐保はどうして晃に私の連絡先を教えなかったの」
『……エリちゃん?』
戸惑う姉の声に、恵里菜は晃と別れた直後のことを思い出していた。
その日、涙で目を真っ赤にした妹を姉は大慌てで迎えた。晃と別れたことだけを伝えると、佐保はまるで自分が傷ついたように泣きそうな顔をした。
「別れたって……なん、で?」
「好きな人ができたらしいよ」
それが誰かなんて言わなくても分かるだろう。皮肉を込めて涙目で睨みつければ、佐保は玄関に立つ恵里菜を押しのけて家を出て行こうとした。
「……どこに行くの?」
「あっくんのとこだよ! エリちゃんを泣かせるなんて、いくらあっくんでも許せない!」
「佐保は、晃から何も聞いてないの?」
「……エリちゃん? 聞いてないって、なんのこと?」
その答えに恵里菜は愕然とした。
お前は佐保の代わりだったのだと晃は言った。種明かしをするぐらいなのだから、てっきり本人に告白したものと思っていたが、どうやら違ったらしい。
(佐保が晃と付き合うことは、ありえない)
佐保にはもう心に決めた人がいる。それを知っていても晃は諦められなくて、だからこそ恵里菜を選んだのだろう。もしも佐保に想いを告げれば妹思いの彼女が傷つくことを晃は理解している。
だから自分の恋心を隠し通したのだ。全ては、佐保を傷つけないために。
でも、佐保は晃の気持ちなんて知らないから、妹を傷つけた相手をきっと許さない。
晃にとっても佐保にとっても、いいことなんて何もないのに。
冷静な判断ができなくなるほど惹かれていたのだろう。
――ねえ、佐保。私は佐保の代わりだったんだって。晃は佐保のことが好きだったんだよ。
――どうして晃の気持ちを奪ったの、あんたなんか大嫌い。
晃の気持ちを代弁するのも、佐保を問い詰めるのも簡単だ。でも恵里菜はそれをしなかった。
それが恵里菜の女としての唯一のプライドだったのだ。
そして、これ以上傷つきたくなくて恵里菜は逃げた。
第一志望の地元の国立大ではなく、都内の大学を受験したのだ。
両親は都内進学を快く思っていなかったけれど、恵里菜の初めてと言ってもいいわがままに、戸惑いながらも了承してくれた。結局、四年間の学費に加えて月数万の仕送りまでしてもらえたのだから、両親には本当に感謝している。
「晃に私のことは何も話さないで。もし教えたら、もうこの街には戻ってこない」
家族にそう口止めをしたから、晃は恵里菜が受験先を変えたなんて思いもしないだろう。
彼はきっとあの大学に合格する。でもそこに恵里菜はいない。
それについて晃がどう思うか、恵里菜には分からないが、彼が自分をどう思っているかなんて、もう知りたくもなかった。
恵里菜は逃げた。佐保やこの街。――そして、晃から。
『どうしてって……あっくんに「自分の居場所を教えないで」って言ったのはエリちゃんでしょう?』
そして今、優しい姉の答えは恵里菜の予想していた通りで思わず笑った。
(そうなったのは、誰のせい?)
卒業後、双子の間ではもちろん、新名家でも晃の話題はタブーになっていた。
『でも、あっくんいきなりどうしたんだろう』
「どうしたんだろうって、晃が今何しているのか佐保は知ってるんでしょ?」
『こっちの大学を卒業したあと、一度は都内の企業に就職したみたいだよ。でも少し前に地元に戻ってきて、今はこっちで働いているみたい。私も高校卒業後は会ってないから、詳しくは知らないけど。ただ、颯太さんとあっくんがお年賀のやりとりをしてるみたいで、住所は分かるよ。ええっと、年賀状は……どこに置いたかな』
「別に住所なんていいよ!」
『そう? もし、知りたかったらメールで送るから言ってね。――あ! ねえ、エリちゃん。今年の年末は実家に顔出すよね? もうしばらく会ってないし……私、エリちゃんに会いたいよ。ほら、紗里と彩里にも会ってほしいし……。ちょっと待ってね、ちょうど二人とも起きちゃって。ほら、さーちゃん、あーちゃん。エリちゃんに「こんにちは」って』
電話越しに可愛らしい二つの笑い声が聞こえ、思わず頬が緩んだ。紗里と彩里。今年三歳になる可愛い双子の姪たちだ。実家に顔を出すと母親が必ず写真を見せてくるから成長ぶりは知っているが、やはり会って確かめたい。佐保に対する気持ちは別にして、幼い姪っ子のことは大好きだ。
「……分かった、帰るよ。先生にも久しぶりに挨拶したいし」
『――颯太さんに、会いたいの?』
なぜか佐保の声がワントーン下がった。
「え……会いたいっていうか、うん、久しぶりにお話はしたいよ。佐保にとっては旦那さんだけど、私にとってはお世話になった先生だもの」
宮野颯太。佐保の夫であり、高校時代の恵里菜の恩師だ。たまに会った時に共に交わす酒がとても楽しく、だからこそ聞いてみたのだけれど。
「何か都合が悪いの?」
『ううん、なんでもない! そ、そっかお酒……うん、そうだよね。分かった、颯太さんにも伝えておくね。じゃあね、エリちゃん。年末に会えるの楽しみにしてるね』
口早にそう言って電話は切れた。途端にため息が漏れる。敬遠していた姉と会話したせいか、それとも新たに分かった事実故か、どちらとも言えない。
(……晃、都内で就職したんだ)
地元を離れながらもこうして戻ってきた恵里菜と、地元に残りその後出て行った晃。そんな彼も今ではこちらで働いている。
(だから、会いに来た?)
