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06 男メイドのプライド

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学校特集:執事メイド専門学校

市長の発案で開校された、ここ『執事メイド専門学校』ですが、高い就職率を誇り、また生徒数も年々増加している人気の専門学校になっています。
執事コース、メイドコースの2コースありますが、最近では男子のメイドコースが特に人気で、美の教養だけでなく、高潔な奉仕の精神が養われると、美形の男の子達の間で注目が集まっています。
それでは、おもな就職先の解説ですが……。

****

ここは、市の中心地から少し離れた高台。
街全体を見下ろす事が出来るこの地域は、セレブ達に人気の別荘地となっている。

五葉 誠二ごよう せいじは、この地域の外れの小さな屋敷に居を構え、二か月前に来た執事メイド専門学校の卒業生である早乙女 司さおとめ つかさと二人暮らしをしている。
誠二の夕食の給仕をしていた司が言った。

「旦那様、お食事、いかがでしょうか? お口に合いますか?」
「うん、とっても美味しいよ」

「やった! 嬉しい! 旦那様が好きっておっしゃった隠し味を入れてみたんです! それでですね……」
「司、おしゃべりはその辺にして、お前も食べなさい」

「はい、旦那様! でも、その前に……」

司は、足にすり寄ってきた黒猫を抱き抱えた。

「さぁ、にゃー子もご飯だよ!」
「にゃー」

誠二は、セレブ中のセレブ。
市内でもいちにを争う有力者の一族の当主で、莫大な財力を背景に政治経済を動かしてきた。

と言っても、今の誠二は若くして隠居生活をしている身で、のんびりと日々を過ごしている。

誠二は、容姿端麗の男で、歳の頃は30歳ぐらい。
細い切れ長の目に面長の顔立ちで、若い男特有のギラギラした感じはなく、落ち着いた大人の男の風貌である。
言うなればダンディという言葉があっている。

一方、司は、20歳間近の男にしてはあどけない雰囲気で、可愛いらしい感じの姫カット男子。
格好は、伝統的な執事の制服である燕尾服に半ズボン、それにハイソックスというスタイル。

「旦那様、聞いて下さいよ! 今日街に買い物に行ったらですね……」

司は、男の割りにおしゃべりで、相手が大金持ちだろうと遠慮はない。
食事中でもおしゃべりが止まらない。

誠二の元に来た当初は、使用人の規律に準い寡黙で丁寧なしゃべり口だったのだが、誠二が堅苦しいのは苦手だ、というものだから今はすっかり地が出てしまっている。

誠二は、食事を口に運びながら、楽しそうに話す司の言葉に耳を傾ける。

(なんて、和やかで温かいのだろう。一人の時には決して味わえなかったもの……こんな楽しい食事が取れるのも、全部司のおかげだな)

