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『エリアーヌ、もう大丈夫なんだ。父上も母上もお前が帰ってくることを待っている。カトリーヌも、お前の事を心配して見る影もなく....。兎に角、ナレントへ帰ろう!!』
すがりつくように必死にエリアーヌを説得しているキルハイトの姿を、私ははただただ見ていた。
ラインハルトの婚約者、ナレントの第一王女のエリアーヌの姿が突然消えたのが2ヶ月前。突然消えたエレアーヌを捜索するために国中の騎士を集め、天に昇るか地の底までもとの思いで国中が一丸となって捜索をし、ようやくエリアーヌの居場所が判明したのが1か月前。長く療養していた妹王女のカトリーヌに会いに出かけた途中で、バッハツアルトの王太子に拉致されたとようやく判明したのだ。
ただちに国王陛下から身柄の解放の書簡と、それに合わせてキルハイト王太子が国軍をバッハツアルトに進軍し、ようやく2カ月振りにエリアーヌに会う事が出来た。最後に会ってから2か月。健康的だったバラ色の頬は青ざめやつれた面立ちに変わっていた。
うつむいていたエリアーヌが顔をあげる。昔からずっと一緒に過ごしてきエリアーヌ。穏やかな雰囲気に、白百合を思わせる様な美貌から、彼女をよく知らない人間は自分の意見も口にしない様な深窓の令嬢を相応するが、彼女は一度意思を決めたら、誰が何と言おうと意思を貫き通す女性だった。王族として、一度決めた事はどんな困難があろうとやり通す信念を持たねば民が信頼してくれるでしょうか、と。そんな彼女が愛おしくて来世までも二人一緒にと誓った。
『兄上様。どうかこのままナレントへお戻りください。このままではバッハツアルトと開戦してしまいます。なんの罪もない民が、戦火に巻き込まれるのは避けなければなりません』
凛として告げるエリアーヌ。やつれてはいるが、両手を前に組んで立つ姿は美しいままだ。
『なにを言っているんだ、エリアーヌ。国中の民がお前の帰国を祈っているのだぞ?父上も母上も、カトリーヌだって。そうだ、カトリーヌはお前の事で心を痛めて、ようやく落ち着いていた体調が悪化して、正直今後どうなるか侍医には保障出来ないと言われているんだ。お前に会えば、カトリーヌの容態も回復するだろう。だから、エリアーヌ、ナレントへ帰ろう』
カトリーヌの名が出た時だけ、エリアーヌは痛ましそうな表情を一瞬浮かべたが、すぐにそれを隠した。
『カトリーヌの事は.....。でも、私はナレントへは戻りません』
『何故だ、何故ナレントに戻ると言わない。まさか、あの王太子に情が......』
『いえ、そうではありません』
『ならば....』
『わたくしはもう、神の乙女ではありません』
『そ、それは...。それは致し方ない。あの獣にも劣る男となにがあったにせよ、そんな事はさしたることではない』
ナレントでは婚姻するまでは、処女は神の乙女と言われている。エリアーヌの処女はもう奪われてしまったとそう言いたいのだ。
『ラインハルトも、そんな事は気にしないと言っていた。そうだろう、ラインハルト?』
エリアーヌの姿が消えてから、大陸一の美姫と言われていたエリアーヌだから、もしかしたら....と両陛下やキルハイトは最悪の結果を危惧していた。その際に、婚約者のラインハルトに、もし危惧していた事が起きても、そのままエリアーヌを求めてくれるか?と問うていた。勿論、エリアーヌがどんな姿になっていようとも、生きてさえいれば問題ないとラインハルトは答えていた。神の乙女でなくなろうとも、生きてさえいてくれればと。
『エリーは決めたのだろう?』
多くを口にしなくても、ずっとそばにいた彼女の気持ちは手に取るようにわかる。
『ラインハルト!!何故だ?エリアーヌが生きてさえいてくれればいいと、そう言っていたではないか!ここまで来て、神の乙女ではなくなったと聞いて、心変わりをしたのか!!』
激高してラインハルトに掴みかかってきたキルハイトをエリアーヌが止める。
『お止めくださいませ、兄上様』
『うるさい。こいつがつらい目にあっているお前を見捨てるとは!』
ラインハルトを殴りつけようと振り上げたキルハイトの右手にエリアーヌがすがりつく。
『もう遅いのです、兄上様!もう......』
目にうっすら涙を浮かべてエリアーヌがうつむく。訳が分からないでいるキルハイトにラインハルトが説明する。
『エリーの体はもうエリーだけのものではないんだよ、キルハイト』
『エリアーヌだけのものではない?どういう意味だ?』
『私はエリアーヌがどんなことになっていても、生きてさえいてくれれば共に生きていこうと、今でもその気持ちは変わっていない。エリ一が身重だとしても、その子ごと愛せると、それでもいいとさえ今も思っている』
『なっ....!?』
『ハルト様....』
やつれた面立ちと蒼白な顔色。心労もあっただろうが、手で下腹部を守る様に立っていたエリアーヌの姿を見て、ラインハルトはもうエリアーヌを取り戻せないと気付いたのだった。