昔なじみの女を思い出したから? それとも、他に何か理由があって?
晃が座っていた方をぼんやりと見る。すぐに呆れて帰るくらいなら初めから来ないでほしかった。思い出したくなかったのに、どうして――
頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。今はもう何も考えたくはない。眠って全てを忘れたい。
そうでなければ過去に意識を引きずられてしまう。
「……わけ分かんない」
ベッドに行く気すら起きず、ダイニングテーブルに突っ伏した、その時だった。
ガチャン、と玄関の扉が開く音がして、思わず顔を上げる。
――帰ったはずの晃が、そこにいた。
「なんで……っ!」
慌てて立ち上がろうとするも、捻った足首に痛みが走る。たまらず椅子に座り込むのと、晃が靴を脱ぎ捨てて駆け寄ってくるのは同時だった。
「足、痛むのか?」
「……帰ったんじゃなかったの」
唖然とする恵里菜の前に跪いた晃は、「これを買いに行ってた」と床に置いたビニール袋から冷却シートを取り出した。そのまま恵里菜の足首に触れる。
「んっ」
ひんやりとした指先に触れられ、思わず声が漏れる。晃は一瞬指を引くと、どこか厳しい表情で恵里菜を見上げた。
「……変な声出すなよ」
「だって、いきなり触るから!」
「貼るだけだ。今も痛いんだろ、このままじゃ明日腫れるぞ」
誰のせいで、と言いかけた言葉は、「――俺のせいだよな、ごめん」という言葉を前に自然と消えてしまった。
潔く謝られたからではない。形の良い薄い唇を引き結ぶその表情が、辛そうに見えたからだ。
「俺に触られるのは嫌だろうけど、少しだけ我慢してくれ。すぐに終わる。ハサミ、どこ?」
「キッチンにあるけど……ねえ、自分で貼れるから」
しかし晃は恵里菜の精いっぱいの反抗を無視して、手早く足首にシートを貼る。その後キッチンからハサミを持ってくると、袋から取り出した包帯を適当な長さに切って丁寧に巻き始めた。
「……大げさすぎるよ」
「こういうのは最初が肝心なんだよ。しっかり冷やしておいた方がいい」
過保護なくらいの手当てを受けながら、恵里菜は自分の目の前に跪く晃をそっと見下ろした。
(……なんで、こんなに無駄に格好いいのよ)
この顔立ちは反則だ。八年前から一気に「大人」になった晃に見上げられて、好き嫌い以前に、ただただ恥ずかしい。不可抗力だと分かりつつも照れてしまう自分にうんざりする。
そういえば晃は変な所で小うるさかった。運動が苦手な恵里菜は体育の授業でよく怪我をしたが、校庭で転んで膝をすりむいた時なんて、嫌がる恵里菜を無理やり抱えて保健室に連れて行ったものだ。
「これで大丈夫だと思うけど、長引きそうなら病院に行けよ」
「うん。……ありがとう」
言いたいことは山ほどあるが、ありすぎて言葉にならない。とりあえず手当てしてくれたことには素直に礼を言うと、晃は大げさなくらい目を大きく見開いた。
「何、その顔」
「……いや、礼を言われるとは思わなかった」
「変なところで驚くんだね。――それで、今更なんの用?」
突然押しかけてきた相手を無表情に見つめる。恵里菜から距離を取った晃は壁際に立つと、その視線を受け止めた。
「話がある」
「私に話すことなんてない、だから帰って。――そう言っても、無駄なんでしょ」
「ああ、悪いけど、聞いてもらえるまでは帰らない」
「……あいかわらず、勝手だね」
晃は眉を寄せるだけで何も言い返そうとはしなかった。
(落ち着け)
深呼吸をして心を整える。手当てをする時わずかに足首に触れた晃の手、自分を見上げる瞳、今もなお自分にまっすぐ注がれる視線。その全てが恵里菜を戸惑わせる。
「その『話』っていうのは、深夜に一人暮らしの女性の部屋に押しかけなきゃいけないくらい大切な話なの? 佐保に聞いたよ。今はこっちで働いているらしいけど、金曜の夜に待ち伏せするなんて随分暇な仕事なんだね」
何の仕事かも知らずわざと嫌味を言っているのに、晃は機嫌を損ねるどころか驚いた様子だった。
「佐保と最近会ってるのか?」
「一年以上会ってないけど」
「……そんなに?」
「お互いいい大人なんだし、別におかしい話じゃないでしょ。さっき電話したの。佐保には家庭があるし、私だって仕事がある。それに、私が佐保に会おうと会うまいと晃に関係ない。ついでに言わせてもらえば、夜中にいきなり押しかけるなんて、社会人としてちょっと非常識なんじゃない」
「事前に連絡したら逃げると思ったから、こうするしかなかったんだ」
「私が晃のことを歓迎するわけないじゃない。ほんと、いい性格してる」
あえて強烈な皮肉を言った。怒ればいい、幻滅すればいい。声を荒らげるまではしなくても、恵里菜は晃が不機嫌になることを想定した。
しかし晃の顔を見て、戸惑わずにいられない。彼は怒るでもなくただ辛そうに――まるで傷ついたような表情を見せたのだ。
(なんで……?)
