喪失

木蓮

文字の大きさ
6 / 28

6

しおりを挟む
『ミリアと申します。皆様よろしくお願いしますね』

学院に入学しての自己紹介。

初めて会った時から10年。あの時から更に美しさも際立ち、ミリア嬢はクラスの男女問わず憧れの視線を一身に集めている。私でさえ目を奪われたのだから無理はない。

生まれは名門侯爵家の1人娘。見目麗しく成績も私に次ぐ2位。明るく聡明な彼女を好きにならない者はいないだろう。

『アーレンだ。学院にいる間は皆と同じ学生で、身分などには捉われずに仲間としてよろしく頼む』

とは言え、王族。不敬にならない様にと気遣われているのはヒシヒシと感じる。身分というものは、なかなか大きな壁だ。

そんな中、ミリア嬢だけは、普通のクラスメイトと同じ様に接してくれた。彼女の振る舞いを見て、徐々に他の生徒達も身分と言う見えない壁を取り払い、3ヶ月も立つ頃にはすっかり皆に馴染んだ。

たまに馴染みすぎて、私が王族という事をすっかり忘れているんじゃ…と思うことも度々だ。

『明日からは学院も夏休暇になるが、ミリア嬢はどうするんだ?やはり領地に戻るのか?』

他のクラスメイトとミリアと共にカフェでランチを摂っていた際に、さりげなくミリアに尋ねる。
もし領地に戻らないと言うのであれば、他の生徒も含めお茶会として王宮に招待するつもりだった。
なかなか進められないミリアとの関係を、なんとか改善したかった。

『夏季休暇中は、父と共に領地に戻る予定です。母が待っていますから』

やはり、戻るのか…。侯爵のガードはかなり硬い。何度もミリアとの婚約を仄めかしているのだか、一向に耳を傾ける様子もない。その態度はいっそ潔い位だ。

『そうか。道中気をつけて。また休暇後に』

『アーレン様、ありがとうございます。でも、大丈夫です。父のご友人のエッセン大公様もご一緒されますから』

思いがけない名を耳にする。叔父上の名が何故?

『エッセン大公?叔父上が、ミリア嬢の父上と友人と?』

『はい。父とご学友だったとか。我が家にもよくいらっしゃいます』

そうだったのか。ならば、叔父上から侯爵にミリアとの事を認めてもらえる様に口添えをしてもらえれば!

夏休暇もそろそろ終わりに近づいてきた夏のある日。
叔父上に会う為に、側近のフリートと護衛騎士のリハルトと共に私はエッセン領を訪れていた。

『アーレン、久しぶりだな。どうしたんだ先触れもなく。何か王都であったのか?』

領主として采配を振るう叔父上。父上とは大分歳が離れている事と、母上との間になかなか子が恵まれず、私が生まれる前までは時期国王と目されていた。私が生まれた事で、一年後叔父上は王位継承権を自ら放棄し、臣下に降った。幼き頃から学問は優秀な成績を納め、剣の腕も右に出るものはいないと言わしめ、容姿は大陸1番の美姫と言われていたエリアーヌ妃に似ていると言われた叔父上。

地位も名誉もあり、容姿端麗な叔父上が何故妻を向かえていないのか、不思議で仕方がない。叔父上が望めば、どんな高位の令嬢でも諾と返事をするだろうに。

『実は叔父上にお願いがあって参りました』

『おいおい、どうしたんだ?なんだか、アーレンらしくない』

『私らしくないとはどんな意味ですか』

『畏まっているから』

叔父上の物言いにげんなりする。5歳の子供でもあるまいに。

『叔父上、私ももう16歳です。場にそぐわない事はしませんよ』

『そうか。隣国から友好の印として送られてきた雄馬の前に牝馬を連れてきて、興奮した雄馬が牝馬にのしかかろうとして盛大に蹴られたのは、国交樹立の記念式典であったかな?あの時はアーレンは何歳だったか』

『…………12歳でした』

後ろでフリートとリハルトが悶絶している気配を感じる。きっと笑いたいのに笑えず、さぞかし引き攣った顔をしている事だろうよ。

『まぁ可愛い甥の願いだ。聞くだけは聞いてやる』

『ありがとうございます、叔父上』

ニコニコ笑いながら叔父上が私の肩を抱く。頭をもしゃもしゃと撫でられる。昔からよくされた挨拶。父上とはまた違った叔父上との交流は子供ながらに楽しみだった。

『さて、アーレンのお願いとは?』

フリートとリハルトは席を外し、叔父上と2人きりになる。叔父上の従者も気がつかない内に下がっている。

『叔父上はハイルドナ侯爵とお付き合いが?』

『グイードの事か?そうだな、同い年だからもあって、昔から付き合いはあったよ。学院で一緒のクラスになってからは、常に一緒だったからな。今でも付き合いは続けているよ』

『そうみたいですね。お話を伺っておりますから』

『……ミリア嬢からかな?』

『はい』

『アーレン、悪いが協力は出来ないよ』

『叔父上っ!』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

処理中です...