「旦那様! ちゃんと聞いて下さってますか? 旦那様!」
「ああ、すまない。聞いているよ」

「もう! 本当ですか?」

頬をぷくっと膨らませて恨めしそうに睨む。

「あはは、ごめん。実は、途中から聞いてなかった」
「はぁ……もう、いいですよ! では、最初からもう一度いいますね。えっとですね……」

楽しい食事が再開された。


****


誠二は、就寝前には書斎に入り秘書からのメールを確認する。
隠居した身とはいえ財閥総帥である。

重要な取引や契約書には当主の承認が必要なケースが往々にしてある。

その仕事の最中に、ドアが、トントン、と鳴った。

「失礼します。旦那様。コーヒーをお持ちしました」
「ああ、ありがとう。そこにおいておいて」

「はい」

司は、テーブルの端にコーヒーカップを置いた。
コーヒーの香ばしい香りが周囲に立ち込める。

誠二がカップに手を伸ばした。と、その時、ふと、司が立ったままじっと誠二の方を向いているのに気が付いた。

「何か用かな?」
「あ、あの……その」

何か言いたそうにモジモジしている。
よし、と小さい掛け声の後で、誠二をじっと見つめて言った。

「今夜……ご、ご奉仕を……」

誠二は、その言葉を手を挙げて遮る。
厳しい顔。

「必要ない。下がっていいよ、司」
「し、しかし……」

「いいから、下がりなさい」

ぴしゃりと言った。
司は、声を発せられずに開けたままの口を閉じた。

「……はい」

しょんぼりと、肩を落とす司。
下を向いたまま、静かに部屋を出ていった。
誠二は、その背中を見つめて、はぁ、と深いため息を付いた。

(私の為によく働き、私の心を癒してくれる司。これさえなかったら、お前をずっと雇っていられたのに……)

誠二は、パソコンに向かい、秘書充てのメールを送信した。


****


そもそもなぜ司を雇う事になったのか。
それは、およそ2か月前に遡る。

誠二の元に、市長の秘書を名乗る男が尋ねて来た。

「執事メイド専門学校? 聞いた事ないな……」

その男が言うには、市が運営するその学校の卒業生を雇ってはくれないか、という内容だった。
差し出された写真には、可愛らしいメイド姿の女の子が写っている。

「……メイドを雇えと?」

市長の神治かみちとは、学生時代からの旧知の仲である。

(せっかくの一人で気ままな隠居生活なのだが……まぁ、あいつには、借りがあったから、ここで返しておくか)

そして、誠二の元に司がやって来た。

「……君は、男の子なのか?」
「はい!」

どっからどう見てても、女性である。
細身で小柄。色白で小顔、長いまつ毛。

全身を見れば、メイドの髪飾り、シックなドレスに、リボン、エプロン姿。
それなのに男。
誠二の疑問に、司は凛として答える。

「この姿は、メイドの正式な制服でございます。私は、男ではありますが、メイドでございますので……」

誠二は、突然、胸がむかむかして吐き気を催した。
それに気が付いた司は、言った。

「旦那様。私のこの姿は、お気に召しませんか? でしたら、執事風メイド服もございます」

誠二は、胸を抑えながら、それにしてくれ、とリクエストして司を下がらせた。

(契約したのだからしょうがない。頃合いを見計らって解雇すれば問題ないな。それにしても、男の子だったとは……なんて迂闊な)


司を雇って1か月が過ぎた。
もともと1か月間は試用期間であり、そこで契約打ち切りのはずだった。
が、本契約を結んだ。

(一人暮らしも悪くなかったが、もう、元の生活には戻れんな。メイド一人雇うだけで、こんなに快適になるとは……)

司は、てきぱきと良く動く。
掃除、洗濯、食事の支度は言うまでもない。

家の修繕の手配、備品の調達、それに季節行儀の準備まで。
よく気が付き、誠二好みを踏まえてベストを提供をしてくる。

「今日は、旦那様の好きそうなハーブを買ってまいりました。お飲みになりますか?」
「旦那様、お部屋着が傷んでいたので、縫い繕っておきました」
「お帰りなさいませ、旦那様。丁度よいお湯加減でお風呂が出来ています」

そして何より、誠二が気に入ったのは、司自身のパーソナリティ。
家の中を明るく心地よくしてくれるのだ。

司は、箒を片手に黒ネコを楽しそうに追い回す。

「あははは! ダメだぞ! にゃー子! どこに隠れても!」

オス猫なのに、にゃー子。
この家に勝手に住みついたの野良猫に、司がそう名付けた。

そのにゃー子と、トムとジェリーさながらのじゃれ合いを繰り広げる。
それを見ていると心が和むのだ。

こんな生活も悪くない。そう、誠二は思った。
その矢先の事だった。

司は、誠二の寝所に突然現れてこう言った。

「旦那様。夜のご奉仕に参りました」
「奉仕? 何を言い出すんだ? それにその格好……」

体の線が丸見えのシースルーの下着姿。
扇情的な男性用ブラとガーターベルト、それにストッキング。
そして、誠二が目を見張ったのは股間のもの。
男のモノをすっぽりと包み込む貞操帯だった。

