喪失

木蓮

文字の大きさ
8 / 28

8

しおりを挟む
『『『アーレン様、お招き頂きましてありがとうございます』』』

クラスの仲間を呼び、王家直属の庭園でお茶会を催した。
我が国では18歳にならないと成人とは認められない。成人となりかつ爵位を得なければ基本王宮に上がる事はない。ある程度高位の爵位のある親であれば、パーティーに子を同行してくるのは構わないとされているが、高位爵位となると限られているので、大抵の者は王宮の庭園を見る機会もほとんどないに等しい。

初夏、大小様々な美しい薔薇の咲き誇るこの庭園。アーレンの1番のお気に入りだ。クラスの仲間に見せたいというのは詭弁で、ミリアに見せたい一心だった。

『美しいですね』

『むせかえる様な薔薇の香りが。もう、なんていったらいいのか』

『あぁ、なんて綺麗な薔薇なのかしら。こんな色初めて見ましたわ』

子息はあまり興味がないのか、テーブルで思い思いに話をしたり、お茶を楽しんだりしている。令嬢達は、数人ずつで薔薇の庭園を散策していた。

『ミリア嬢、楽しんでいるかい?』

庭園の中心にあるつるバラのアーチの下、ベンチに腰掛け日傘をさし涼んでいるミリアに声をかけた。

『アーレン様。こんなに素晴らしい庭園にご招待頂きましてありがとうございます』

『いや、折角咲いているのだし。花達も皆に見てもらえる方が咲きがいもあるだろう?』

『まぁ、アーレン様ったら』

くすくす笑うミリア嬢。君のその笑顔を見る為なら、国中の薔薇を集めてもいい と、思ってしまう自分自身に、どれだけミリアの事で頭が一杯になっているのかと思う。

学院での生活も3年目。クラスも一緒で以前に比べれば格段にミリアと言葉を交わす機会も増えたし、授業や学院行事などで共に過ごす時間も随分と増えたと思う。
侯爵家にも何度かお茶に誘われて行った事もある。ミリアからの私に対する信頼も揺るがないと感じている。

『良き友人』としては。

侯爵から認められていなかった時から比べれば、今の状況は格段と進歩していると思う。ミリアと言葉を交わし、同じものを見て同じ時を過ごせている。5歳で初めて会ってからの10年を思えば、どれだけ今自分が幸運なのか、わかっている。分かっているはずなのに、満足できない自分がいた。

学院で一緒に過ごせるのも、後一年足らず。成人すれば公務も今以上になり、自分の時間を持つ事も難しくなる。ミリア嬢にしても、侯爵家令嬢としての社交がある。

学生とは違い世界は広がり、ミリア嬢を見染める者もきっと現れるだろう。国内で有れば牽制も効く。でも、国外からの申し出であれば?侯爵が認めた者でなければ応じる事はないとは思うが、でも、ミリア嬢自身が受け入れれば?

考えれば考える程どんどん悪い方向に思考が落ちていく。
昔、ミリア嬢への想いを、どうにも抑えきれずに叔父上に相談した時、焦らず自分の良さを認めてもらえる様にと、励まして諭してくれた叔父上。

自分中で暴れ狂うこの想いをどうすればいいのか、叔父上だったらきっと良い助言をしてくれるのではないか、と。

この時期は叔父上は領地ではなく、王都の邸宅にて過ごしているはず。
先触れを出すと、侯爵家に出向いているとの事。侯爵家に改めて出向きたい旨を認めると構わないとの返答だった。

馬車よりも単騎の方が早く着く。護衛のリハルトのみ連れて侯爵家に向う。
侯爵家の家令に取り次いで貰い、ミリア嬢と叔父上がいるという庭に案内をしてもらった。

『こちらでございます』

家令に案内された庭には沢山の薔薇が咲き誇っていた。ミリアは薔薇の花が1番好きだと話していたのは、この庭を見て育ったからなのかと思った。

『ロイド様。今日はどんなご本を読まれているのですか?』

『今日はトナカース地方の伝承だよ。かの地は薔薇の栽培が盛んな地で、生育方法について秘匿されている事も多く、伝承にその内容が遺されているのでね』

『そうなのですか?ロイド様、読み終えたらわたくしにも是非お貸しください』

『うーん、貴重な本だからね。ミリアが一曲歌を歌ってくれたら貸してあげてもいいよ?』

『ロイド様⁈わたくしが、余り歌を歌うのが得意ではないと知った上でのご提案ですか?』

『あー、すまない。ミリア嬢が膨れてフリエラーみたいに頬を膨らませるのが可愛くて、つい』

『フリエラーみたいって。あんな破裂しそうな膨れた魚見たいとおっしゃるなんてあんまりです!』

東屋で賑やかに言い合っているのは、誰だ?
叔父上とミリア?あんなに楽しそうに笑ったり怒ったり。くるくる変わる表情。私には見せたことのないミリアの姿。
そんなミリアを優しく見つめる叔父上。叔父上があんな目で他者を見る事があっただろうか?

甥である私を見る目も優しいが、でも、あんなミリアに向ける視線は、まるで愛おしい人を見つめる目だ。

いつから、だ。いつから、叔父上はあんな目でミリアを見ているんだ?私の知らないところで、ずっとあんな目でミリアを見ていたのか?
思ってもいなかった。1番身近にいた存在が、自分を裏切っているなんて。私を励まし諭したのは、叔父上ではなかったのか?あれは、一体なんだったんだ。

目の前の光景に頭の中がぐちゃぐちゃだ。ただ、王太子としての教育が、胸の内を晒さない様に表情には出さない様にと教えが、今ここで役に立った。

『アーレン?どうしたんだ?何か急用か?』

ミリアに向けていたあの視線は私の見間違いだったのかと思えるくらい、今の叔父上はいつもの叔父上だ。

『アーレン様、ようこそいらっしゃいました。ロイド様に緊急のご用でいらっしゃいますか?わたくし、席をはずしましょうか?』

気遣う様な視線を向け、ミリアが立ちあがろうとした。

『いや、いいよ、ミリア。たまたま公務で近くに来たから、叔父上の顔を見ようと先触れを出したら此方だとの事だったので、気安く寄らせて貰っただけだ。叔父上も私が顔を出す度に一大事でも起こったか!と言わんばかりの口振りは止めてください』

私は今いつもと同じ様に話せているだろうか?

『可愛い私の甥っ子は何かないと私には会いに来てくれないからね。幼き頃よりあれだけ可愛がって育てたのになぁ』

わざとらしくいじけてみせる叔父上。いつもだったら私も軽口で応じるのだが、今日はいつもの王太子の顔を保つだけで精一杯だ。

『叔父上、いつまでも何も知らない幼き子供のままではいられませんよ』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

処理中です...