恵里菜がそうなるならまだ分かる。でもなぜ、晃がそんな顔をする?
「エリが俺に会いたくないのも、そうさせるだけのことをした自覚もある。何を言っても言い訳にしかならないのは十分、分かってる」
「だったらなんで――」
「それでも会いたかった」
恵里菜は唇を噛みしめた。
恐る恐る留守電を再生しようと指を滑らせたのと同時に、再度佐保からの着信が入る。咄嗟に通話ボタンを押してしまったが仕方ない、恵里菜は嫌々ながらスマートフォンを耳に当てた。
「……もしもし?」
『あ、エリちゃん? やっと繋がった!』
高く澄んだ声が、酔った頭にダイレクトに響いた。
「……会社の先輩と飲んでたから気が付かなかった、ごめん」
『ううん、私こそ何回もごめんね。それよりエリちゃん、今どこにいるの?』
「どこって、これからアパートに帰るところだけど」
『こんな時間に? 危ないじゃない、女の子が遅くに一人で夜道を歩いちゃだめだよ!』
「もうアパートの前だから大丈夫だよ。――それより、何の用?」
早く切り上げようと恵里菜はわざと低い声を心がける。どこか焦ったような姉の声に違和感を覚えながらも、心の中では早く電話を切りたくて仕方なかった。
「急ぎの用事じゃないなら切ってもいいかな。仕事終わりで疲れてるの。大分酔ってるし、すぐに帰って寝たいんだ。……悪いけど、佐保の大声は頭に響いて痛い」
なんて嫌な妹だろう。自分で言っていて気が滅入る。佐保を前にするといつもこうだ。
双子の母親でもある姉は子育てをしながら夫の両親と同居している。佐保のことだ、彼らにも大切にされているだろう。恵里菜にはとても真似できない。
『うん、疲れてる時にごめんね』
だから、嫌い。恵里菜がどんなに冷たいことを言っても、優しい姉は絶対に怒ったりせず、笑顔で跳ね返してしまうのだ。
『でもエリちゃんにどうしても伝えなきゃいけないことがあって! エリちゃん、最近身の回りで変わったことはない? 変な人とか、危ないこととかなかった?』
「……何、それ。特にないけど」
『本当? ああ、良かった! 昼間お母さんにも電話したんだけど、お母さんったらもう、どうしてあんなこと……』
「お母さんに何かあったの?」
『え、ううん。元気そうだったよ?』
「じゃあ、何?」
要領を得ない話し方に、だんだんとイライラしてくる。
『エリちゃん、あのね、あ――』
ぷつり、と通話はそこで切れた。
「佐保? ちょっ、佐保?」
――「あ」って何?
「……なんなの、あの子は!」
訳が分からない。いきなり電話をかけてきたと思えば、変わったことはないかだなんて。
すぐにもう一度佐保からの着信があったが、今度こそ恵里菜は無視して電源を落とした。
(ああもう、早く帰ろう)
一人暮らしのアパートがこんなに恋しいなんて初めてだ。
恵里菜は1DKのアパートを格安で借りている。来年の四月に取り壊すことが決まっているからこその低家賃なのだが、部屋は南向きで広さも十分、恵里菜が落ち着ける唯一の城だ。
(年明けには新しい家探さないと。……めんどくさいな)
疲れと酔いで体力の限界だった恵里菜は、早く寝たいという一心で階段を上ったが――上り終えた瞬間、足が止まった。
(……誰?)
