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だが、もうすでに遅かった。周りの冷たい視線が逃してくれそうもない。


「いいえ、王太子殿下のこともあるのでマグーマ・ティレックス伯爵にはもう少し話を聞かせてもらいたく願いますが?」

「な、何ーっ!?」


マグーマは目を丸くして顔を上げた。


「理由はもちろん、明らかに豹変した王太子トライセラ・ツインローズ殿下のことについてです。トライセラ殿下が王太子の座を譲るなどという宣言をなされたタイミングでマグーマ様が現れたのです。何も関係がないと疑わないほうがおかしいでしょう?」

「そ、そんなあああああぁぁぁぁぁ!」


この後、マグーマ一人の叫びが響いた。しかし、肝心の王太子トライセラ・ツインローズは虚ろな目で笑っているだけだったという。





王太子と元王太子が問題を起こしたパーティーから翌日。


「……ということが昨日の話なのよね。面白すぎて大変だったわ。今回はジェシカが後ろで待機しているんじゃなくてそばにいてくれたから花瓶が当たらずに済んだわ」

「お嬢様の為ならばいくらでも花瓶を真っ二つにしてみせましょう」

「ありがとうジェシカ。でも、無闇に真っ二つにしなくてもいいからね」

「流石はお嬢様。寛大でおらっしゃる」


昨日の出来事を楽しそうに語る公爵令嬢リリィ・プラチナムと女性騎士ジェシカ・シアター。しかし、楽しそうにしているのはこの二人だけで一緒に聞いているコーク・ローチと部下たちはげんなりしていた。


「そんなふうに楽しそうな話にしないでください……今は王太子殿下のその後について話をしているのですよ……」

「あら、そうでしたわ。私ったら、つい……」

「貴様、お嬢様の気分を害しよって!」

「ひっ!?」


ジェシカは軽く殺気をコーク・ローチに向ける。だが、コーク・ローチはいい加減に怖がるばかりではいられないと思って、意地でも話を続ける。


「そ、それに関しては申し訳なく……ただ、あの後で王太子殿下のことで問題視すべきことが発覚しました」

「問題視すべきこと? それはやはり仕事のし過ぎによる心労でしょうか?」

「はい、その通りです……一応、薬物反応などの検査も行いましたがトライセラ殿下の体にはそのような結果はでませんでした。マグーマ・ティレックス伯爵に関しても同様ですが、お二人共別々の意味でですが普段の体調管理がうまくいっていないことだけは分かっています。まあ、それは置いといて……」


コーク・ローチは少し間をおいてから真面目な顔で王太子トライセラ・ツインローズのことを語り始めた。
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