「は、恥ずかしいので……そ、そんなに、じっと見ないで下さい……」

司は、顔をぽっと赤くさせ、それでも少し嬉しそうに笑みを漏らした。
誠二は突然の事で驚きもしたが、何かの冗談だと思い冷静になって問いただした。
司が言うには、夜の奉仕は男メイドの重要な役割の一つなのだという。

「そんなバカな……風俗じゃあるまいし、そんな事が……」

確かに契約書を確かめるとそのような記載があった。

「私は、契約書をちゃんと読まなかったんだ。だから、知らなかった」

司は困惑した顔をした。
誠二は、司の頭をなでながら言った。

「だから、いいんだよ。私にこんな事をしないでも」

司の安堵の顔を期待したのだが、まったくの正反対だった。

司は、顔を真っ赤にして主張した。
仕事なのだから、奉仕をさせてほしいと。
断る誠二に、司は泣きそうな顔でひたすら訴える。

「分かったよ。必要になったら声をかけるから」

そう言って、その場を何とか収めた。

誠二は、不愉快な気持ちになった。

(メイドに夜の世話をさせるだなんて……嫌悪感しかない。反吐がでる)

一方で、司に、契約に縛られて仕方なくなのか? と問うてみると、自分の貞操帯を見せながら、

「これは、男の機能は使わないっていうシンボルなのです。この体は女性を抱くどころか旦那様以外の男性とは関係を持たないという誓いなのです」

と、これこそが男メイドとしての誇りなのだと、堂々と語るのだった。

(普通じゃない。メイドを洗脳までして……こんな制度を一体誰が考えたんだ? 欲望の限りを尽くす金の亡者が思いつくような発想……まさか神治の案か? 昔のあいつはこんな事を考えるような男ではなかったはずだが……)

それ以来、司は、誠二から声がかかるのを待つ日々が続いている。

「……なぁ、にゃー子。旦那様はいつボクを呼んでくれるかなぁ」
「にゃー」

司は、にゃー子をだき抱え、寂しそうな顔をした。
誠二は、そんな司の姿を見て、

「やはり……このままじゃいられないな」

と、決心を固めた。

****

誠二は、庭に出てウッドデッキに座り、目を閉じて初夏の風を感じていた。
顔に当たる日差しが遮られ、うっすら目を開けた。

「……旦那様、どうしてボクは解雇なのですか?」

声が震えている。
司の手には、おそらく契約解除の書類があった。

「司、君に落ち度はないんだ……」
「なら、理由をお聞かせください!」

悲鳴のような叫び声。 

「……そうだね。君にはそれを聞く権利がある。話そう……」

誠二は、ゆっくりと話し始めた。

「私がどうしても受け入れる事ができない……夜の奉仕ってやつを……」

****

誠二は語り始めた。
まずは誠二の生い立ち。

誠二は、先代の当主が妾に産ませた子であった。
外に出されて普通の暮らしをしていたのだが、跡目争いで後継者達はことごとく失脚し、最後に誠二に白羽の矢が立った。
何も後ろ盾がなかったのが、逆に幸いした。

亡き父から受け取った財産と事業。
一夜にして庶民から大富豪へ。

しかし、誠二にとっては幸運ではなく不幸の始まりであった。

そこは、金と欲望に満ちた世界。
金の亡者に囲まれた生活。


代々、家に仕える秘書が勉強会と称するいかがわしい会合へ参加するように言ってきた。

「わ、私はこのような趣向のパーティーなどには……」
「誠二様。よろしいですか。これは貴方様の為だけではありません。一族とそれに連なる使用人達の生活の為でもあるのです」
「しかし、私は……」

