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第0部「RINNE -友だち削除-」&第0.5部「RINNE 2 "TENSEI" -いじめロールプレイ-」

第4話 出席番号女子8番・内藤美嘉 ②

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 画面の中の女の子は「残念でした」と悲しそうにしていたけれど、ぼくはほっとした。先生の話が本当なら、この自販機の当たりは、いじめられる者か、いじめの首謀者なのだ。少なくともぼくはそのどちらでもなかった。 
 鮎香と祐葵もどうやらはずれだったらしく、ほっと胸をなでおろしていた。 
「どうしてわたしがいじめられなきゃいけないのよ!」 
 悲鳴のような声を上げた女子がいた。内藤美嘉だった。内藤は携帯電話を床に叩きつけた。それだけでは怒りがおさまらないらしく、足で何度も踏みつけた。 
「どうやらいじめられる役割は内藤さんに決まったようですね」 
 先生は淡々と言うと、「実におもしろい」テレビドラマの天才物理学者の名台詞をつぶやいた。全然似ていなかったけれど。 
「クラスの女子の中心的グループのリーダーで、山汐凛さんをいじめて、売春まで強要した内藤さんがいじめられる姿が見られるとは、先生すごくゾクゾクします」 
 先生は心から楽しんでいるようだった。 
「あんた頭おかしいんじゃないの?」 
 内藤は携帯電話を拾うと、先生に投げつけた。 
「いじめられる側の人間ならこのクラスに沢山いるでしょう? たとえば、凛、あんただよ!」 
 名前を呼ばれた山汐は、びくっと体を硬直させた。 
 しかし、次の瞬間またしても信じられないことが起きた。彼女が投げたはずの内藤の携帯電話は、山汐に向かって怒鳴り散らした彼女の手に戻っていた。 
「なにこれ、どういうこと?」 
 何が起きたのかわからず震える内藤に先生は言う。 
「珍百景のひとつにでも数えておいてください」 
 相変わらずつまらない冗談だった。先生は咳払いをすると、説明を続けます、言った。 
「誰かはわかりませんが、もうひとり当たりを引いた方がいらっしゃいます。その方にはいじめの首謀者になっていただきます。いじめの首謀者はその携帯電話によるメールでのみいじめの指令をクラス全員に出すことができます。いじめの指令の内容はどんなものでも構いません。リンチやレイプももちろん含みます」 
 その瞬間、クラス全員が内藤の顔を見た。 
「ちょっ、何言ってるの? リンチ? レイプ? ふざけないでよ」 
 事態が把握できず困惑する内藤だったけれど、ぼくたちもそれは同じだった。 
「あなたは似たようなことをこれまで散々してきたじゃないですか。今度はそれがあなたがされる番になっただけですよ」 
 先生のその言葉に、内藤はぐったりと椅子に座った。 
「いじめの首謀者の方にひとつ、ご忠告をさしあげます。いじめの首謀者はいじめられる者に特定されてはいけません。特定された場合は死ぬことになるからです」 
 教室中がどっと騒いだ。 
「死ぬ?」 
「なんで?」 
「ゲームなんじゃないの?」 
 クラスメイトたちは口々に疑問を口にした。ぼくにもわけがわからなかった。 
「なによ、これ……」 
 内藤がまた声を上げた。見ると、彼女の手にはいつの間にか拳銃が握られていた。 
「なぜなら、いじめられる者は六時間に一度、一日に四回ずつ、いじめの首謀者だと思われる人物に拳銃を向けることができるからです。その拳銃には時限式の安全装置がかけられていて、今は引き金を引いても弾は出ません。今言ったように、一日に四回だけ、六時間に一度だけ、それぞれ五分の間だけ、一発だけ発砲できるようになります。発砲するかどうかは内藤さんの自由です。いじめの首謀者を時間内に見つけられれば、このゲームはその時点で終了、内藤さんの勝ちになります。ただし、一六八時間以内に見つけられなかった場合、内藤さんにはゲームに負けた罰として死んでもらうことになります」 
「どういうこと……?」 
「ゲームは七日間、一六八時間あります。内藤さん、何度も言いますが、あなたが銃を撃てるのは六時間に一度です。ではあなたが拳銃を撃つことができる回数は何回ですか?」 
 先生は内藤の質問に質問で返した。 
 168÷6=? 割り算は苦手だった。 
「二八回……」 
「では、このクラスはあなたを除いて何人でしょう?」 
「に、二九人……」 
「そうです。あなたは二九人のうち二八人を射殺できるチャンスがあるのです。あなたがこのゲームに勝つ可能性は非常に高いとは思いませんか?」 
 確かに、そうかもしれないわね、と内藤はほっと胸をなでおろした様子だった。 
「逆に言えば今みなさん中にいるいじめの首謀者の方は、二八回内藤さんに別の人間を首謀者だと思わせればこのゲームに勝てるというわけです」 
 その言葉を聞いて、手を上げた男子生徒がいた。 
「山口くん、何か質問ですか?」 
 山口朋紘だった。 
「俺たちはどうなるんですかー?」 
 その質問はもっともなものだった。いじめられる者でも、いじめの首謀者でもないぼくたちはゲームの勝ち負けなんかどうでもいいのだ。 
「君の今の言葉はまるで自分が首謀者ではないと言っているように聞こえますねぇ。一番にそんなアピールをする人間こそ怪しいとは思いませんか? 内藤美嘉さん」 
「そうね、確かに怪しいわね」 
 けれど、山口の言葉はおかしな方向に転がっていった。 
「違う俺じゃない!」 
 山口が叫ぶ。 
「それを信じるかどうかは内藤さん次第ですが……」 
 いいでしょう、お教えします、と先生は言い、 
「先ほども少しお話ししましたが、いじめられる側にも、いじめの首謀者にもならなかった方たちには、いじめの加担者、もしくは傍観者になってもらいます。彼女を守りたいと思う方がもしいらっしゃれば、彼女をいじめから守っても構いません」 
 そう続けた。 
「いじめの首謀者からは、みなさんに先程お渡しした携帯電話にのみ、メールという形でどんないじめを実行するか指令が届きます。指令は一時間に一度、誰が実行してもかまいませんが、誰も実行しない、つまりパスは許されません。もしどうしてもパスするという場合は、次の指令が来るまでの間に、誰かを内藤さんに生け贄に捧げなければなりません」 
「生け贄?」 
 内藤がオウム返しに訊ねた。 
「内藤さんはその生け贄を殺しても構わないということです。彼女に殺されないためには、みなさんもいっしょになっていじめの首謀者を探し、彼女につきだせばいいというわけです」 
 先生は腕時計を見た。 
「さて、そろそろ時間ですね。六時になりました。ゲーム開始です」 
 三十台の携帯電話が一斉にオルゴールの音色を奏でた。着信音だ。たぶんクラッシックの、亡き王女のためのパヴァーヌっていう曲だと思う。 
「さあ、皆さん、携帯電話でいじめの首謀者からの最初の指令メールを確認してください」 
 先生がそう言って、ぼくたちは一斉に携帯電話の画面を確認した。 
 そこにはこう書かれてあった。 




──内藤美嘉に変なあだ名をつけろ。 
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