【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ

一終一(にのまえしゅういち)

文字の大きさ
65 / 141
第2章 新天地編

第65話 ゲブラー火山の大決戦2・乱入

しおりを挟む
 火口のふちに現れた獅子型巨獣スフィンクス。

 コイツが来たのは偶然ではない。俺がおびき寄せたのだ。二頭いたスフィンクスの内、突然変異しておらず小さい方であるコイツのある特徴を利用した。

 それはピラミッド型の巣を作っていたことである。あれだけ綺麗な四角すいの建造物を建てるにはかなり几帳面でなければ難しいだろう。そしてもしピラミッドの一部でも欠けたら必ず気付き、取り戻しに来ると考えた。

 そこで俺はスフィンクスの隙を突いてピラミッドの石を盗み、火口まで持ってきたのだ。引きずった跡など痕跡をきっちり残すことで誘導できた。

「ここからが本番だ」

 コオロギ型巨獣クリケットの部隊を操作して火口に落としていた直方体のピラミッドの石に乗せる。これによりサラマンダーを誘き寄せて、あたかも石を守っているように見せかけるのだ。

「キェェ!」

 サラマンダーが狙い通りクリケットエサを食べながら石の上に乗った。それを見たスフィンクスが牙を剥き出しにする。

「よし、行ける……!」

 これが本作戦の最大の狙い。“巨獣同士殺し合わせること”だ。まともにダメージを与えられない現状、これしかないと思った。

「グォォ!」

 石を取られたと勘違いしたスフィンクスが勢いよく坂を駆け降りてサラマンダーに飛び掛かる。

 それを見た相手は巨大な火の玉を吐き出して応戦。

 火の玉がスフィンクスに直撃。わずかに傷がつき、ダメージが入っているのが分かる。いいぞ殺し合え。後はどちらかが死に、どちらかが生き残って弱ったところを仕留める。あるいは両方弱ったところでもいい。いずれにせよ漁夫の利を狙うだけだ。

 俺は二頭が争っている間にマミーとスミーを火口に落とし続ける。これで火口を埋めつつ、あわよくばコイツらもサラマンダー達の邪魔をしてくれればいい。

 二頭の爪での切り合いが続く中、スフィンクスが次の行動に移った。ダンゴムシのように丸くなり、棘の体毛を剥き出しにした。直後、高速回転して、転がる毬栗いがぐりのごとくサラマンダーへ突進した。スフィンクスの回転アタックだ。

「キェェ!」

 サラマンダーは、かん高い声を上げて突進に対抗すべく口から火炎放射を放った。炎と回転アタックが衝突。

 俺は煌々こうこうと光る炎に目をすがめながら戦況を見守っていた。

 すると、すぐに変化が起きた。サラマンダーの方が根負けして火力を弱めてしまう。スフィンクスは畳み掛けるように回転を早めて炎を消し飛ばした。

 サラマンダーの顔面に棘が迫り来る。だが、ギリギリのところで横にステップしてかわした。それでも飛び散る棘を全て回避することは出来ず体に傷がついて出血。

「よかった。一応無敵ではなかったか」

 俺が戦った時は傷一つ付けられなかったのだが、これで火以外はダメージが入るのが分かった。

 スフィンクスは勢いそのままに溶岩だまりに突っ込んだ。そのまま溶けてくれたらいいのだが、残念ながら無傷で、風呂上がりのおじさんのようにサッパリした顔でい出てきた。ただ、口の中に入った溶岩をペッペッと吐き出して熱そうにしている。猫舌なのかな?

 冗談はさておき、再び対峙した二頭の巨獣を見守る。威嚇いかくし合う二頭だが、スフィンクスの方は急に視線を横にずらし、ピラミッドの石に焦点を合わせた。

「チッ、そっちのパターンで来るか」

 俺が想定していた敵の動きの一つ、“ピラミッドの石を持って撤退”をやりそうだ。完遂されたら俺にとって最悪のシナリオになる。

 だがこの程度は予想の範疇はんちゅう。当然対策を取っている。

 スフィンクスが動き出した。案の定、ピラミッド石の方へ一足飛びに向かう。すぐに口にくわえてその場を去ろうとするが、石を口から滑り落としてしまう。

 俺がクリケットを石に乗せた時、ついでにスライム液を塗布とふしておいたのだ。綺麗に整えている石を傷付けたくないであろうヤツは、牙を立てて咥えないと考えた。

 スフィンクスは何度も持ち去ろうと試みるも失敗している。そしてモタモタしている間にサラマンダーが溶岩を飲み始めた。

「……来る!」

 溶岩を吸い終わったサラマンダーが真上を向き、溶岩と岩の塊を遥か上空に飛ばした。岩の勢いが徐々に死んで行き、空中で止まる。刹那せつな、塊が破裂し、溶岩や砕けた岩が流星群のように火山へ降り注ぐ。

 こうなったらスフィンクスのとる行動は一つ。動かせないピラミッドの石を守るため自身も大技を使うしかない。

 スフィンクスの棘体毛が逆立つ。顔に青筋が立ち、金属を擦り合わせたような嫌な音を奏でた後、体中の棘が足下の石以外の全方位に放たれた。

 棘と流星群がぶつかる。衝突するたび爆撃を受けたかのような轟音が鳴り響く。

 俺はその音に萎縮いしゅくしそうになるが、ビビっている場合ではない。すぐに鎧兵を召喚して守りに入る。

 出したのは合体鎧兵。スミーとの戦いの時に使ったパーフェクトポテトさんの亜種だ。五体の鎧を合体させたやつで、デカい代わりに動きはとろい。しかし、防御には役立つ。

 合体鎧兵にサソリ型巨獣ムシュフシュの外殻がいかくでできた簡易的な盾を持たせて俺本体の周囲に立たせる。これで小さい飛来物は防げるはずだ。

「頼むからどっちかは死んでくれよ……!」

 俺は避ける準備をしつつ、戦況を見守っていた。

 鳴り止まぬ死の音。永遠かと思われるくらいの時間が続く。攻撃が地面に着弾した時に上がった砂煙が火口を包み状況が見えなくなった。それから少し経ち、地獄のような音が止んで煙が晴れていく。

 戦場に目を凝らすと、火口が棘体毛や岩でほとんど埋まっていた。そんな中でも二頭の巨獣は生きていた。

 クソ、どっちも死んでいないか。それでも二頭とも重傷を負っている。これなら勝てるかも知れない。

 勝利の道筋が見えた、その時。俺のいる場所の反対側に大きな影が見えた。俺は何も考えずゆっくりと視線を移した。

「お、おい……なんでお前が来てんだよ……!」

 そこに居たのは想定外の巨獣、“第二のスフィンクス”であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

処理中です...