喪失

木蓮

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『ナレント国は、曽祖母を浚ったのがバッハツアルトと突き止めると直ぐに王女を解放して国に戻す様にと、抗議文と国軍が同時にバッハツアルトに押し寄せてきた。ナレントの王太子と曽祖母の婚約者が王宮に来た際には、もう既に曽祖母は曽祖父に純潔を散らされていた。曽祖父はここに曽祖母を閉じ込めた。王宮や王宮の離宮であればすぐに人目についてしまう。それを避ける為にここに曽祖母を隠したんだ。』

お可哀想なエリアーヌ様。どれだけ辛かったのだろう。もし自分がそんな事になったら。想像するだけで胸が苦しくなる。

『兄であるナレントの王太子と曽祖母の婚約者は、例え純潔でなくなったとしても曽祖母を連れて帰る、もはや開戦と怒り狂っていたが、曽祖母が2人を説得したそうだ。自分の為に国民を戦火に巻き込む事はやめてほしいと。婚約者と共に生涯を歩む約束を守る事が出来なかった自分を許して欲しいと。』

ロイド様の表情も固い。これは王室の恥ずべき過去なのだと。

『結局、曽祖母は婚約者と婚約を解消。改めて曽祖父と婚約を取り結んだと言った程でバッハツアルトの王太子妃となったんだ。この醜聞が広がらない様に、ナレントとバッハツアルトの国交も断絶する事は無かったが、一度壊れた信頼関係は戻せず、ナレントとは互いに積極的に交易などは行っていない。勿論、交流も。』

『エリアーヌ様は、幸せになれたのでしょうか?』

ロイド様に尋ねる。

『どうだろう。曽祖父は曽祖母だけを愛し、曽祖母も曽祖父とは穏やかな関係を築いたと聞いている。王妃としては余り公務に出ず、王城の離宮ではなく、ここで薨るまで過ごされた。祖父や他国に嫁いだ大叔母など、数人子をもうけたし、曽祖母は穏やかで子供達を慈しんでくれた優しい人だったと祖父は話していたけど、時折自分達を通り越して遠くを見ている事があったと。そんな時は曽祖父が辛そうな顔をして祖父達を抱きしめてくれたんだそうだ』

『ナレントの婚約者の方はどうなったのですか?』

愛しい人を突然奪われて、どんなにか辛かったかと思うと。

『婚約を解消した後、数年後に曽祖母の妹王女と婚姻を結んだと聞いている。妹王女が、自分が無理を言って姉王女をシャレー湖に呼び寄せたのがいけなかった、降嫁前に会いたいなどと我儘を言わなければ姉王女がこんな事にならなかったと、命が危ぶまれる位に状態が悪化してね。そんな妹王女を姉王女の婚約者が慰めているうちに互いを想う様になったそうだ。』

誰もが皆傷ついた。自分の想いを通したけど、心の奥底までは手に入れられなかった先先代の陛下。愛する人と引き離されて異国の地で一生を終えたエリアーヌ様。婚約者も妹王女様も、皆。

『ミリア、泣かないでくれ。其方に泣かれるのは辛い』

気がつかないうちに、ポロポロ涙が流れ出る。エリアーヌ様の想いが湧き出てきたかの様に。

『申し訳ありません、ロイド様。でも、なぜなのか、涙が止まらないのです』

ロイド様が立ち上がって、私のそばに来て抱きしめられた。ロイド様の腕の中。温かい。

『すまなかった。ミリアをこんなに泣かせるつもりはなかったのだが』

『いえ、私がいけないのです。申し訳ありません。ロイド様の服を汚してしまいました』

ロイド様の胸に抱かれながら、ロイド様を見上げると、切なそうな色を目に乗せて、ロイド様が私を見つめていた。

『ロイド様…』

『曽祖父は愚かだった。自分の気持ちを抑えられず、曽祖母の未来を強引に奪い自分のものとした。曽祖母を手に入れる事は出来たけど、曽祖母の心は手に入れる事は出来なかった。』

ロイド様が呟きながら、私を抱きしめる腕に力を込め、苦しい位に抱きしめられる。

『でも、そんな曽祖父を愚かだとは思うが、曽祖父の気持ちは理解できる』

『ロイド様、もう大丈夫です。離してくださいませ』

ロイド様に話しかけても、腕の中から抜け出す事が出来ない。

『ロイド様、離してください。アーレン殿下もそろそろいらっしゃる事と思いますし』
そう言いながらロイド様を見上げると、ロイド様が私に口づけた。

『あ、何をなさるんですかっ、ロイ』

ロイド様の唇から逃れようとしたが、ロイド様の手が私の髪に手を差し込み頭を支えて、ロイド様の口づけから逃れられない様に強く抱きしめた。
ロイド様の唇か私の唇を強く啄む。徐々に激しくなる口づけに、初めての私は息も出来ない。ロイド様の腕の中から抜け出そうと両手でロイド様の胸を叩くが、息苦しさに力が入らない。
苦しさから固く閉じていた唇を開くと、ロイド様の舌が私の舌を絡めとる。ビクっと跳ねる体。ロイド様の舌が、私の口の中を縦横無尽に刺激する。腕の力どころか、足の力も抜けてきて1人で立っていられない。
唇から飲みきれないロイド様と私の唾液が唇の端から伝い落ちる。ガクッと力が抜けて崩れ落ちそうになった私を、ロイド様が横抱えにした。

『ロイド様、な、ぜですか…』
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