部屋の前に黒いスーツを着た男が座り込んでいる。薄明かりのため顔は見えないが、恐ろしく足が長い。寝ているのか酔っているのか、右手で額を押さえてうずくまるその姿は異様だった。
日付も変わった深夜。大通りから一本奥に入ったアパート周辺に人気はない。
目の前の光景に恵里菜は混乱した。よりによってなぜ、自分の部屋の前にいるのだ。
どうしよう。とりあえず警察に通報する?
先ほどの佐保との会話が思い浮かんだ。姉はこのことを言っていたのだろうか?
とにかく、いったんここを離れよう。コンビニでも車の中でもいい、不審者がどこかに行ってしまうまで待たなければ。
状況が呑み込めないながらも物音を立てぬよう一歩後ろに下がった、その時だった。
「きゃっ!」
ヒールが滑って思いきりその場にひっくり返る。腰から上を強く打ち、一瞬目の前が真っ白になった。
尋常じゃない痛みだ。頭にも絶対こぶができている。痛い、最悪だ。
「……何やってんだよ。大丈夫か?」
「見てないで助けて……え?」
恵里菜は我に返った。気付かれないように動いていたのに、自分から転倒した挙句、不審者に助けを求めてどうする。
慌てて立ち上がろうとするも痛みで体に力が入らない。
怖い。恥ずかしい。とにかくなんでもいいから立ち去ってほしい。
しかしそんな願いとは裏腹に、男はあろうことか恵里菜の体を抱き上げた。
「え……なに、やだ、下ろして!」
ふわりとした浮遊感と、頬に感じるスーツの感触に慌てて身をよじる。けれど、男の逞しい腕は長身の恵里菜の渾身の力を持ってしても、びくともしなかった。
「鍵、出して。部屋って一番奥だろ。この通り両手が塞がってるから、エリが開けてくれないと中に入れない」
なぜ不審者を家に招かなければならないのだ。男の顔を睨みつけようとして何かが引っかかった。
(……待って、今この人、私のこと――)
「エリ」と。この男は確かに恵里菜をそう呼んだ。
どくん、と心臓が激しく鼓動する。冷えきっていた足先から指先まで勢い良く血が巡り始めるような錯覚さえ覚えた。「新名さん」でも「エリー」でも「エリちゃん」でもない。ただ一人だけ恵里菜をそう呼んだ――思い出すのが嫌で、あれ以来誰にも呼ばせなかった「エリ」という愛称。
「……あき、ら……?」
八年前に比べて随分と逞しくなった体。真っ黒な髪に、シルバーの眼鏡。あの頃では考えられない真面目な姿だけれど、眼鏡の奥から恵里菜を見下ろす視線の強さは何も変わらない。
最後に別れた時よりずっと――悔しくなるほど素敵な、「大人の男」。
――ああ。
だから会いたくなかった。こうなってしまうと心のどこかで思っていたから。
卒業後の彼がどんな道に進んだかを、本人にはもちろん、人に聞こうともしなかった、それなのに。
八年ぶりに現れた幼馴染は、呆気無く恵里菜の心を奪っていった。
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「初めて会った時にね、分かったの」
姉の結婚前夜、「どうして結婚を決めたのか」と恵里菜は一度だけ尋ねたことがある。妹からの珍しい問いかけに、佐保は一瞬驚いた表情をしたあと小さく笑った。
「好きだとか、かっこいいなあとか思うより前に『この人だ!』って思ったの。直感……なのかな。よく分からないけど。まだ高校生だったのに、変だよね」
幸せの絶頂にある彼女の微笑みは、恵里菜も思わず見とれてしまうくらいに素敵だった。花が綻ぶような笑顔というのはきっと、あの時の佐保のものを言うのだろう。
佐保は高校一年生の春に、後に夫となる人に出会った。恵里菜もよく知るその人が佐保にとっての「運命の人」ならば、きっと恵里菜にとっての「運命の人」は晃だったのだと思う。
それくらい、十八歳の幼い自分は真剣に恋をした。これから先も二人はずっと一緒にいる――そう信じて疑わないほど、恵里菜は晃を想っていたのだ。だからこそ振られた後、恵里菜は何度も考えた。
もしも別れた直後に晃がよりを戻そうと言ってくれていたら。もし、あれは嘘だ、やり直そうと晃が言ってきたら。
それでも現実は何も変わらなくて、恵里菜は晃を失った現実に直面した。
――そんな相手が何の前触れもなく突然目の前に現れた。
「足、痛いんだろ。早く鍵出せって」
どうしてここにいるの。なんでそんな風に普通にしていられるの。
