ローグ・ナイト ~復讐者の研究記録~

mimiaizu

文字の大きさ
118 / 252
第4章 因縁編

幕間・王国の密偵(前編)

しおりを挟む
魔法協会。

「坊主、回復させる! 待ってろよ!」
「だ、ダメだ……後でいい……ここを離れるんだ……!」
「そんな!」
「ここに、いたら……厄介ごとに……巻き、込まれる……早く……!」
「「……!」」

 長身の男が少年を強引に肩に担いでそのまま走り出した。

「ル、ルドガーさん!?」
「坊主の言う通りだ。ここを離れることのほうが先決だ。行くぞ!」
「……おう……」

 少女が一緒に走り出した。こうして、このまま3人は魔法協会を去ったのだ。


 
 その様子を、魔法協会の向かい側の建物から注意深く観察していた男がいた。男は王国の暗部に所属するもので、密偵や暗殺などを担っている。そんな彼の目的は、魔法協会の調査だった。
 
 その命を受けた要因は、王都全体に響き渡った『会話』のせいで大騒ぎになり、城に暴徒が集まってしまったからだ。城にいた王は、この状況を嘆き一刻も早く打開しなければならないとして、原因である『会話』の発信源を探すことにした。そして、その発信源が魔法協会にあると考えた王国の上層部の密命で、魔法協会側に何の連絡もなしにこの男が差し向けられたのだ。











 男はすぐに魔法協会に潜入しなかった。何故すぐに潜入しないのかというと、その時の魔法協会は、多くの暴徒が押し寄せていたのだ。その数は、城に集まった暴徒と化した民衆と同じかそれ以上だったのだ。この状況を魔法協会側はどうするのか、男は少し観察することにしていたが、予想だにしなかった事態になってしまった。

 レシオン・ザールという構成員が民衆に向けて謝罪の意を示している途中で、魔法協会から魔物が出てきたのだ。しかも、魔法協会の構成員を民衆の目の前で殺害してしまった。暴徒だった民衆の頭は、怒りと憎しみから恐怖に切り替わりパニックを引き起こしてしまった。

 こんな事態は危険すぎると感じた男は、城に戻って兵士か騎士をよこしてもらうか迷ってしまった。それもそのはず、城も暴徒の対応で大変なのに、ここに戦力を回す余裕があるはずがないのだ。だが、流石に見ているだけなのはまずいと思った男は自分が魔物を処理しようと決意した時に、おかしなものを見てしまった。

 多くの民衆が逃げ出した中で、一人の少年が魔物の前に立ったのだ。更に、その少年は魔物の前だというのに落ち着いているように見えた。そして、少年は魔物と戦いを始めた。そして、あっという間に魔物を倒してしまった。

 驚いた男は少年に注目するが、潜伏している建物と魔法協会の位置が離れているため、黒い髪だということしか分からない。その少年に長身の男と少女がそばにやってきて、少女が少年に抱き着いてきた。おそらく仲間なのだろう。そう思った時、異変が起こった。

「ウォルルルルルルルルルルルルゥッ!」

(これは!? まさか!?)

 突然、新たな魔物の唸り声が響いてきた。魔法協会の奥から聞こえてきたそれは徐々に近づいてくる。長身男が少女の手を引いて、物陰に隠れた。その一方で少年は魔法を発動する。赤紫色の光の壁が出現したことから防御系の魔法なのだろう。その判断は正しかった。

「ウォルルルゥアアアッ!

バキンッ!

「ウォオオッ!?」

 唸り声の主と思われる魔物が少年に向かって噛みつこうとしてきたが、展開された防御魔法に触れた瞬間に派手に弾かれた。そこで男は魔物の全容を見て絶句した。出てはいけないものだったのだ。

 魔物は全長3メートルほどある狼型。全身は緑色の固い鱗に覆われて、鋭い爪と牙を持っている。顔に8っつの真っ赤な目があり、口は従来の狼よりも少し長い。

 どう見ても、魔法協会が最近捕まえたという迷宮の魔物だったのだ。男がそう思ったのは、魔法協会からもらった魔物の資料に一致していたからだ。その資料の中で、多くの構成員を殺してしまった魔物があいつだった。

 男は自分の手に負えないと考え、今度こそ城に戻るべきだと思っていたが、そんなときに3人と魔物の戦いが始まった。

「ウォルルルルルル!」

(始まった!)

 魔物は少年に向かって突進していった。少年は迎え撃とうとして、その手から光の剣のような魔法を発動した。

ダンッ!

 だが、あと一歩っというところで魔物は方向転換した。少年の仲間と思われる二人の人物のほうにだ。それに反応した少年は魔物に向かって飛び出した。体が魔力のオーラを放っている。魔法を使って身体能力を上げたのだろう。その動きに目を見張るものがある。あれなら魔物に追いつく。男はそう思ったが、

ダンッ!

 ここで魔物は、再び方向転換した。その先にいるのは少年だった。

(あの魔物、あんな体勢からまた方向を変えた!?)

 今の少年は走ってきたのではなく、飛び出している。地に足が着かない状態だと、どう見ても不利だ。これが偶然ではなく狙った動きだとすれば、あの魔物はかなり知能が高い。恐るべき魔物が解き放たれてしまったと男は思った。そして……

「ウォルルルルルル!」

 少年の血が舞った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

商人でいこう!

八神
ファンタジー
「ようこそ。異世界『バルガルド』へ」

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...