秘書は首を横に振る。

「いいえ、参加しなくてなりません」

そこは、財界、政界の大物が集う秘密のパーティー。

メイド姿の美しい青年達を、来客達が取り囲み趣味趣向の限り尽くして犯しまくる。

ここに呼ばれた青年達にも色々な事情があるのだろう。
しかし、ここに来たらもう最後。
肛門には、肉棒という肉棒が挿し込まれ、腹の中には見知らぬ男達の子種で溢れかえり、男としての尊厳は完全に失われてしまう。

恐ろしい光景に目を覆う誠二。
そんな誠二に、来客の一人が言った。

「ご当主もほら、もっと楽しんだらどうだ? ほら、この子はまだアナルバージンだぞ。ぜひ味見しては? ぐふふふ」

紹介された青年は、怯えた顔をしていた。
綺麗にメイクを施された顔は、女性よりも美しい顔をしている。
誠二は、そっと青年の頬を触り、心配を取り除こうとして声を掛けた。

「……大丈夫」

しかし、誠二は、突然ガバッと青年を押し倒し唇を奪った。
誠二は、理性とは裏腹に体の方は猛烈に興奮していた。
美しい男の顔に触れ、学生時代、悪友に進められて覚えてしまった男の体の良さを、本能で呼び起こされてしまったのだ。

「……ご、ごめんな……」

抗おうとする青年の両手を頭の上で押さえつけ、熱くいきり勃ったものを、青年のアナルへぶち込んだ。
ディープキスを続けながら、バージンの穴を掘りまくる。

「……や、やめてください……あっ、あっ」

青年は、体をよがりながら抵抗する。
しかし、誠二は、獲物をしっかりと抑え、欲望の限り捕食を続けた。
青年は、途中からは抵抗は諦め、涙が流れるのに任せていた。

誠二が絶頂に達すると、来客の一人が誠二の背中を叩いた。

「ふふふ、たくさん出したな。気持ちよかっただろ? なんたって初モノの美男子だからな、堪らないよな、はははは」

誠二は、逃げるようにその場を離れ、誰もいない壁際でうずくまった。

気持ちよくなかったのか、といえば嘘になる。
背徳感を味わながらも、同性を自分の男根で支配する優越感。


宴の終わり。
周囲には、むせ狂う程の男の体液の匂いが充満し、ぐったりとした青年達のうめき声がかすかに聞こえるのみとなった。
そんな中、ちらりほらりと、来客達が商談を進める声が聞こえ始める。

「……いい取引が出来ましたよ」
「こちらこそ……では、また次回の勉強会で」

「ええ、楽しみですね」
「そうですね。では」

(なんて世界だ。欲にまみれている。しかし、私は違う。私は……)

頭ではそう理解してるのだが、誠二には拒絶する術はなかった。
自分に仕えている多くの者達、そして、その家族。
何万、何十万の人間の命運がかかっているのだ。

しかし、誠二はそれも言い訳だと知っていた。
汚らわしくも本能は肯定している。
快楽を求めている。美青年達を犯す事を……。

欲望の赴くままに生きろ、と悪魔が囁く。
抗えない。

(くそっ……結局、私も堕ちていくのか……この暗くて深い闇の底に)

そして、何回目かの勉強会の時、誠二は、再び、あの時の青年と出会った。

「いいっ……旦那様っ……さ、最高です! ああ、今夜はなんて素晴らしいんだ! 俺のバージンをもらってくれた旦那様にまた可愛がってもらえるなんて!」

「旦那様っ! もっと! もっと! 奥まで!」

「いくっ……いくっ、旦那様も一緒に! いくーっ!」

青年は、すっかり自分の体の使い方を覚えていた。
男を悦ばすためには何をどうすればいいのかを。

誠二が、イキの余韻に浸っている中、青年は黒服の男に手首を掴まれていた。

「お前は、休むな。次は、こっちだ!」
「はい、ただいま! 旦那様、また俺を可愛がって下さいね! 絶対ですよ!」

嬉々として次の客の相手をしに行く青年。
男に溺れる男。

(あんなに怯えていた青年が、自ら男を追い求めるようになってしまうなんて……すっかり変わってしまった……)

