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第89話 エブリスタ兄弟
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危なかった。
ライト・リズム・エブリスタは思った。
魔法の発動がコンマ数秒遅れていたら確実に死んでいた。
死ぬかと思った。
リード・ビカム・エブリスタもまた思った。
まさかいきなり魔装具の銃剣をぶっぱなしてくるとは思いもよらなかった。
「リードがとっさに、あいつに幻覚を見せてくれたおかげで助かったぞ」
「ライトがとっさに、幻覚なのに手応えまで感じさせるようにしてくれたのもよかったぞ」
ふたりは、互いを誉めたたえ、ハイタッチをした。
「それにしても、リバーステラからの来訪者に、こんなクレイジーな奴がいるなんて思いもよらなかったな」
「まったくだ。どいつもこいつも旅立ってすぐに死ぬから、リバーステラの奴は弱っちい奴らばっかりだと思ってた」
ふたりはまだ13歳であり、魔術学院の学生ではあったが、もし女に生まれていれば自分たちこそが一万人目の来訪者を導く巫女になっていただろうと考えていた。
男のままでも、エウロペがこのような形で滅亡することがなければ、エウロペの二大賢者・エブリスタ兄弟として、世界にその名を轟かせ、歴史に名を残すはずだった。
自分たちの実力は、ピノア・カーバンクルには正直劣る。
だが、ステラ・リヴァイアサンよりは確実に勝(まさ)っている。
ふたりは互いの実力をそのように認識していた。
もっとも、彼らは魔人ではなく、それだけの才能を持ちながらも、ただの人でしかなかったが。
しかし、かつてこの国には、三賢者と呼ばれる三つ子の三姉妹がいたと聞いていた。
彼女たちもただの人であったそうだが、彼女たちが魔法人工頭脳を作らなければ、エウロペの飛空艇はいまだに完成していなかっただろうと言われていた。
だから、大賢者やステラのように魔人でなくても、あるいはピノアのように1000年に一度生まれるかどうかというアルビノの魔人でなくても、自分たちが生まれ持った才能におごることなく、それに見合った、いや、それ以上の努力をすれば、必ず大賢者やピノアを超えることができると信じていた。
人の歴史の中で、アルビノの魔人について記されている文献はあまりに少なかった。
ひとつは聖書の最後の預言にある「救厄の聖者」である。
預言にあった大厄災が一体何であったのかはわからないが、その名もなきアルビノの魔人はおそらく、世界規模の大災害か何かから世界を守ったのだと考えられていた。
2000年ほど前のことだという。
もうひとつは、1000年ほど前、ライシア大陸の西半分を占める、アイザ地方のさらに極西にあるドラゴンの形をした島国・ジパングに、アルビノの魔人がいたという文献が、アイザの大半を占める大国にあるらしかった。
ジパングは黄金の国であり、エウロペやゲルマーニの魔法とは大きく異なる陰陽道という魔法(?)が存在し、そのアルビノの魔人は陰陽道の使い手であったという。
文献はあまりに少なかったが、ただの人が、アルビノの魔人を超えたことを示す文献もまたなかった。
だから、ただの人でありながら、魔人であるステラ・リヴァイアサンよりも勝る自分たちが、アルビノの魔人であるピノア・カーバンクルを超えるのだ。
世界に名を轟かせるだとか、歴史に名を残すといったことは二の次だった。
ピノアを超えることこそが、彼らのすべてであった。
だから半年前、ふたりはエウロペにはない魔法をゲルマーニに求め、城や城下町の誰にも告げることなく、大賢者の許可も取らず、無断で魔法留学した。
エウロペのすべての魔法を、無論「業火連弾」といった大賢者やピノアしか使えない魔法も含めて、とうの昔にすべて習得し終えていたふたりは、ピノアを超えるためにはエウロペにはない魔法を習得し、新魔法を生み出すしかないと考えたのだ。
そして、ふたりがゲルマーニのすべての魔法を習得して帰国したとき、エウロペの城下町は、人やカオスの死体が無数に転がる、彼らの知らない町になっていた。
コムーネの町と城下町の間にあったミラノーマの村もまた滅んでいた。
ふたりには、一体何が起き、このような光景が目の前に広がっているのかわからなかったが、しかしそれでもわかったこともあった。
ヒト型のカオスとでも呼ぶべきなのだろうか、町には彼らが知らなかったような存在の死体もあったが、自分たちがあと数日早く戻っていれば、絶対にこんな惨劇は止められたはずだったろうこと。
