喪失

木蓮

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カトリーヌがバッハツアルトに旅立って、1か月。
当初の予定だと、もうとっくに帰国しているはずなのに、帰国がのびのびになっていた。

帰国予定日前に、カトリーヌが体調を崩し、万全を期すため、回復してから帰国の途に着くとの書簡がバッハツアルトより届いた。カトリーヌの直筆の書簡もあり、王子は健やかに成長している事、エリアーヌの産後の肥立ちも良く、穏やかに過ごせているとの内容だった。自身の体調については、慣れない旅で少し疲れが出てしまった事、酷く心配したエリアーヌの願いで帰国を遅らせた事などが書いてあった。

書簡が届く頃にはバッハツアルトを出立する予定と書いてあったので、そろそろ先ぶれが来ると思うとキルハイトが話していたことを思い出していた。

『失礼します』

ノックもそこそこにあわただしくカインが部屋に入ってきた。

『ラインハルト様、キルハイト様より早馬が。これが届きました』

カインが差し出したのはキルハイトからの書簡だった。開けて中身の文面を確認する。

『ラインハルト。カトリーヌが三日後に戻るとの事だ。今からであれば、其方が王都に到着するのは十分間に合うだろう。少々面倒な事になっている。必ず来い』

かなり急いで書いたのだろう、走り書きに近く詳しい説明はなかった。

『面倒な事?一体なんなんだ?』

訳が分からながらも、必ず来いとのキルハイトの言葉に、ラインハルトは王都に出立する準備を始めのだった。



キルハイトの書簡を受け取ってから二日後。王都に到着、王宮に入った早々、キルハイトの執務室に呼び出された。

『良かった、間に合って。カトリーヌの帰国前にラインハルトが着くかどうか、ハラハラしたぞ』

キルハイトがホッとしたような表情を浮かべる。

『一体なんだんだ、キルハイト。届いた書簡だけでは、意味が全くつかめず。気ばかりが焦って。面倒な事とは?』

キルハイトの書簡に追い立てられるようにる領地から王都まで馬を飛ばしてきた。カトリーヌの帰国に合わせるようにの面倒ごと。バッハツアルトにいるエリアーヌに何かあったのか?だが、エリアーヌに何かあったっしても、自分が何をする立場ではなく。カトリーヌに何かあったとしても、自分が何かをする立場にもなれていない。モヤモヤを抱えていたラインハルトはキルハイトに噛み付くように尋ねた。

『落ち着いてくれ、ラインハルト。カトリーヌに縁談の申し込みだ』
『カトリーヌに?』

思いがけない内容に、ラインハルトも戸惑う。

『そうだ。バッハツアルトの公爵家の嫡男だそうだ。今回のカトリーヌの訪問の際に、うちわだけで晩餐会が開かれたそうだが、そこで見染めたと、言っているらしい』 
『公爵家とは?』
『現王妃の生家だ。王妃からみれば甥だな。家柄は申し分ない』
『……カトリーヌはなんと?』
『カトリーヌには出国時に伝えると書いてあるので、この書簡を出した時にはまだ話していないと思われる。カトリーヌの帰国の際に、その甥も警備の一員として同道させるので、検討してみて欲しいとの事だ』

ラインハルトは頭が真っ白になった。愛したエリアーヌは、バッハツアルトの王太子に見染められて、二人の将来への道は引き裂かれた。
カトリーヌも?ラインハルトの中で芽生えつつあったカトリーヌへの想いを形作る前に?エリアーヌと同じ様に、自分の前から居なくなってしまう?

『両陛下はなんと?キルハイトはどう考えているんだ?』

表情が抜け落ち、蒼白なったラインハルトが、キルハイトに尋ねる。

『父上も母上も勿論反対だ。ただ、カトリーヌが嫁ぐ事で、エリアーヌの助けになるのではないかと、母上が。公爵家であれば、王太子妃ほどに身動きが取れない事もないだろうから、エリアーヌの様子をナレントに知らせやすのではないかと、言い出してな』
『さもありなん。王妃様としては、エリアーヌの事が気がかりでしかたがなかったのだろうからな。ラインハルトは?』
『俺か?俺はカトリーヌの気持ち次第だと思っている』
『そうか………』

『ラインハルトはどうしたい?』

キルハイトからの思いがけない言葉にラインハルトが驚く。 

『私がどうしたいと?一体何故?カトリーヌに対して、私は何の権利も持ってはいないし、許されてもいない』

『俺が聞きたいのは、ラインハルトの正直な気持ちだ。勿論、最終的にはカトリーヌの気持ちを1番に考える。ただ、俺は、エリアーヌをうしなってからのお前達をずっと見てきた。だから、聞くんだ』
『キルハイト………』


『大変です、キルハイト様!!』

執務室にドアを打ち破る勢いでキルハイトの侍従が転がり込んできた。 

『どうしたのだ?!』

床に倒れこんだ侍従にキルハイトがかけよる。
『か、か、カトリーヌ様が共も付けずに、お、お一人でお戻りに」
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