「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな

文字の大きさ
250 / 271
第0部「RINNE -友だち削除-」&第0.5部「RINNE 2 "TENSEI" -いじめロールプレイ-」

第12話 出席番号男子7番・篠原蓮生 ②

しおりを挟む
 三時間後には内藤美嘉が誰かをいじめの首謀者だと断定して射殺する。 
 それまでにいじめの首謀者を見つければ、このゲームはぼくたちの勝ちだ。 
 でもどうやって? 
 二二時と二三時の指令がどんなものになるかはわからないけれど、それから判断するしかないのだろうか。 
 他に何かヒントのようなものはどこかに転がっていないだろうか。 
 ぼくは携帯電話のあちこちを触ってみたが、ぼくはもともと携帯電話を持っていないから、いじめロールプレイのアプリが入ってる以外に何もわかることはなかった。 
 祐葵と鮎香も同じことを考えていたらしく、携帯電話でいろいろと何かを試しているようだった。祐葵は携帯電話をいろんな角度から見るという、馬鹿げたことをしていたけれど。こいつはダメだ。鮎香なら何かわかるかもしれないと思ったが、目が合うと彼女は首を横に振るだけだった。 
「それでは、みなさんの中にいるいじめの首謀者の方のご要望通り、日本史の授業を始めます」
 先生が教壇に立った。 
「今日は日本人のルーツについて、お話ししましょう」 
 そう言って、ペンキで真っ白な黒板にマジックで板書をはじめた。西暦28年頃、と先生は黒板に書いた。 
 ぼくは祐葵と鮎香に、もしかしたらこの授業にいじめの首謀者について何かヒントが隠されているかもしれない、と耳打ちして、席を立った。秋月くんはどうするの? という鮎香の問いにぼくは、このクラスには携帯電話とかパソコンとかにやたら詳しい奴がいるだろ、と目的の生徒を指で差した。鮎香はなるほどと言って、授業の方はわたしと榊くんにまかせておいて、と言った。 
 ぼくは篠原蓮生(しのはらはすお)の席に向かって歩いて行った。 
「時は西暦二八年頃、今から二千年ほど前のことです。 
 自らをユダヤ人の王であると名乗り、また『神の子』あるいはメシアであると自称した罪により、イエス・キリストはユダヤの裁判にかけられた後、ローマ政府に引き渡され磔刑に処せられてしまいました。 
 その後、十字架からおろされ墓に埋葬されましたが、三日後に復活し、大勢の弟子たちの前に現れます。肉体をもった者として復活したと聖書の各所に記されています」 
 なぜか、先生は日本史とは関係のないイエス・キリストの話をしていた。イエスの話は世界史だろ? もっと言えば私立大学で学ぶ宗教学の分野じゃないのか? ぼくは思ったが、先生の話は続いた。どうやら今のところ、いじめの首謀者とは関係なさそうな話だった。 
 ぼくの目的の生徒、篠原蓮生は天才高校生と呼ばれている。パソコンを自作する人間はたまにいるけれど、携帯電話を自作して使っている奴をぼくは彼しか知らない。 
 ぼくにはよくわからない世界の話だけれど、スマホ用のアプリをいくつも開発していて、そのどれもが百万ダウンロードを越えていて、高校生のくせに貯金が数千万あるという噂だった。春頃話題になっていた深夜アニメが、モデルの動きをカメラで撮影し、それをトレースしてアニメーションにするロトスコープという手法で作られていることに目を付けた彼は、ゴールデンウィークの1週間で携帯電話のカメラで撮った動画を瞬時に実写タッチのアニメーションに変換してしまうというアプリを作ったらしく、インターネットの動画サイトには彼のそのアプリを使って作られたアニメーション作品が多数投稿されていると聞いていた。夏休みには鼻歌を携帯電話に向かって歌うだけで、本格的なメロディーや伴奏がつくアプリを開発したらしい。誰でもミュージシャンになれる時代が到来、とテレビや新聞が取り上げるほどだった。とにかくとんでもない天才高校生なのだ。おまけにハッカーだという噂もあった。 
 篠原は死んだ大和省吾の隣の席だった。 
「篠原」 
 ぼくは大和の席に座り、 
「お前パソコンや携帯電話のこと詳しかったよな」 
 と言った。 
「何だよ、やぶからぼうに」 