そして、自分たちがいなくても、ステラやピノアがいれば、そして大賢者がいれば、確実に惨劇が止められたはずだったということだ。
城は、エスカレーターやエレベーター、ワープポイントといったすべての魔法装置(マキナ)がその稼働を停止させられていた。
城のまわりを浮かんでいた、魔法研究所や彼らが育った魔術学院は、城を囲むエーテルを生み出す湖に落下していた。
だが、飛空艇はどこにも見当たらなかった。
おそらくは、大賢者が飛空艇を使いどこかへ向かい、そしてピノアやステラもまた一万人目の来訪者と共に旅立った後、このような惨劇が起きたに違いない。
ふたりはそう考えていた。
町中の人々を殺したのはカオスたちであるのは間違いないが、カオスたちを始末したのが誰であるかまではわからなかった。
ふたりはこの数日、生き残っている者がいないか、城下町や城を探しまわったが、誰も見つけられなかった。
その代わりに彼らが見つけたのが、本来なら存在しないはずの10001人目の来訪者だった。
「あいつは放っておいたら危険だな」
「たぶん、異世界なら何をしてもいいと勘違いしてるんだろうな」
ふたりは、次はジパングへと渡り、陰陽道をも学ぶつもりでいたが、城下町から出ていった10001人目の来訪者を尾行することにした。
だが、ふたりは空を見上げ、
「でも、そんなのんきなことも言ってられないかもしれないな」
「そうだな。あの空にいくつもある、どでかいゆらぎは、かなりやばそうだ」
そう言った。
「エウロペに張られてる、このダークマターを浄化する結界みたいなものが、つい先日ゲルマーニにも張られたろ」
「なんか、とんでもないことが起きてるのはわかってたけど、本来ならくるはずがなかったあいつといい、この空の無数のゆらぎといい、これからもっととんでもないことが起きそうだな」
ふたりの予感はすぐに的中した。
「エウロペの飛空艇が、いつのまにかコムーネの町に戻ってきてるな」
「そうだな。無断でゲルマーニに行ってたこと、大賢者様に死ぬほど怒られそうだけどな」
あの飛空艇に乗ってるのは、大賢者様かもしれないし、もしかしたらピノアやステラかもしれない。
わからないが自分たちも早く合流した方が良さそうだ、ということはわかった。
だが、その前に自分たちを躊躇いなく殺そうとした、あのやばい奴をどうにかしなければ、と思った。
「俺たちにも魔装具が必要だと思うが、リードはどう思う?」
「俺も同じことをライトに言おうとしてた」
ふたりは、顔を見合わせて嬉しそうに笑うと、魔装具店の中に入っていった。
ライト・リズム・エブリスタは思った。
魔法の発動がコンマ数秒遅れていたら確実に死んでいた。
死ぬかと思った。
リード・ビカム・エブリスタもまた思った。
まさかいきなり魔装具の銃剣をぶっぱなしてくるとは思いもよらなかった。
「リードがとっさに、あいつに幻覚を見せてくれたおかげで助かったぞ」
「ライトがとっさに、幻覚なのに手応えまで感じさせるようにしてくれたのもよかったぞ」
ふたりは、互いを誉めたたえ、ハイタッチをした。
「それにしても、リバーステラからの来訪者に、こんなクレイジーな奴がいるなんて思いもよらなかったな」
「まったくだ。どいつもこいつも旅立ってすぐに死ぬから、リバーステラの奴は弱っちい奴らばっかりだと思ってた」
ふたりはまだ13歳であり、魔術学院の学生ではあったが、もし女に生まれていれば自分たちこそが一万人目の来訪者を導く巫女になっていただろうと考えていた。
男のままでも、エウロペがこのような形で滅亡することがなければ、エウロペの二大賢者・エブリスタ兄弟として、世界にその名を轟かせ、歴史に名を残すはずだった。
自分たちの実力は、ピノア・カーバンクルには正直劣る。
だが、ステラ・リヴァイアサンよりは確実に勝(まさ)っている。
ふたりは互いの実力をそのように認識していた。
もっとも、彼らは魔人ではなく、それだけの才能を持ちながらも、ただの人でしかなかったが。
しかし、かつてこの国には、三賢者と呼ばれる三つ子の三姉妹がいたと聞いていた。
彼女たちもただの人であったそうだが、彼女たちが魔法人工頭脳を作らなければ、エウロペの飛空艇はいまだに完成していなかっただろうと言われていた。
だから、大賢者やステラのように魔人でなくても、あるいはピノアのように1000年に一度生まれるかどうかというアルビノの魔人でなくても、自分たちが生まれ持った才能におごることなく、それに見合った、いや、それ以上の努力をすれば、必ず大賢者やピノアを超えることができると信じていた。
人の歴史の中で、アルビノの魔人について記されている文献はあまりに少なかった。
ひとつは聖書の最後の預言にある「救厄の聖者」である。
