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百合の匂いに誘われて

とりあえず、逃げる

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ええいっ、行っちまえーっ!!

勢いだけで飛び降りたよ。二階の窓から、思いっきり。
だってそうだろう? αとお見合いなんて聞いてないっ。
確かに家族で俺だけΩだけど、それなりに家族仲はいいと思ってたのに、なんだか裏切られた思いだ。

綺麗に晴れた青い空と、ホテルの庭園に敷かれた鮮やかな芝の緑。

「あー、落ちたら痛そうだなぁ」てのんびり考えたときに、ピカーッ! と眩い光に全身が包まれた。

え? なに?

微かに俺の名前を呼ぶ、両親の悲鳴が聞こえた気がした……。










男女の他に第二の性と呼ばれるα・β・Ωという性別が新たに作られ幾星霜。
男でもΩであれば妊娠が可能となり、問題だった少子化が改善されたらしいが、俺にとっては第二の性があるのは当たり前の世界なので、α・β・Ωがなかった昔のことはよくわからない。

ただ、Ωは数が少なく、国によって保護されていたり、性奴隷のように扱われたり様々だ。

この国はわりとΩの待遇は良いと思う。どうしたって差別する奴はいるが、人権は法律で守られているし社会にも適応できるような仕組みもある。

それでも、時折感じる息苦しさは逃れようもないけれど……。

特にαとの「運命の番」だ。番システムにも眉を顰めるが、「運命の番」ってなんだよっ。
運命なんていらない。Ωとしてじゃなく、俺は俺として愛している人と穏やかな生活がしたい。

それだけ……。それだけだったのに……。








むせかえる花の匂いに、意識が覚醒してゆっくりと瞼を開ける。
眩い光はそのままに、白い装束を着た人たちが、わたわたと動いているのが見えた。
そして、俺の目の前には……。
金髪のものすっごい超イケメンが、いい笑顔で俺を抱き起こしていた。


なんだ、これ?


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