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『『『アーレン様、お招き頂きましてありがとうございます』』』
クラスの仲間を呼び、王家直属の庭園でお茶会を催した。
我が国では18歳にならないと成人とは認められない。成人となりかつ爵位を得なければ基本王宮に上がる事はない。ある程度高位の爵位のある親であれば、パーティーに子を同行してくるのは構わないとされているが、高位爵位となると限られているので、大抵の者は王宮の庭園を見る機会もほとんどないに等しい。
初夏、大小様々な美しい薔薇の咲き誇るこの庭園。アーレンの1番のお気に入りだ。クラスの仲間に見せたいというのは詭弁で、ミリアに見せたい一心だった。
『美しいですね』
『むせかえる様な薔薇の香りが。もう、なんていったらいいのか』
『あぁ、なんて綺麗な薔薇なのかしら。こんな色初めて見ましたわ』
子息はあまり興味がないのか、テーブルで思い思いに話をしたり、お茶を楽しんだりしている。令嬢達は、数人ずつで薔薇の庭園を散策していた。
『ミリア嬢、楽しんでいるかい?』
庭園の中心にあるつるバラのアーチの下、ベンチに腰掛け日傘をさし涼んでいるミリアに声をかけた。
『アーレン様。こんなに素晴らしい庭園にご招待頂きましてありがとうございます』
『いや、折角咲いているのだし。花達も皆に見てもらえる方が咲きがいもあるだろう?』
『まぁ、アーレン様ったら』
くすくす笑うミリア嬢。君のその笑顔を見る為なら、国中の薔薇を集めてもいい と、思ってしまう自分自身に、どれだけミリアの事で頭が一杯になっているのかと思う。
学院での生活も3年目。クラスも一緒で以前に比べれば格段にミリアと言葉を交わす機会も増えたし、授業や学院行事などで共に過ごす時間も随分と増えたと思う。
侯爵家にも何度かお茶に誘われて行った事もある。ミリアからの私に対する信頼も揺るがないと感じている。
『良き友人』としては。
侯爵から認められていなかった時から比べれば、今の状況は格段と進歩していると思う。ミリアと言葉を交わし、同じものを見て同じ時を過ごせている。5歳で初めて会ってからの10年を思えば、どれだけ今自分が幸運なのか、わかっている。分かっているはずなのに、満足できない自分がいた。
学院で一緒に過ごせるのも、後一年足らず。成人すれば公務も今以上になり、自分の時間を持つ事も難しくなる。ミリア嬢にしても、侯爵家令嬢としての社交がある。
学生とは違い世界は広がり、ミリア嬢を見染める者もきっと現れるだろう。国内で有れば牽制も効く。でも、国外からの申し出であれば?侯爵が認めた者でなければ応じる事はないとは思うが、でも、ミリア嬢自身が受け入れれば?
考えれば考える程どんどん悪い方向に思考が落ちていく。
昔、ミリア嬢への想いを、どうにも抑えきれずに叔父上に相談した時、焦らず自分の良さを認めてもらえる様にと、励まして諭してくれた叔父上。
自分中で暴れ狂うこの想いをどうすればいいのか、叔父上だったらきっと良い助言をしてくれるのではないか、と。
この時期は叔父上は領地ではなく、王都の邸宅にて過ごしているはず。
先触れを出すと、侯爵家に出向いているとの事。侯爵家に改めて出向きたい旨を認めると構わないとの返答だった。
馬車よりも単騎の方が早く着く。護衛のリハルトのみ連れて侯爵家に向う。
侯爵家の家令に取り次いで貰い、ミリア嬢と叔父上がいるという庭に案内をしてもらった。
『こちらでございます』
家令に案内された庭には沢山の薔薇が咲き誇っていた。ミリアは薔薇の花が1番好きだと話していたのは、この庭を見て育ったからなのかと思った。
『ロイド様。今日はどんなご本を読まれているのですか?』
『今日はトナカース地方の伝承だよ。かの地は薔薇の栽培が盛んな地で、生育方法について秘匿されている事も多く、伝承にその内容が遺されているのでね』
『そうなのですか?ロイド様、読み終えたらわたくしにも是非お貸しください』
『うーん、貴重な本だからね。ミリアが一曲歌を歌ってくれたら貸してあげてもいいよ?』
『ロイド様⁈わたくしが、余り歌を歌うのが得意ではないと知った上でのご提案ですか?』
『あー、すまない。ミリア嬢が膨れてフリエラーみたいに頬を膨らませるのが可愛くて、つい』
『フリエラーみたいって。あんな破裂しそうな膨れた魚見たいとおっしゃるなんてあんまりです!』
東屋で賑やかに言い合っているのは、誰だ?
