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第1章 悪童編

今の世界

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 魔法は思春期ごろに自然に身につくもの。それが『ロー・ライト』の時代の常識だ。そう、今の時代の常識なのだ。しかしそれは、ローグにとってあってはならないことだった。

(思春期ごろに自然に身につく? そんな馬鹿な事があるか! 何故、何故すぐに気付かなかったんだ! この世界の異常を! 俺ともあろうものが!)

 『ナイトウ・ログ』の時代では、特別な処置をした者が魔法を使えるようになる。かなり稀なことだが、その子か孫が魔法を使えるようになることもある。それが過去の常識だ。

 だが、この国の人間のほとんどが魔法持ちになれることになっている。しかも、魔法なしの方がごく稀のようだ。ローグはそのことに危機感を感じた。前世から魔法の危険性を知り尽くしている身としては、どうしても見過ごすことができない。

(魔法持ちの人間が少なくとも9割以上いるこの国は異常だ! 他の国はどうだ? 帝国は? 共和国は? 他国でもここまで魔法持ちがいるならまずいぞ、国際的なパワーバランスが崩れている可能性がある。銃火器を誰もが持ってるようなもんだ)

 魔法によっては、国を動かすような価値を持ったものもある。そういう魔法は軍事利用される場合が多いため、戦争の火種には十分だった。そのため、過去の時代では、その特別な処置は自国に認められたものだけが許されることだった。

(いや、もうすでに手遅れなんじゃないか? 辺境の村で暮らしてたから世界の情勢とかが何も分からないな。平和なのか戦争中なのかも分からない。役場では戦争の話は聞かなかったが)

 ローグが今の世界について知ってることは、ローグがいる『王国』の他に『帝国』、『共和国』、『公国』が存在するということだけだ。名前だけ知ってるだけで、それぞれの国がどのような国かさえ知らない。王国の歴史さえ詳しく知らないほどだ。

(俺がいた村は本当にド田舎だったからな。これから一から情報収集しないといけないことは分ってたことだが……なんか今になって大変なことだと実感してきたな……だが……)

 ローグは自分の無知を嘆いた。そして、自分が解き明かそうと決めた世界の謎がさらに深くなったと感じ、嬉しくなった。なぜなら、ローグには『ナイトウ・ログ』という前世がある。

(それほど大きな謎なら、研究者としてこれほど嬉しいことは無い。ハードルが高いほどやる気が出るものだ。前世からの性分は今でも抜けないな。ならば、俺が今やるべきことは……)

 ローグは役場から出て行った。

「すぐに大図書館に行こう。歴史を知って、今の世界の情勢を知ろう」

 『ナイトウ・ログ』の研究者としての部分が、ローグの心に良くも悪くも影響を与える。大体の行動もそれですぐ決まる。ただ、ローグは『ロー・ライト』でもあった。

「……その前にあの3人の顔でも拝んでやるか。今の様子なら面白そうだしな」

 復讐という目的もいまだ背負い続けているのだ。
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