「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

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第0部「RINNE -友だち削除-」&第0.5部「RINNE 2 "TENSEI" -いじめロールプレイ-」

第3話 出席番号女子8番・内藤美嘉 ①

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「いじめロールプレイ……」 
 黒板に描かれたその言葉をぼくは口に出して読み上げた。先生はそれをゲームと言った。ロールプレイ、ゲーム。ロールプレイングゲーム、RPGということだろうか。しかしいじめロールプレイとは一体なんだろう。 
「ロールプレイとは役割(=role)を演ずる(=play)という意味の言葉です。だからテレビゲームのRPGではプレイヤーは主人公を演じますね」 
 先生は言った。もっとも最近のRPGは主人公がプレイヤーの意志に関係なく、ペラペラとしゃべってしまうものが多いようですが、とも付け加えた。確かにぼくの好きなモケモンやモンスターイーター、ドラゴンファンタジーの主人公は喋らない。けれどファイナルクエストやテイラーズオブシリーズの主人公はペラペラとしゃべるのでぼくはあまり好きじゃなかった。まるで自分が彼らを操作しているのではなく、操作させられているような気がするからだ。 
「いじめロールプレイとは、いじめにおける役割、つまりいじめる者、いじめられる者、いじめに加担する者、傍観者を決め込む者、いじめられる者を助ける者など、みなさんにそれぞれ演じてもらうゲームです」 
 そんなゲーム、聞いたこともない。 
「ルールは簡単です」 
 先生は言った。 
「本日十一月十八日午前五時より開始します」 
 先生はそう言ったが、教室は窓も白く塗りつぶされ、黒板の横にあった時計も塗りつぶされていた。今が何時かもわからない。先生は自分の腕時計を見て、 
「あと十分ほどで開始ですね。最初の一時間でゲームについての説明を行います。実際にゲームが開始されるのは六時からです」 
 と言った。 
「七日間の合宿活動で、土日をはさんで来週月曜の午後五時まで行われます。途中帰宅は認められません」 
「なんだよそれ、聞いてねーよ!」 
 不良の野中恵成(のなかよしなり)が声を荒げた。 
「親御さんの許可はすでにとってあります。もちろん君のご両親にもね、野中くん」 
 みなさんに報告していなかったことは謝ります、先生はそう言って深々と頭を下げた。 
 かと思うと、顔をあげると、舌を出して「てへぺろ」と言った。ふざけてる。 
「みなさん全員の携帯電話は没収します」 
 先生はいつの間にか手に持っていた袋を高く上げた。コンビニのビニール袋いっぱいに携帯電話が入っていた。 
「もう没収済みなんですけどね」 
 そう言って笑った。クラスメイトたちはみんな、自分のポケットや鞄を探り、携帯電話がなくなっていることに気づいたようだった。ぼくは携帯電話を持ってなかったが、クラス全員の携帯電話を盗む、いや没収するなんて一体いつの間にできたのだろう。それにさっきまで先生はビニール袋を持ってはいなかった。まるで時間を止めるか何かをして、先生だけがその止まった時間の中で動いたようだった。 
「外部との連絡をとることは一切認められません。たとえゲーム期間中にご家族やご親族が亡くなったとしても、例外は一切認められません」 
 先生がそう言い終える頃には、ビニール袋が消えていた。目の前でふっと消えたように見えた。 
「その代わり皆さんにはこれからお配りする携帯電話を持っていただきます」 
 まただ。先生がそう言い終えた瞬間には、ぼくたちの机にはそれぞれ一台ずつ携帯電話が置かれていた。血のように赤い携帯電話だった。スマートフォンってやつだった。 
 どこの携帯会社だとか、製造元がどこだとか、何ていう機種なのか、その携帯電話には一切そういうロゴのようなものは記されていなかった。けれど、ぼくはその携帯電話をどこかで見たことがあるような気がした。携帯電話を持ったこともないぼくが一体いつ、どこでだろうと疑問がよぎった。最近よく見るあの変な夢の中かもしれない。 
「その携帯電話には『いじめロールプレイ』を円滑に進めるためのアプリが入っています。そのアプリを使ってクラス全員でくじをひき、いじめの首謀者と、いじめられる者を決めます」 
 みんなが一斉にその携帯電話を手にとった。ぼくもそれに続く。 
「それ以外の者はいじめの加担者、もしくは傍観者になります。自分で選択が可能です。いじめられる者の味方は、する人はいないでしょうけれど、別にしても構いません」 
 スマートフォンはDSの下の画面みたいなタッチパネルだということは知っていた。けれど真っ暗な携帯電話の液晶画面を触っても何も反応しない。 
 ぼくは隣の席の鮎香を見た。すると彼女と目があった。彼女はやっぱりという顔をして、自分の携帯電話をぼくに見せると、液晶画面の下にある三つのボタンの真ん中を指差した。 
 液晶画面の下には左から、三本線、四角、左向きの矢印のマークがついたボタンが並んでいた。真ん中の四角のマークのボタンを押すと、現在の時刻と日付が表示された。 
 けれどまたしても触っても反応がない。よく見ると、画面の下の方に、"SLIIDE TO UNLOCK"と書かれていて、上向きの矢印があった。画面の上に指を置き、上向きにスライドさせろということだろうか、試してみると画面が切り替わった。 
 そこには最近インターネットの動画サイトなんかで流行ってる音声合成技術で歌を唄うアンドロイドみたいな格好の女の子の上半身が映っていた。待受画面だろうか。それにしては随分趣味が悪いなとぼくは思った。静止画ではなく、女の子はまばたきをしたり、口に手を当ててあくびをしたりしていた。CGのアニメーションなんだろうけれど、まるで生きているみたいに見えた。女の子はぼくに気づき、慌てたような様子で両手をぼくに差し出した。その手には四角い箱のようなものがあり、「いじめロールプレイ」と書かれていた。 
 ぼくはその四角い箱──アイコンに触れた。 
 すると玩具屋さんやゲームセンターにあるような、トレーディングカードの自販機のようなものが表示される。 
「はーい、皆さん、先生にちゅーもくー」 
 先生が大きな声でそう言った。 
「みなさんがこれから引くそのガチャは、パッケージガチャと呼ばれているものです。通常、ガチャは何が出るかわからないものですが、パッケージガチャは出るものがあらかじめ決まっています。当たりは二枚しかありません。いじめられる者といじめの首謀者。当たりを引いてもどちらになるかはカードをめくってみるまでわかりません。あとの二八枚ははずれです。はずれは引いた瞬間にはずれだとわかります。その三十枚のカードを全員で引くわけになります。当たりが三枚も四枚もでてしまったら、先生は困ってしまいますので、こういう仕様になりました」 
 まるでガチャゲーやFREEみたいね、とぼくの隣で鮎香が言った。なんだそれ? とぼくが訊ねると、携帯電話でできるソーシャルゲームっていうやつ、と鮎香は言ったけれど、携帯電話を持っていないぼくにはさっぱりわからなかった。 
 携帯電話の画面では、先ほどの女の子が漫画のような吹き出しで「ガチャを回してね」と言っていた。時計回りに指を動かせという矢印が表示され、ぼくはそのとおりに画面の上を指を走らせた。 
 すると自販機からカードが飛び出した。 
「はずれ」 
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