そして誠二は、次の青年をあてがわれた。

「ご当主。新人の子が入りました。是非、ご当主にと思いまして。どうぞ初モノをお召し上がり下さい」
「よ、よろしくお願いします」

見たことがある表情。
怯え切った顔。

「あっ、ううぐっ……痛い、痛いです……」

誠二の容赦のないピストンに、青年は顔を歪めて助けを求めた。
そして、誠二が達すると、青年は涙を流し嗚咽を漏らした。

「あ、ありがとうございました……ううっ……ヒック……」
「何泣いてんだよ! さぁこい。今度はこっちでご奉仕だ。しらけるから泣くのをやめろ!」

「はい、ごめんなさい。ううっ」

ふと、遠くに目をやると、あの最初の青年が嬉しそうに腰を振っている姿が目に入った。

(おそらくこの子もいずれは……あのように男を求める体に)

「さぁ、皆さん! 新しい事業に!」
「我々の将来の発展に!」

「カンパーイ!」

誠二は、頭を抱えた。

(ダメだ……こんな事を続けてては。自分自身の心の弱さに向き合わなくてはいけない)

この時、誠二は隠棲する決心を固めた。
代理人を立て、持病の療養という形でなんとか引きこもる事に成功した。
この地獄から離れる事が出来たのだ。

****

司は、誠二の話をじっと黙って聞いていた。
誠二は、遠くに流れる雲を見ながら言った。

「結局、私は逃げる事はできた。でも、心の傷は負ったまま。ずっと忘れることができない。私は、自分の手で一人のいたいけな青年をセックス漬けにしてしまったのだ。彼の未来を奪ってしまったのだ。分かったか? もう二度と同じ思いはしたくないのだ。これが、私が夜の奉仕を嫌悪する理由だ」

しばらくの間、司は緊張した顔していた。

(……分かってくれたようだな) 

しかし、司は、一転し顔をゆるませ、明るい声で言った。

「良かった!」
「な、何故だ? 何が、いいのだ?」

「旦那様は、男の子を抱くのが嫌いなわけではないのですね。ボク、安心しました」
「安心だと? 聞いていなかったのか?」

「聞いていましたよ。旦那様のがすごいって」
「お前!」

さすがの誠二も苛立ちを隠せずに怒鳴った。
司は構わずに続ける。

「旦那様、安心して下さい! ボクはその辺の男の子とは違います。その子は、自分から進んで快楽への道を選んだのです。自分勝手に。だから旦那様が気に病む事などありません!」
「……」

「ボクはプロです。ボクは、自分の事などより旦那様をいかに満足させる事が出来るかが、一番大事。だから、本懐を忘れてセックスに溺れる事などあり得ません」
「プロか……しかし、それが仕事とはいえ、望まないセックスを強要するなど……そんな事はあってはならない」

「旦那様! みくびらないで下さい! ボクは男メイドのプロです。望むとか望まないとかそんな次元の話じゃないんです。男メイドとしてのプライドです!」
「プライド……」

「そうです。学校で訓練してきました。ボクはこう見えてもご奉仕部門の主席で卒業しました。なのに仕事をさせてくれないなんて……屈辱です」
「屈辱って……」

「ご奉仕させてください! お願いですから! もしさせて頂ければ、解雇になっても諦めがつきます……」

そこまで言って涙を流した。

(そうか男のプライド……可愛いと言っても一人の男。私は酷い事をしていたのかもな……)

誠二は、こうべを垂れた。
筋は通っている。
誠二は、自分の価値観を一方的に押し付けていたことに気が付き、己を恥じた。

「泣かないでくれ、司。分かった。君を解雇する前に、ちゃんと仕事は全うさせてあげよう。ただし、最初で最後の一度きり。いいな?」
「はい! ありがとうございます!」

司は、ゴシゴシと目を擦り、涙を拭いた後、健気にもニコッと笑った。

(一生懸命な男の子……可愛いな)