「エリ?」
呼ばないで。私を見ないで、触らないで。
抱き上げられた状態のまま、恵里菜の中では泉のように言葉が湧いてくる。
しかしそれらを声に出すことはできなかった。代わりにぐっと奥歯を噛みしめて唇を引き結ぶ。
十代の頃ならばきっと泣き喚いた。でも恵里菜は、もう二十六歳の大人だ。学生の頃とは違う。
かといって全てを水に流して受け止められるほど大人にもなりきれていない。今の自分にできるのは、ただ無理やり感情を押し込めることだけだ。
「……鍵、バッグの内側に入ってる。それより、早く下ろしてよ」
「だめだ、足捻ったんだろ」
晃は恵里菜を抱いたまま、落ちていたバッグから器用に鍵を取り出し、部屋の扉を開けた。
玄関に入ると真っ暗な部屋が二人を迎える。恵里菜は抱きかかえられた体勢で、電気のスイッチを押すと、頭上で「うわ……」と呟く声が聞こえた。
「……きったねえ部屋」
「なっ……!」
反論したかったけれど、改めて部屋を見ると何も言えなくなってしまう。
確かに「きったねえ」部屋だった。ベッドには脱ぎっぱなしの服が乱雑に散らばっていて、小さな丸テーブルには漫画と小説が山積みになっている。台所のシンクには二日前に使った食器がそのまま置いてあるし、ゴミ箱にはコンビニ弁当の残骸が堂々と陣取っていた。
「……仕方ないでしょ。最近忙しくて、家事まで手が回らなかったの」
この一ヶ月は、本当に寝に帰るだけの生活だったのだ。貴重な休みも体力の回復に努めるだけで終わってしまった。
晃はそれに答えず、「上がるぞ」と革靴を脱ぐなり、ダイニングキッチンの椅子に恵里菜を下ろした。晃のぬくもりが離れたところで、ようやく恵里菜はほっと息を吐く。一方の晃はといえば、スーツの上着を丁寧に畳んで向かい側の椅子の背もたれにかけると、そこに座った。
まるで我が家のようにくつろぐその姿に、恵里菜は一瞬自分が家主であることを疑った。
問答無用で叩きだしてしまえばいい。頭の隅では冷静な自分がそう訴えているのに、いざ実行しようとすると、とても難しかった。
晃が目の前にいる。その現実に思考と行動がついていかない。
沈黙が二人の間に流れる。それはわずかな時間だったけれど、恐ろしく長く感じられた。恵里菜にできるのはただ、うつむいてテーブルを睨みつけることだけだ。そうでもしないとこの沈黙に耐えられない。そんな状態にも拘わらず、晃の視線がどこを向いているのか嫌でも分かった。
――見られている。
視線が、熱い。
「エリ」
びくん、と大げさなくらい肩が震えた。恐る恐る顔を上げれば、何かを探すように室内を見渡していた晃と目が合った。
「救急箱、どこ?」
晃の口から救急箱という単語。似合わない組み合わせに反射的にぽかんとしてしまう。
「救急箱なんて置いてないよ」
「ない? 一人暮らしの女の家なのに?」
信じられないと言わんばかりの言い草にかちんときた恵里菜は、テーブルの下でぐっと拳を握って晃を睨んだ。晃は、一人暮らしの女の家には救急箱があって当然だと思っている。それはつまり、比較対象がいるということだ。
別れたあと晃が誰と付き合っていようと恵里菜には関係ない。それでも無意識に比較するような発言をした晃に……何よりそれを敏感に感じ取ってしまう自分に苛立った。
「――帰って。っていうか、お願いだから今すぐ帰れ」
付き合っていた頃、晃に対して命令口調で話したことなんて一度もない。
晃もそれを覚えていたらしく、彼はあからさまに不機嫌な表情を見せた。
「……お前、口悪くなってねえ?」
「そう? 元彼に影響されたのかもね」
暗にあんたのせいだと言えば、晃の眉間に皺が寄る。
「……『元彼』?」
なまじ顔立ちが整っているだけにその様子はどこかすごみがあって、恵里菜は情けなくも動揺した。こうして室内の灯りのもとで真正面から見る晃は、悔しいくらいに格好いい。
艶のある黒髪にシルバーの眼鏡をかけた姿は知的で、見た目だけなら八年前と真逆の雰囲気だ。仕事終わりなのだろうか、ワイシャツの胸元を緩める姿に学生時代にはなかった色気が感じられた。
だが恵里菜とて負けていられない。
(どうして私が睨まれなきゃいけないの)
元彼と言った瞬間、晃はいっそう不機嫌になった。恵里菜と付き合っていた過去などなかったことにしたいのだろうか。
(そんなの、私だって同じだ)
