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ラインハルトはブレドニア公爵家の嫡男として、宰相となっている父に成り代わり領地経営を行なっていた。王都に出る事は余り無く、領地で過ごす事が多かった。
婚約者だったエリアーヌも見た目とは違い、活動的で自然の中で過ごす事を好んだので、よく領地にやって来て2人で仲睦まじく過ごしていた。
領地の至る所にエリアーヌとの思い出が残されており、辛くもあるが、エリアーヌへの想いを抱えたままのラインハルトにとっては、ここで過ごす時間がある事で辛うじて己を失わずに正気を保てているのであった。
夜も明け、邸宅の中も人の気配が伝わってきた。いつもであれば、侍女が目覚ましの為の紅茶を持参するのだが、今朝は執事が慌ただしくラインハルトの居室へ飛び込んできた。
『ラインハルト様、お目覚めですか?』
冷静を絵に描いたような執事のカインが、執事らしからぬ慌て具合でラインハルトに呼びかける。
『どうしたんだ、カイン?一体なにがあったというのか?』
『王太子がお見えになっております』
『キルハイトが?』
バッハツアルトから帰国してからは、ラインハルトはずっと領地で過ごしていたので、キルハイトとは3ヶ月振りの再開だった。お互いがお互いを思い、会わずに過ごしていた。互いに顔を見ればどうしてもエリアーヌの事を思い出してしまうからだった。
『キルハイト、どうしたんだ』
身支度を整えて、応接間て待っていたキルハイトにラインハルトは声をかけた。本来であるばキルハイトはナレントの時期国王。臣下として挨拶をするべきではあるが、エリアーヌと同様、キルハイトも幼馴染なので気楽な間柄だ。それでも、エリアーヌがいなくなってしまった今、これまでとは違う空気が2人の間に流れていた。
『ラインハルト、頼みがある』
『どうしたんだ、キルハイト』
『カトリーヌに会ってやってくれないか』
『…………』
カトリーヌ。エリアーヌの3歳年下の第二王女。生まれた時から虚弱で、外気に触れたり少し無理をするとすぐに熱発してしまう為、王宮の奥で大切に大切に育てられた真に深窓の令嬢。エリアーヌの美貌にも劣らない美しさだが、滲み出る生命力に輝いていたエリアーヌとは違い影の薄い王女だった。
『ラインハルトがカトリーヌに会いたく無い事は重々理解している。分かっていての頼みだ』
『……何があったと言うんだ?』
『カトリーヌの容態が思わしく無い事はラインハルトも知っている事だと思う。エリアーヌの事があって、カトリーヌは生きる事を諦めてしまったんだ。どれだけ高価な薬や高名な医師を用意しても、一日一日と枯れ果てている。医師からは、本人が生きようとしていないのだと、そういうんだ』
『…………』
『俺も父上も、カトリーヌの事は、仕方がないと思っている。為政者 者だからな。ただ、母上が限界なんだ。エリアーヌの事、そしてカトリーヌの事。このまま精神的なダメージが重なると、母上が狂いかねない』
妖精の様に儚げなシャトレーネ王妃。3人の子供がいる様には見えない儚げな雰囲気の方だ。ヒルカライド皇国から政略で嫁がれた方だか、その美しさに陛下が一目惚れをして、側妃も置かずにただ1人慈しんでいる女性だ。穏やかで優しい王妃では、度重なる不幸に耐えられないだろう事は想像出来る。
でも、狂えるならば、それはある意味幸せかもしれない。
『俺にどうしろと言うんだ。俺は医者じゃない』
『分かっている。カトリーヌは、ラインハルトに会って詫びたいと、そう言うんだ。自分の我儘でエリアーヌを…と気に病んで。頼む。カトリーヌのせいでは無いと、そう言ってやって欲しいんだ』
『………』
『ラインハルトがそう言ったとて、カトリーヌが回復するとは限らない。いずれ天へ召されるかもしれない。だからこそ、カトリーヌの願いを叶えてやりたいんだ。俺にはもうそれくらいしかやってやれない』
カトリーヌのせいではない。そう思っていた。何度となく王妃に迎えたいと執拗に書簡を送りつけて来ていたバッハツアルト。まさか、国境を侵して王女を攫うなんて、そんな事誰も考えてはいなかったのだから。
『分かった。一度だけでよいのであれば』
キルハイトの嘆願にラインハルトは折れた。愛したエリアーヌの妹。エリアーヌがここにいたら、きっと会いに行くだろう。
早速にでもと、キルハイトに連れられて、王宮近くのトルネド保養所に着いた。エリアーヌの事もあって、安全の為に以前いた保養所からトルネドに移ってきていたのだ。
侍女に案内されて、保養所の1番奥の部屋に着く。
『カトリーヌ、入るぞ』
一緒に来たキルハイトが部屋の中に声をかける。