預言にあった大厄災が一体何であったのかはわからないが、その名もなきアルビノの魔人はおそらく、世界規模の大災害か何かから世界を守ったのだと考えられていた。
2000年ほど前のことだという。
もうひとつは、1000年ほど前、ライシア大陸の西半分を占める、アイザ地方のさらに極西にあるドラゴンの形をした島国・ジパングに、アルビノの魔人がいたという文献が、アイザの大半を占める大国にあるらしかった。
ジパングは黄金の国であり、エウロペやゲルマーニの魔法とは大きく異なる陰陽道という魔法(?)が存在し、そのアルビノの魔人は陰陽道の使い手であったという。
文献はあまりに少なかったが、ただの人が、アルビノの魔人を超えたことを示す文献もまたなかった。
だから、ただの人でありながら、魔人であるステラ・リヴァイアサンよりも勝る自分たちが、アルビノの魔人であるピノア・カーバンクルを超えるのだ。
世界に名を轟かせるだとか、歴史に名を残すといったことは二の次だった。
ピノアを超えることこそが、彼らのすべてであった。
だから半年前、ふたりはエウロペにはない魔法をゲルマーニに求め、城や城下町の誰にも告げることなく、大賢者の許可も取らず、無断で魔法留学した。
エウロペのすべての魔法を、無論「業火連弾」といった大賢者やピノアしか使えない魔法も含めて、とうの昔にすべて習得し終えていたふたりは、ピノアを超えるためにはエウロペにはない魔法を習得し、新魔法を生み出すしかないと考えたのだ。
そして、ふたりがゲルマーニのすべての魔法を習得して帰国したとき、エウロペの城下町は、人やカオスの死体が無数に転がる、彼らの知らない町になっていた。
コムーネの町と城下町の間にあったミラノーマの村もまた滅んでいた。
ふたりには、一体何が起き、このような光景が目の前に広がっているのかわからなかったが、しかしそれでもわかったこともあった。
ヒト型のカオスとでも呼ぶべきなのだろうか、町には彼らが知らなかったような存在の死体もあったが、自分たちがあと数日早く戻っていれば、絶対にこんな惨劇は止められたはずだったろうこと。
そして、自分たちがいなくても、ステラやピノアがいれば、そして大賢者がいれば、確実に惨劇が止められたはずだったということだ。
城は、エスカレーターやエレベーター、ワープポイントといったすべての魔法装置(マキナ)がその稼働を停止させられていた。
城のまわりを浮かんでいた、魔法研究所や彼らが育った魔術学院は、城を囲むエーテルを生み出す湖に落下していた。
だが、飛空艇はどこにも見当たらなかった。
おそらくは、大賢者が飛空艇を使いどこかへ向かい、そしてピノアやステラもまた一万人目の来訪者と共に旅立った後、このような惨劇が起きたに違いない。
ふたりはそう考えていた。
町中の人々を殺したのはカオスたちであるのは間違いないが、カオスたちを始末したのが誰であるかまではわからなかった。
ふたりはこの数日、生き残っている者がいないか、城下町や城を探しまわったが、誰も見つけられなかった。
その代わりに彼らが見つけたのが、本来なら存在しないはずの10001人目の来訪者だった。
「あいつは放っておいたら危険だな」
「たぶん、異世界なら何をしてもいいと勘違いしてるんだろうな」
ふたりは、次はジパングへと渡り、陰陽道をも学ぶつもりでいたが、城下町から出ていった10001人目の来訪者を尾行することにした。
だが、ふたりは空を見上げ、
「でも、そんなのんきなことも言ってられないかもしれないな」
「そうだな。あの空にいくつもある、どでかいゆらぎは、かなりやばそうだ」
そう言った。
「エウロペに張られてる、このダークマターを浄化する結界みたいなものが、つい先日ゲルマーニにも張られたろ」
「なんか、とんでもないことが起きてるのはわかってたけど、本来ならくるはずがなかったあいつといい、この空の無数のゆらぎといい、これからもっととんでもないことが起きそうだな」
ふたりの予感はすぐに的中した。
「エウロペの飛空艇が、いつのまにかコムーネの町に戻ってきてるな」
「そうだな。無断でゲルマーニに行ってたこと、大賢者様に死ぬほど怒られそうだけどな」
あの飛空艇に乗ってるのは、大賢者様かもしれないし、もしかしたらピノアやステラかもしれない。
わからないが自分たちも早く合流した方が良さそうだ、ということはわかった。
だが、その前に自分たちを躊躇いなく殺そうとした、あのやばい奴をどうにかしなければ、と思った。
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