叔父上とミリア?あんなに楽しそうに笑ったり怒ったり。くるくる変わる表情。私には見せたことのないミリアの姿。
そんなミリアを優しく見つめる叔父上。叔父上があんな目で他者を見る事があっただろうか?
甥である私を見る目も優しいが、でも、あんなミリアに向ける視線は、まるで愛おしい人を見つめる目だ。
いつから、だ。いつから、叔父上はあんな目でミリアを見ているんだ?私の知らないところで、ずっとあんな目でミリアを見ていたのか?
思ってもいなかった。1番身近にいた存在が、自分を裏切っているなんて。私を励まし諭したのは、叔父上ではなかったのか?あれは、一体なんだったんだ。
目の前の光景に頭の中がぐちゃぐちゃだ。ただ、王太子としての教育が、胸の内を晒さない様に表情には出さない様にと教えが、今ここで役に立った。
『アーレン?どうしたんだ?何か急用か?』
ミリアに向けていたあの視線は私の見間違いだったのかと思えるくらい、今の叔父上はいつもの叔父上だ。
『アーレン様、ようこそいらっしゃいました。ロイド様に緊急のご用でいらっしゃいますか?わたくし、席をはずしましょうか?』
気遣う様な視線を向け、ミリアが立ちあがろうとした。
『いや、いいよ、ミリア。たまたま公務で近くに来たから、叔父上の顔を見ようと先触れを出したら此方だとの事だったので、気安く寄らせて貰っただけだ。叔父上も私が顔を出す度に一大事でも起こったか!と言わんばかりの口振りは止めてください』
私は今いつもと同じ様に話せているだろうか?
『可愛い私の甥っ子は何かないと私には会いに来てくれないからね。幼き頃よりあれだけ可愛がって育てたのになぁ』
わざとらしくいじけてみせる叔父上。いつもだったら私も軽口で応じるのだが、今日はいつもの王太子の顔を保つだけで精一杯だ。
『叔父上、いつまでも何も知らない幼き子供のままではいられませんよ』
クラスの仲間を呼び、王家直属の庭園でお茶会を催した。
我が国では18歳にならないと成人とは認められない。成人となりかつ爵位を得なければ基本王宮に上がる事はない。ある程度高位の爵位のある親であれば、パーティーに子を同行してくるのは構わないとされているが、高位爵位となると限られているので、大抵の者は王宮の庭園を見る機会もほとんどないに等しい。
初夏、大小様々な美しい薔薇の咲き誇るこの庭園。アーレンの1番のお気に入りだ。クラスの仲間に見せたいというのは詭弁で、ミリアに見せたい一心だった。
『美しいですね』
『むせかえる様な薔薇の香りが。もう、なんていったらいいのか』
『あぁ、なんて綺麗な薔薇なのかしら。こんな色初めて見ましたわ』
子息はあまり興味がないのか、テーブルで思い思いに話をしたり、お茶を楽しんだりしている。令嬢達は、数人ずつで薔薇の庭園を散策していた。
『ミリア嬢、楽しんでいるかい?』
庭園の中心にあるつるバラのアーチの下、ベンチに腰掛け日傘をさし涼んでいるミリアに声をかけた。
『アーレン様。こんなに素晴らしい庭園にご招待頂きましてありがとうございます』
『いや、折角咲いているのだし。花達も皆に見てもらえる方が咲きがいもあるだろう?』
『まぁ、アーレン様ったら』
くすくす笑うミリア嬢。君のその笑顔を見る為なら、国中の薔薇を集めてもいい と、思ってしまう自分自身に、どれだけミリアの事で頭が一杯になっているのかと思う。
学院での生活も3年目。クラスも一緒で以前に比べれば格段にミリアと言葉を交わす機会も増えたし、授業や学院行事などで共に過ごす時間も随分と増えたと思う。
侯爵家にも何度かお茶に誘われて行った事もある。ミリアからの私に対する信頼も揺るがないと感じている。
『良き友人』としては。
侯爵から認められていなかった時から比べれば、今の状況は格段と進歩していると思う。ミリアと言葉を交わし、同じものを見て同じ時を過ごせている。5歳で初めて会ってからの10年を思えば、どれだけ今自分が幸運なのか、わかっている。分かっているはずなのに、満足できない自分がいた。
学院で一緒に過ごせるのも、後一年足らず。成人すれば公務も今以上になり、自分の時間を持つ事も難しくなる。ミリア嬢にしても、侯爵家令嬢としての社交がある。
学生とは違い世界は広がり、ミリア嬢を見染める者もきっと現れるだろう。国内で有れば牽制も効く。でも、国外からの申し出であれば?侯爵が認めた者でなければ応じる事はないとは思うが、でも、ミリア嬢自身が受け入れれば?
