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百合の匂いに誘われて

神子召喚

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艶々した赤い果実を齧る。じゅわっと口の中に甘酸っぱい果汁と甘い香りが広がる。

こっちの世界にもイチゴがあってよかったーっ。
っんまい!

なんか、俺……異世界に来たっぽいよ。神子召喚? に呼ばれたんだって。

俺にお茶と果物とお菓子を給仕してくれる、ニコライがそう教えてくれた。
ニコライは茶色の髪を長く伸ばして、背中で一つに結んだ小柄な男。顔は整っているけど派手さのない、いい人のイメージだ。

最初に、どアップで見つめあった金髪イケメンさんは俺が異世界産の神子だと分かると、ズルズルの白装束の人たちとどっかに消えていった。
俺はそのまま、別の白装束の人たちに小綺麗な部屋に連れていかれて、ニコライにこの世界のレクチャーを受けながら、ティータイムを楽しんでいる。
俺、余裕だな?

「そんで、俺は何をどーすればいいの?」
「……特に何も。神子様が召喚されただけで、恩恵は十分に受けますので……」

さっきから、俺の質問にニコライは歯切れが悪い。
カプリとイチゴを齧って、据えた目で睨みつける。

「……知ってること、ちゃんと教えてよ」
「……はい」

神子召喚と呼ばれているが、本当は伴侶召喚の意味が強い。
およそ百年に一人現れる体に聖痕を持つ者、聖痕者が行う召喚はそう呼ばれている。

この世界は一神教で信心深い世界。一夫一妻制が絶対で、一夫多妻に及んだ場合、死刑もありうる重罪になる。
なぜなら、この世界の神様が愛人とか不倫とか許さないから。
聖痕者は神に愛された者の印。神に愛された者が神に選ばれた者を伴侶にする儀式が、神子召喚。

「でも、だいたいは年頃の異性が招かれるんです。なのに、異世界からの召喚で……同姓となると……非常に珍しくて……」
「がっかりした?」

俺はニヤニヤ笑いながら、ニコライを揶揄う。
ニコライは、顔を真っ青にして、手をブンブンと激しく振りながら必死に否定する。

「とんでもないっ。ルイ様は百合の間の召喚です。豊穣が約束された神子様です。どれだけの民が喜ぶことか……。特に我が国は干ばつも多く、飢えに苦しむ民が減るかと思えばとても喜ばしいことです! ただ……今代の聖痕者であらせられますのが……」
「ちょっと待って! 何それ? 俺が豊穣を約束するって?」

聖痕者がのべつ幕なしに神子召喚の儀式を行うことができないように、ルールがある。
聖痕者は成人したら一年一回だけ召喚儀式が行える。それは四回まで、つまり四年の間に召喚できなければ、自力で伴侶を探せということ。

その場合は神子がいないので、神様からの贈り物としての世の平穏とか安寧とかはなし。
召喚の儀式の間は四種類あって、神子がどの部屋で召喚されるかで、恩恵が変わる。

俺は百合の間で召喚されたので、いわゆる豊穣の恵みが与えられた。それ以外にも神子様が召喚されただけで流行り病が起きなかったり、天災が減ったりするそうだ。

へえ、俺ってすげー!



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