好きにならなければ、付き合わなければ。今更そんなことを考えても仕方がないと理解しているのに、あの時ああしていればという思いは、いつまでたっても消えない。
何よりこんな再会は――いいや、再会自体望んでいなかったのだ。
「――この通り、私は口が悪いんです。きっとあなたのことも不快にさせるでしょうから、今すぐお引き取り下さい。あなたに驚かされたせいだけど、転んだところを助けて下さってありがとうございました。さあどうぞ、お出口はあちらです!」
一気に言い切った恵里菜を晃は呆れたように眺める。
「少し落ち着けよ。俺はお前に用があって来たんだから、帰るわけにいかない」
「残念ね。あなたに用があっても、私にはありません」
「敬語やめろ」
「赤の他人と敬語以外の何で話せって?」
二度と会いたくないと思っていた男。
それは恵里菜にとって、もはや他人だ。たとえ、こうして相対している間も、痺れるような胸の痛みを感じていたとしても――自分たちの関係はもう、八年も前に終わっているのだから。
「なんで私の住所が分かったのか知らないけど、もしかして大量の不在着信もあなたですか?」
「仕方ないだろ。何回電話しても、お前出ないし」
「普通、知らない番号からの着信は取りません」
「――エリ」
宥めるような静かな声に、一瞬胸が痛んだ。彼だけが呼んだその名前。なれなれしいと憤る一方で、懐かしさを覚える自分もいた。混同する二つの感情に、だんだんと息が詰まってくる。
「……誰に私の番号を聞いたの」
「おばさんに聞いた。佐保に電話しても、絶対教えない! の一点張りだったからな」
ごく自然に呼ばれた「佐保」という響き。晃の声が幼馴染の名前を呼んだ。そんななんでもないことなのに、こんなにも気分が沈む。
「……エリ?」
そんな風に呼ばないで。私はもう、あの頃の私じゃない。
「――顔も見たくない、か。当然だよな」
自嘲めいたため息にも恵里菜は顔を上げなかった。
「悪かったな」
そう言って晃は背広を手に立ち上がる。頑なな態度に呆れたのだろう。部屋から出ていくその後ろ姿を恵里菜が止めることはなかった。構わない、これで良かったのだ。
「なのに、なんで……」
こんなにも胸が痛いのだろう。
ほんの少し言葉を交わしただけの晃の姿が目に焼き付いて離れなかった。大人になった晃。突然現れて、心をかき乱して――そして、出ていった。
「……全部、夢ならいいのに」
だが、現実逃避をしたままでいられるわけもなかった。電源を落としていたスマートフォンを起動させると、案の定佐保からの着信が入っている。遅い時間を承知の上で折り返すと、一コール待たずに『エリちゃん?』という眠そうな声が聞こえてきた。
『さっきはごめんね、充電が切れちゃって。でも、どうしても言わなきゃいけないことが――』
「佐保。……晃が来たよ」
電話の奥で佐保が息を呑むのが分かった。
『……あっくん、なんて言ってたの?』
「用事があったみたいだけど、聞かずに追い返した。佐保が電話してきたのってこのことだよね?」
『……うん。実は、この前いきなりエリちゃんの連絡先を教えてって、あっくんから電話が来て……私は教えなかったんだけど、今日お母さんと話してたら、教えちゃったって聞いたの。間に合わなくて、ごめんね』
「佐保が悪い訳じゃないから。……ねえ、佐保はどうして晃に私の連絡先を教えなかったの」
『……エリちゃん?』
戸惑う姉の声に、恵里菜は晃と別れた直後のことを思い出していた。
その日、涙で目を真っ赤にした妹を姉は大慌てで迎えた。晃と別れたことだけを伝えると、佐保はまるで自分が傷ついたように泣きそうな顔をした。
「別れたって……なん、で?」
「好きな人ができたらしいよ」
それが誰かなんて言わなくても分かるだろう。皮肉を込めて涙目で睨みつければ、佐保は玄関に立つ恵里菜を押しのけて家を出て行こうとした。
「……どこに行くの?」
「あっくんのとこだよ! エリちゃんを泣かせるなんて、いくらあっくんでも許せない!」
「佐保は、晃から何も聞いてないの?」
「……エリちゃん? 聞いてないって、なんのこと?」
その答えに恵里菜は愕然とした。
お前は佐保の代わりだったのだと晃は言った。種明かしをするぐらいなのだから、てっきり本人に告白したものと思っていたが、どうやら違ったらしい。
(佐保が晃と付き合うことは、ありえない)
