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第5章 外国編

今の王国

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 王国。そこは魔法で発展した国だ。国民のほとんどが魔法を持ち、魔法は神に与えられた贈り物であり、魔法を持たないものは人間ではないと教えられてきた。しかし、それは王国の上層部による『まやかし』だった。実際は、王国が『何か大きな力』で、国民全員に10年近くの寿命と引き換えに与えたものだったのだ。王国が建国してから今に至るまで、ずっと秘匿にされてきたことだった。

 しかし、その真実がとある少年によって暴露された。その少年は『ローグ・ナイト』。前世の記憶と二つの魔法を持つ少年だった。彼は前世の記憶を利用し、魔法協会を壊滅し、王都全土に真実を伝えた。その結果、王都に住み国民の9割が魔法協会と王城に押し寄せて暴動を起こすという事件にまで発展した。





 それから、王国で大きな暴動が起こってから一か月が過ぎた。王国の、王都の人々は数日間に暴動を起こしていたが、騎士団の努力と王国の対応によって暴動は治まった。今の王都に暮らす人々は、はたから見れば大人しそうにしている。暴動を起こした者たちも同じだった。ただ、人々から笑顔や笑いがめっきり少なくなっていた。王国側は真剣に対応したのは事実だが、誰もがはっきり納得したわけではない。王国側の権力と騎士団の強さを恐れて何もできないだけだったのだ。

 当時は、いきなり真実を知らされて感情のままに行動してしまった多くの国民たちだったが、冷静になって馬鹿なことをしたと思うもの、無駄なことをしたと思おうものも多かった。暴動を起こし、王国にたてついたところで、無力な国民にできることなどたかが知れる。国民が支える王国が、どうしようもなく大きな罪を隠したり、大事なことを黙っていたのは許せることではない。だが、相手は国そのものだ。権力と武力を兼ね備える相手は、敵として力が大きく強すぎる。一時の怒りに任せても何も変えられるはずがないのだ。結果的に暴動は治まったが、それは多くの人々が強大な存在に負けたことを意味する。王国を糾弾しても何も得られず、罪人から何も取り戻せなかったのだ。人々が笑顔を失うのは当然だ。

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 しかし、その胸に抱く怒りを忘れないものはまだ多かった。暴動が終わっても、怒りが収まらない、仇を隠したことが許せない、悔しさがぬぐえない、王国を変えたい、そういう者たちが集まり結束していたのだ。王国に反旗を翻すために。

(この国を変えてやる! 本当に国民が笑える国にするために!)

 その中には、こんなものがいた。とある大きな組織の罪を暴き、王都全土に知らせた少年のようになりたい、と願い憧れる者が。

(声からして少年だったけど、あんな風になりたい! あんな英雄になりたい!)

 ……その少年が実は復讐を目的に行動していて、決して正義感で動いているわけではないと知らずに憧れている残念なものもいた。

 こうして集まった彼らだったのだが、実際に王国に反乱を起こす組織にまで発展することになる。そして、本当に王国と世界を変える戦いを起こしてしまう。だが、それはもう少し先の話になるため、ここからは暴動が起きるきっかけを作った少年の話に変わる。いや、少年と新たに出会った少女の話になる。

 話の舞台は王国から帝国に移り変わる。帝国はこの世界に存在する大きな4か国のうちの一つで、王国よりも少し広い領土を持つ大国である。王国と仲が悪く、しかも隣国のためによく戦争をしている相手だ。帝国は大国であるがゆえに内戦を起こすこともよくあり、それを他国に付け込まれ政治的に利用されることも度々あった。そんな国が今度の舞台になった。
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