****


誠二のまたぐらに司は顔を埋める。
そそり勃つ誠二の男根を司は丁寧な手さばきと舌使いで、それをより大きく逞しく育てていく。

「はぁ、はぁ……気持ちいいよ、司……ば、爆発しそうだ」
「ふふふ、まだまだですよ。ご主人様!」

脈打つ肉棒を握り締め、得意気な顔。
でも、それはフェラチオまで。
背面座位で誠二の膝の上に乗った司は、誠二の突き上げ度に発するパン、パンというリズムにのって宙を舞った。

「……す、すごい……こんなの、ボク初めて……いっちゃう、いっちゃうっ」
「はぁ、はぁ……どうした? 私を天国に連れて行くんじゃないのか?」

「……うっ、うっ、だって……旦那様のって……固くて、太くて……ボク、こんなの初めてで……あっ、奥までくるっ」
「男のプライドはどこにいった?」

「ダメ、ダメ……ボク、いくいく、いっちゃうよ、あーっ!」

司の貞操帯からは、白い液体が所かまわず、蛇口が破裂したように吹き出していた。

****

司は、泣いた。

「旦那様、ごめんなさい! ううっ」
「いいんだよ」

誠二は、司の頭を優しくポンポンと撫でた。

(逆にプライドを傷つけてしまった。すまない事をした……)

そんな後悔の念が誠二の頭をよぎる。
誠二は、司の頬に手を当てて言った。

「もう、おやすみ……司は十分、頑張ったよ」

司は、すくっと頭を上げた。

「いえ、まだです! もう一度!」
「しかし……」

「ボクにチャンスを下さい!」
 
キッと上目使いで、誠二を見つめる。
誠二は、ため息をついた。

「なら、もう一度だけだよ」
「はい!」

****

今度は対面座位。
司は、誠二の膝の上で、歯を食いしばって、快感に抗おうと必死に我慢する。
目には涙を浮かべている。

相当気持ちがいいのだろう。
体の痙攣が止まらない。
ギリギリの狭間で、耐えている。

誠二は、それを知ってもピストンを緩めない。
それどころか、司の乳首を徹底的に攻める。
吸い付き、舐め回し、先端は可哀そうなくらい赤く固く勃起しているのだが、そこに追い打ちをかけるように甘噛みする。

こんな可愛い男の子が、イクのを我慢する可愛い顔をさらしているのだ。
誠二の本性が出てこないわけがない。

「……うっ、ううう……」

司は、誠二の背中に回した手で、誠二の体に爪をたてきつく抱き着いた。
誠二は、その痛さで、ふと冷静になった。

(可愛い子だ……私の為にこんなに一生懸命になって……この子を自分のものにしたい。手放したくない)

そう思うと、ピンっと内ももとふくらはぎに力が入り、イキの前兆のようなものが襲ってくるのを感じた。
それに気が付いた司は、喘ぎ声が漏れるのを我慢しつつ言った。

「ど、どうです? 気持ちいいですか? 旦那様……」
「ああ……とっても、気持ちいいよ。いきそうだ」

司は、その言葉を聞いて、ホッとした表情をした。

「……じゃあ、もう少し……ボク、頑張ります!」

キッとして唇を一文字に結んだ。
負けないぞという男の表情。

誠二は、胸を打たれた。

(ああ、なんて健気な……私は、この子が欲しい。私のをたくさん注いで……私だけのものに)

「……いくっ」

誠二は、アゴを上げて、深い突き上げをした。
どん、と司の体の奥に突き刺さった。
その反動で、溜まりに溜まっていた、男の濃厚ミルクが噴きだす。
その瞬間、司も、天を仰ぎ見、悲鳴のような断末魔を上げた。