すがりつくように必死にエリアーヌを説得しているキルハイトの姿を、私ははただただ見ていた。
ラインハルトの婚約者、ナレントの第一王女のエリアーヌの姿が突然消えたのが2ヶ月前。突然消えたエレアーヌを捜索するために国中の騎士を集め、天に昇るか地の底までもとの思いで国中が一丸となって捜索をし、ようやくエリアーヌの居場所が判明したのが1か月前。長く療養していた妹王女のカトリーヌに会いに出かけた途中で、バッハツアルトの王太子に拉致されたとようやく判明したのだ。
ただちに国王陛下から身柄の解放の書簡と、それに合わせてキルハイト王太子が国軍をバッハツアルトに進軍し、ようやく2カ月振りにエリアーヌに会う事が出来た。最後に会ってから2か月。健康的だったバラ色の頬は青ざめやつれた面立ちに変わっていた。
うつむいていたエリアーヌが顔をあげる。昔からずっと一緒に過ごしてきエリアーヌ。穏やかな雰囲気に、白百合を思わせる様な美貌から、彼女をよく知らない人間は自分の意見も口にしない様な深窓の令嬢を相応するが、彼女は一度意思を決めたら、誰が何と言おうと意思を貫き通す女性だった。王族として、一度決めた事はどんな困難があろうとやり通す信念を持たねば民が信頼してくれるでしょうか、と。そんな彼女が愛おしくて来世までも二人一緒にと誓った。
『兄上様。どうかこのままナレントへお戻りください。このままではバッハツアルトと開戦してしまいます。なんの罪もない民が、戦火に巻き込まれるのは避けなければなりません』
凛として告げるエリアーヌ。やつれてはいるが、両手を前に組んで立つ姿は美しいままだ。
『なにを言っているんだ、エリアーヌ。国中の民がお前の帰国を祈っているのだぞ?父上も母上も、カトリーヌだって。そうだ、カトリーヌはお前の事で心を痛めて、ようやく落ち着いていた体調が悪化して、正直今後どうなるか侍医には保障出来ないと言われているんだ。お前に会えば、カトリーヌの容態も回復するだろう。だから、エリアーヌ、ナレントへ帰ろう』
カトリーヌの名が出た時だけ、エリアーヌは痛ましそうな表情を一瞬浮かべたが、すぐにそれを隠した。
『カトリーヌの事は.....。でも、私はナレントへは戻りません』
『何故だ、何故ナレントに戻ると言わない。まさか、あの王太子に情が......』
『いえ、そうではありません』
『ならば....』
『わたくしはもう、神の乙女ではありません』
『そ、それは...。それは致し方ない。あの獣にも劣る男となにがあったにせよ、そんな事はさしたることではない』
ナレントでは婚姻するまでは、処女は神の乙女と言われている。エリアーヌの処女はもう奪われてしまったとそう言いたいのだ。
『ラインハルトも、そんな事は気にしないと言っていた。そうだろう、ラインハルト?』
エリアーヌの姿が消えてから、大陸一の美姫と言われていたエリアーヌだから、もしかしたら....と両陛下やキルハイトは最悪の結果を危惧していた。その際に、婚約者のラインハルトに、もし危惧していた事が起きても、そのままエリアーヌを求めてくれるか?と問うていた。勿論、エリアーヌがどんな姿になっていようとも、生きてさえいれば問題ないとラインハルトは答えていた。神の乙女でなくなろうとも、生きてさえいてくれればと。
『エリーは決めたのだろう?』
多くを口にしなくても、ずっとそばにいた彼女の気持ちは手に取るようにわかる。
『ラインハルト!!何故だ?エリアーヌが生きてさえいてくれればいいと、そう言っていたではないか!ここまで来て、神の乙女ではなくなったと聞いて、心変わりをしたのか!!』
激高してラインハルトに掴みかかってきたキルハイトをエリアーヌが止める。
『お止めくださいませ、兄上様』
『うるさい。こいつがつらい目にあっているお前を見捨てるとは!』
ラインハルトを殴りつけようと振り上げたキルハイトの右手にエリアーヌがすがりつく。
『もう遅いのです、兄上様!もう......』
目にうっすら涙を浮かべてエリアーヌがうつむく。訳が分からないでいるキルハイトにラインハルトが説明する。
『エリーの体はもうエリーだけのものではないんだよ、キルハイト』
『エリアーヌだけのものではない?どういう意味だ?』
『私はエリアーヌがどんなことになっていても、生きてさえいてくれれば共に生きていこうと、今でもその気持ちは変わっていない。エリ一が身重だとしても、その子ごと愛せると、それでもいいとさえ今も思っている』
『なっ....!?』
『ハルト様....』
やつれた面立ちと蒼白な顔色。心労もあっただろうが、手で下腹部を守る様に立っていたエリアーヌの姿を見て、ラインハルトはもうエリアーヌを取り戻せないと気付いたのだった。
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