佐保にはもう心に決めた人がいる。それを知っていても晃は諦められなくて、だからこそ恵里菜を選んだのだろう。もしも佐保に想いを告げれば妹思いの彼女が傷つくことを晃は理解している。
だから自分の恋心を隠し通したのだ。全ては、佐保を傷つけないために。
でも、佐保は晃の気持ちなんて知らないから、妹を傷つけた相手をきっと許さない。
晃にとっても佐保にとっても、いいことなんて何もないのに。
冷静な判断ができなくなるほど惹かれていたのだろう。
――ねえ、佐保。私は佐保の代わりだったんだって。晃は佐保のことが好きだったんだよ。
――どうして晃の気持ちを奪ったの、あんたなんか大嫌い。
晃の気持ちを代弁するのも、佐保を問い詰めるのも簡単だ。でも恵里菜はそれをしなかった。
それが恵里菜の女としての唯一のプライドだったのだ。
そして、これ以上傷つきたくなくて恵里菜は逃げた。
第一志望の地元の国立大ではなく、都内の大学を受験したのだ。
両親は都内進学を快く思っていなかったけれど、恵里菜の初めてと言ってもいいわがままに、戸惑いながらも了承してくれた。結局、四年間の学費に加えて月数万の仕送りまでしてもらえたのだから、両親には本当に感謝している。
「晃に私のことは何も話さないで。もし教えたら、もうこの街には戻ってこない」
家族にそう口止めをしたから、晃は恵里菜が受験先を変えたなんて思いもしないだろう。
彼はきっとあの大学に合格する。でもそこに恵里菜はいない。
それについて晃がどう思うか、恵里菜には分からないが、彼が自分をどう思っているかなんて、もう知りたくもなかった。
恵里菜は逃げた。佐保やこの街。――そして、晃から。
『どうしてって……あっくんに「自分の居場所を教えないで」って言ったのはエリちゃんでしょう?』
そして今、優しい姉の答えは恵里菜の予想していた通りで思わず笑った。
(そうなったのは、誰のせい?)
卒業後、双子の間ではもちろん、新名家でも晃の話題はタブーになっていた。
『でも、あっくんいきなりどうしたんだろう』
「どうしたんだろうって、晃が今何しているのか佐保は知ってるんでしょ?」
『こっちの大学を卒業したあと、一度は都内の企業に就職したみたいだよ。でも少し前に地元に戻ってきて、今はこっちで働いているみたい。私も高校卒業後は会ってないから、詳しくは知らないけど。ただ、颯太さんとあっくんがお年賀のやりとりをしてるみたいで、住所は分かるよ。ええっと、年賀状は……どこに置いたかな』
「別に住所なんていいよ!」
『そう? もし、知りたかったらメールで送るから言ってね。――あ! ねえ、エリちゃん。今年の年末は実家に顔出すよね? もうしばらく会ってないし……私、エリちゃんに会いたいよ。ほら、紗里と彩里にも会ってほしいし……。ちょっと待ってね、ちょうど二人とも起きちゃって。ほら、さーちゃん、あーちゃん。エリちゃんに「こんにちは」って』
電話越しに可愛らしい二つの笑い声が聞こえ、思わず頬が緩んだ。紗里と彩里。今年三歳になる可愛い双子の姪たちだ。実家に顔を出すと母親が必ず写真を見せてくるから成長ぶりは知っているが、やはり会って確かめたい。佐保に対する気持ちは別にして、幼い姪っ子のことは大好きだ。
「……分かった、帰るよ。先生にも久しぶりに挨拶したいし」
『――颯太さんに、会いたいの?』
なぜか佐保の声がワントーン下がった。
「え……会いたいっていうか、うん、久しぶりにお話はしたいよ。佐保にとっては旦那さんだけど、私にとってはお世話になった先生だもの」
宮野颯太。佐保の夫であり、高校時代の恵里菜の恩師だ。たまに会った時に共に交わす酒がとても楽しく、だからこそ聞いてみたのだけれど。
「何か都合が悪いの?」
『ううん、なんでもない! そ、そっかお酒……うん、そうだよね。分かった、颯太さんにも伝えておくね。じゃあね、エリちゃん。年末に会えるの楽しみにしてるね』
口早にそう言って電話は切れた。途端にため息が漏れる。敬遠していた姉と会話したせいか、それとも新たに分かった事実故か、どちらとも言えない。
(……晃、都内で就職したんだ)
地元を離れながらもこうして戻ってきた恵里菜と、地元に残りその後出て行った晃。そんな彼も今ではこちらで働いている。
(だから、会いに来た?)
昔なじみの女を思い出したから? それとも、他に何か理由があって?