****

軒先に立った司は、最初にこの屋敷に来た時と同じく可愛いメイド姿で深くお辞儀をした。

「旦那様、ボク、いい経験ができました。ありがとうございました。誰かにいかされるって、とっても気持ちいいものなのですね。ボク、旦那様の事、一生忘れません。お世話になりました」

そして、足元にまとわりつく猫を拾い上げた。

「じゃあね、にゃー子」

にっこりと笑い、頬を寄せ合い楽しそうに最後のキスをした。
しかし、誠二には、司が泣かないように堪えているのが丸わかりだった。
司の頬に涙がつうーっと垂れた。
と、同時に、誠二の頬にも涙が伝う。

(あれ、私も……どうして?)

胸が締め付けられて苦しい。
勉強会では少しもこんな感情はなかった。
何だこれは?

司の顔から目が離せないでいる自分がいる。
その答えが示すもの。
誠二は、ようやくその苦しさの正体を理解した。

(これが……愛というものなのか?)

にゃー子をそっと地面に置いた司は、誠二に向かって大きく手を振った。

「さようなら、旦那様!」

涙で顔がぐしゃぐしゃなのに、笑顔を絶やすまいと耐えている。

(だめだ……我慢できない)

誠二は、司の手をとり自分の胸に抱き締めて叫んだ。

「ま、待て!! 待ってくれ! 頼むから、行かないでくれ、司!」


****


二人は家に入りテーブルに座った。
誠二は、柄にもなく照れた顔で、司から目を逸らす。

「えっとな……その、このままこの家にいてくれないか?」
「……旦那様、どうして急に……」

「なんだ。その……私は、お前の事、好きになってしまったらしい……」

沈黙。
誠二は、恥ずかしそうに頭を掻きながら言った。

「……だから、ずっとこの家にいてほしい……ダメか?」

司の瞳から大粒の涙が落ちた。

「そんな事、そんな事あるわけないじゃないですか!! ボクは、ずっと前から旦那様の事、愛してしまっていたのですから……」
「じゃあ……」

「でも……ダメなのです」
「え!?」

「ボクには自信がありません。旦那様に抱かれ続けたら、きっと、お話にあった男の子のように我を忘れて快楽に溺れてしまうから……」

誠二は、優しい眼差しを司に向ける。

「いいんだよ、快楽に溺れても」
「ダメです! 旦那様が許してもメイドの誇りとプライドが許しません!」

司は、辛そうな顔で首をブンブンと横に振った。

(どこまでも、健気な可愛い子なんだろう……)

誠二は、胸を打たれた。

「なぁ、司」
「はい、旦那様」

「仕事じゃない。愛し合うただの男が二人。それだったらどうだ?」
「仕事じゃない……ですか?」

「ああ、それなら快楽に溺れて悪いことなどない。愛し合っている恋人なのだから」
「……それって、ボクと旦那様は恋人になるって事ですか?」

誠二は、うなづく。

「旦那様! それじゃあ……」
「ああ、司。ここで二人で一緒に暮らそう。ずっと、ずっと、愛し合いながら!」

司の顔は、笑顔で満開になった。

「はい! 旦那様!!」

二人は、固く抱き合い、そして唇を合わせた。

「旦那様! 大好き!」
「司。これからは旦那様じゃない。誠二と呼びなさい。恋人なのだから」

「はい、誠二様!」
「愛しているよ、司!」

「はい、誠二様。ボクもです!」

****

誠二は、市長充てに手紙をしたためていた。


神治、お前は、こんな結末を予想していたのか?
いやしていたのだろう。まったくお節介なやつだ。
でも、本当に感謝している。生涯の伴侶に巡り合えたのだから。
これは気持ちだ。少ないが受け取れ。

執事メイド専門学校への多額の寄付金が送られる事となった。
そしてこれを機に、神治への大々的な資金援助も行われていくのであった。

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