考えれば考える程どんどん悪い方向に思考が落ちていく。
昔、ミリア嬢への想いを、どうにも抑えきれずに叔父上に相談した時、焦らず自分の良さを認めてもらえる様にと、励まして諭してくれた叔父上。
自分中で暴れ狂うこの想いをどうすればいいのか、叔父上だったらきっと良い助言をしてくれるのではないか、と。
この時期は叔父上は領地ではなく、王都の邸宅にて過ごしているはず。
先触れを出すと、侯爵家に出向いているとの事。侯爵家に改めて出向きたい旨を認めると構わないとの返答だった。
馬車よりも単騎の方が早く着く。護衛のリハルトのみ連れて侯爵家に向う。
侯爵家の家令に取り次いで貰い、ミリア嬢と叔父上がいるという庭に案内をしてもらった。
『こちらでございます』
家令に案内された庭には沢山の薔薇が咲き誇っていた。ミリアは薔薇の花が1番好きだと話していたのは、この庭を見て育ったからなのかと思った。
『ロイド様。今日はどんなご本を読まれているのですか?』
『今日はトナカース地方の伝承だよ。かの地は薔薇の栽培が盛んな地で、生育方法について秘匿されている事も多く、伝承にその内容が遺されているのでね』
『そうなのですか?ロイド様、読み終えたらわたくしにも是非お貸しください』
『うーん、貴重な本だからね。ミリアが一曲歌を歌ってくれたら貸してあげてもいいよ?』
『ロイド様⁈わたくしが、余り歌を歌うのが得意ではないと知った上でのご提案ですか?』
『あー、すまない。ミリア嬢が膨れてフリエラーみたいに頬を膨らませるのが可愛くて、つい』
『フリエラーみたいって。あんな破裂しそうな膨れた魚見たいとおっしゃるなんてあんまりです!』
東屋で賑やかに言い合っているのは、誰だ?
叔父上とミリア?あんなに楽しそうに笑ったり怒ったり。くるくる変わる表情。私には見せたことのないミリアの姿。
そんなミリアを優しく見つめる叔父上。叔父上があんな目で他者を見る事があっただろうか?
甥である私を見る目も優しいが、でも、あんなミリアに向ける視線は、まるで愛おしい人を見つめる目だ。
いつから、だ。いつから、叔父上はあんな目でミリアを見ているんだ?私の知らないところで、ずっとあんな目でミリアを見ていたのか?
思ってもいなかった。1番身近にいた存在が、自分を裏切っているなんて。私を励まし諭したのは、叔父上ではなかったのか?あれは、一体なんだったんだ。
目の前の光景に頭の中がぐちゃぐちゃだ。ただ、王太子としての教育が、胸の内を晒さない様に表情には出さない様にと教えが、今ここで役に立った。
『アーレン?どうしたんだ?何か急用か?』
ミリアに向けていたあの視線は私の見間違いだったのかと思えるくらい、今の叔父上はいつもの叔父上だ。
『アーレン様、ようこそいらっしゃいました。ロイド様に緊急のご用でいらっしゃいますか?わたくし、席をはずしましょうか?』
気遣う様な視線を向け、ミリアが立ちあがろうとした。
『いや、いいよ、ミリア。たまたま公務で近くに来たから、叔父上の顔を見ようと先触れを出したら此方だとの事だったので、気安く寄らせて貰っただけだ。叔父上も私が顔を出す度に一大事でも起こったか!と言わんばかりの口振りは止めてください』
私は今いつもと同じ様に話せているだろうか?
『可愛い私の甥っ子は何かないと私には会いに来てくれないからね。幼き頃よりあれだけ可愛がって育てたのになぁ』
わざとらしくいじけてみせる叔父上。いつもだったら私も軽口で応じるのだが、今日はいつもの王太子の顔を保つだけで精一杯だ。
『叔父上、いつまでも何も知らない幼き子供のままではいられませんよ』
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