晃が座っていた方をぼんやりと見る。すぐに呆れて帰るくらいなら初めから来ないでほしかった。思い出したくなかったのに、どうして――
頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。今はもう何も考えたくはない。眠って全てを忘れたい。
そうでなければ過去に意識を引きずられてしまう。
「……わけ分かんない」
ベッドに行く気すら起きず、ダイニングテーブルに突っ伏した、その時だった。
ガチャン、と玄関の扉が開く音がして、思わず顔を上げる。
――帰ったはずの晃が、そこにいた。
「なんで……っ!」
慌てて立ち上がろうとするも、捻った足首に痛みが走る。たまらず椅子に座り込むのと、晃が靴を脱ぎ捨てて駆け寄ってくるのは同時だった。
「足、痛むのか?」
「……帰ったんじゃなかったの」
唖然とする恵里菜の前に跪いた晃は、「これを買いに行ってた」と床に置いたビニール袋から冷却シートを取り出した。そのまま恵里菜の足首に触れる。
「んっ」
ひんやりとした指先に触れられ、思わず声が漏れる。晃は一瞬指を引くと、どこか厳しい表情で恵里菜を見上げた。
「……変な声出すなよ」
「だって、いきなり触るから!」
「貼るだけだ。今も痛いんだろ、このままじゃ明日腫れるぞ」
誰のせいで、と言いかけた言葉は、「――俺のせいだよな、ごめん」という言葉を前に自然と消えてしまった。
潔く謝られたからではない。形の良い薄い唇を引き結ぶその表情が、辛そうに見えたからだ。
「俺に触られるのは嫌だろうけど、少しだけ我慢してくれ。すぐに終わる。ハサミ、どこ?」
「キッチンにあるけど……ねえ、自分で貼れるから」
しかし晃は恵里菜の精いっぱいの反抗を無視して、手早く足首にシートを貼る。その後キッチンからハサミを持ってくると、袋から取り出した包帯を適当な長さに切って丁寧に巻き始めた。
「……大げさすぎるよ」
「こういうのは最初が肝心なんだよ。しっかり冷やしておいた方がいい」
過保護なくらいの手当てを受けながら、恵里菜は自分の目の前に跪く晃をそっと見下ろした。
(……なんで、こんなに無駄に格好いいのよ)
この顔立ちは反則だ。八年前から一気に「大人」になった晃に見上げられて、好き嫌い以前に、ただただ恥ずかしい。不可抗力だと分かりつつも照れてしまう自分にうんざりする。
そういえば晃は変な所で小うるさかった。運動が苦手な恵里菜は体育の授業でよく怪我をしたが、校庭で転んで膝をすりむいた時なんて、嫌がる恵里菜を無理やり抱えて保健室に連れて行ったものだ。
「これで大丈夫だと思うけど、長引きそうなら病院に行けよ」
「うん。……ありがとう」
言いたいことは山ほどあるが、ありすぎて言葉にならない。とりあえず手当てしてくれたことには素直に礼を言うと、晃は大げさなくらい目を大きく見開いた。
「何、その顔」
「……いや、礼を言われるとは思わなかった」
「変なところで驚くんだね。――それで、今更なんの用?」
突然押しかけてきた相手を無表情に見つめる。恵里菜から距離を取った晃は壁際に立つと、その視線を受け止めた。
「話がある」
「私に話すことなんてない、だから帰って。――そう言っても、無駄なんでしょ」
「ああ、悪いけど、聞いてもらえるまでは帰らない」
「……あいかわらず、勝手だね」
晃は眉を寄せるだけで何も言い返そうとはしなかった。
(落ち着け)
深呼吸をして心を整える。手当てをする時わずかに足首に触れた晃の手、自分を見上げる瞳、今もなお自分にまっすぐ注がれる視線。その全てが恵里菜を戸惑わせる。
「その『話』っていうのは、深夜に一人暮らしの女性の部屋に押しかけなきゃいけないくらい大切な話なの? 佐保に聞いたよ。今はこっちで働いているらしいけど、金曜の夜に待ち伏せするなんて随分暇な仕事なんだね」
何の仕事かも知らずわざと嫌味を言っているのに、晃は機嫌を損ねるどころか驚いた様子だった。
「佐保と最近会ってるのか?」
「一年以上会ってないけど」
「……そんなに?」
「お互いいい大人なんだし、別におかしい話じゃないでしょ。さっき電話したの。佐保には家庭があるし、私だって仕事がある。それに、私が佐保に会おうと会うまいと晃に関係ない。ついでに言わせてもらえば、夜中にいきなり押しかけるなんて、社会人としてちょっと非常識なんじゃない」
「事前に連絡したら逃げると思ったから、こうするしかなかったんだ」
「私が晃のことを歓迎するわけないじゃない。ほんと、いい性格してる」
あえて強烈な皮肉を言った。怒ればいい、幻滅すればいい。声を荒らげるまではしなくても、恵里菜は晃が不機嫌になることを想定した。
しかし晃の顔を見て、戸惑わずにいられない。彼は怒るでもなくただ辛そうに――まるで傷ついたような表情を見せたのだ。
(なんで……?)
恵里菜がそうなるならまだ分かる。でもなぜ、晃がそんな顔をする?
「エリが俺に会いたくないのも、そうさせるだけのことをした自覚もある。何を言っても言い訳にしかならないのは十分、分かってる」
「だったらなんで――」
「それでも会いたかった」
恵里菜は唇を噛みしめた。
0
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