静かに部屋の扉が侍女に寄って開かれる。
部屋の奥、窓辺に程近い場所にベッドが置かれており、そこには見る影もなく窶れたカトリーヌがいた。
婚約者だったエリアーヌも見た目とは違い、活動的で自然の中で過ごす事を好んだので、よく領地にやって来て2人で仲睦まじく過ごしていた。
領地の至る所にエリアーヌとの思い出が残されており、辛くもあるが、エリアーヌへの想いを抱えたままのラインハルトにとっては、ここで過ごす時間がある事で辛うじて己を失わずに正気を保てているのであった。
夜も明け、邸宅の中も人の気配が伝わってきた。いつもであれば、侍女が目覚ましの為の紅茶を持参するのだが、今朝は執事が慌ただしくラインハルトの居室へ飛び込んできた。
『ラインハルト様、お目覚めですか?』
冷静を絵に描いたような執事のカインが、執事らしからぬ慌て具合でラインハルトに呼びかける。
『どうしたんだ、カイン?一体なにがあったというのか?』
『王太子がお見えになっております』
『キルハイトが?』
バッハツアルトから帰国してからは、ラインハルトはずっと領地で過ごしていたので、キルハイトとは3ヶ月振りの再開だった。お互いがお互いを思い、会わずに過ごしていた。互いに顔を見ればどうしてもエリアーヌの事を思い出してしまうからだった。
『キルハイト、どうしたんだ』
身支度を整えて、応接間て待っていたキルハイトにラインハルトは声をかけた。本来であるばキルハイトはナレントの時期国王。臣下として挨拶をするべきではあるが、エリアーヌと同様、キルハイトも幼馴染なので気楽な間柄だ。それでも、エリアーヌがいなくなってしまった今、これまでとは違う空気が2人の間に流れていた。
『ラインハルト、頼みがある』
『どうしたんだ、キルハイト』
『カトリーヌに会ってやってくれないか』
『…………』
カトリーヌ。エリアーヌの3歳年下の第二王女。生まれた時から虚弱で、外気に触れたり少し無理をするとすぐに熱発してしまう為、王宮の奥で大切に大切に育てられた真に深窓の令嬢。エリアーヌの美貌にも劣らない美しさだが、滲み出る生命力に輝いていたエリアーヌとは違い影の薄い王女だった。
『ラインハルトがカトリーヌに会いたく無い事は重々理解している。分かっていての頼みだ』
『……何があったと言うんだ?』
『カトリーヌの容態が思わしく無い事はラインハルトも知っている事だと思う。エリアーヌの事があって、カトリーヌは生きる事を諦めてしまったんだ。どれだけ高価な薬や高名な医師を用意しても、一日一日と枯れ果てている。医師からは、本人が生きようとしていないのだと、そういうんだ』
『…………』
『俺も父上も、カトリーヌの事は、仕方がないと思っている。為政者 者だからな。ただ、母上が限界なんだ。エリアーヌの事、そしてカトリーヌの事。このまま精神的なダメージが重なると、母上が狂いかねない』
妖精の様に儚げなシャトレーネ王妃。3人の子供がいる様には見えない儚げな雰囲気の方だ。ヒルカライド皇国から政略で嫁がれた方だか、その美しさに陛下が一目惚れをして、側妃も置かずにただ1人慈しんでいる女性だ。穏やかで優しい王妃では、度重なる不幸に耐えられないだろう事は想像出来る。
でも、狂えるならば、それはある意味幸せかもしれない。
『俺にどうしろと言うんだ。俺は医者じゃない』
『分かっている。カトリーヌは、ラインハルトに会って詫びたいと、そう言うんだ。自分の我儘でエリアーヌを…と気に病んで。頼む。カトリーヌのせいでは無いと、そう言ってやって欲しいんだ』
『………』
『ラインハルトがそう言ったとて、カトリーヌが回復するとは限らない。いずれ天へ召されるかもしれない。だからこそ、カトリーヌの願いを叶えてやりたいんだ。俺にはもうそれくらいしかやってやれない』
カトリーヌのせいではない。そう思っていた。何度となく王妃に迎えたいと執拗に書簡を送りつけて来ていたバッハツアルト。まさか、国境を侵して王女を攫うなんて、そんな事誰も考えてはいなかったのだから。
『分かった。一度だけでよいのであれば』
キルハイトの嘆願にラインハルトは折れた。愛したエリアーヌの妹。エリアーヌがここにいたら、きっと会いに行くだろう。
早速にでもと、キルハイトに連れられて、王宮近くのトルネド保養所に着いた。エリアーヌの事もあって、安全の為に以前いた保養所からトルネドに移ってきていたのだ。
侍女に案内されて、保養所の1番奥の部屋に着く。
『カトリーヌ、入るぞ』
一緒に来たキルハイトが部屋の中に声をかける。
静かに部屋の扉が侍女に寄って開かれる。
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