「いや、お前なら誰から指令のメールが送られてるかわかるんじゃないかと思ってさ」 
 ぼくは単刀直入に用件を切り出した。 
「いじめの首謀者を携帯電話から割り出そうっていうのか?」 
「そうだ。これ以上犠牲者を出したくない。三時間後に内藤美嘉が銃を撃つまでに頼みたいんだが、できるか?」 
「できないこともない」 
 と、篠原は言った。 
「この携帯電話はどこの何て製品かもわからないけれど、一応スマホみたいだし、パソコンに繋ぐ端子もある。ガラケーだったら携帯ショップでもなきゃパソコンには繋げないからアウトだったけど」 
「やってもらえないか?」 
「俺が首謀者かもしれないのに?」 
 篠原はそう言ったが、その顔は首謀者の顔にはとても見えなかった。 
「お前が首謀者じゃないのはわかってるつもりだ」 
「お前のそういうまっすぐなところ嫌いじゃないぜ」 
 篠原は笑って言ったが、すぐにその表情に暗い影が落ちた。 
「俺のパソコンが無事だったらの話だがたぶん可能だった」 
「どういうことだ?」 
「俺のパソコンはあの先生のおかげでおシャカだよ。ペンキを思いっきりかぶっちまったからな。たぶん電源も入らない。誰かパソコン持ってる奴がいればやれるんだが」 
「わたし持ってるよ」 
 篠原の前の席の和泉弥生(いずみやよい)が振り返って言った。 
「本当か?」 
 篠原の目が輝いた。 
「すごく小さくて、性能も大したことないんだけど」 
 和泉はそう言って、本当に小さなノートパソコンを鞄から取り出した。授業でノートをとるときにたまに使ってるの、えへへ、近未来の高校生みたいでしょ、と和泉は言った。 
「ミニノートPCか。確かにパソコンとしての性能はいまいちだが」 
 パソコンを受け取った篠原は電源を入れながらそう言ったが、 
「でもすごく使いやすくて便利なんだよ」 
 和泉がそう返す。 
「ああ知ってる。もう一言付け足すなら、こいつで十分だよ」 
 その瞬間、篠原の目の色が変わった。 
 篠原はパソコンのUSBポートにUSBメモリを差した。 
「なんだそれ?」 
 ぼくの問いに、篠原は、ブラッディマンデー観てなかったのか? と言った。血の月曜日? なんだそれ。 
「血のバレンタインなら聞いたことがある」 
 ぼくがそう言うと、篠原はため息をついて、それは連合とザフトが戦争になったきっかけの事件だろ、と言った。僕たちが子供の頃にやっていたアニメの話だった。どうやら篠原はパソコンや携帯だけじゃなく、アニメにも詳しいらしい。流行りのアニメの手法をアプリにしてしまうくらいだから当たり前か。彼はぼくにもわかりやすく説明してくれた。そのUSBメモリには、彼が作ったハッキングソフトが入っているらしい。 
 パソコンの画面には、CGで描かれた、夜の闇の中に日本の城が映し出されていた。満月だが、月は雲に隠れている。徐々に雲が晴れ、月が城を明るく照らす。満月に、「不忍」の二文字が浮かび上がる。 
「不忍……シノバズって、篠原くんがそうだったの?」 
 和泉が驚いたように言った。 
「なんだ? 有名なの? 篠原って」 
 ぼくが言うと、和泉もはぁとため息をついた。 
「さっき篠原くんが言ったブラッディマンデーっていうのはね、高校生ハッカーが警察に捜査協力して、ハッキングでテロリストが起こそうとしてるテロを防ぐドラマとか漫画なんだけど、実際にそういう高校生がいるらしい、シノバズっていう名前のハッカーだってネットで前に話題になったことがあったの」 
 それが篠原だったということか。 
 その画面はハッカー・シノバズとしての篠原のハッキングソフト・シノバズOSのハッキング画面、らしい。 
 篠原は鞄の中から、携帯電話の予備バッテリーを取り出すと、そこに繋いであったケーブルを抜き、パソコンと先生から支給された、いじめロールプレイの入った赤い携帯電話を繋いだ。 
 シノバズOSのハッキング画面に、無数のウィンドゥが開き、ぼくには何が起こっているかわからなかったが、次々と開いていくウィンドウの中に記されたプログラム言語を一目見ただけで、篠原は次々とそのウィンドウを消していった。それらは関係ない、ということだろうか。 
「見つけた」 
 篠原はそう言うと、Enterキーを押した。忍者の格好をしたCGのキャラクターが「お命頂戴致す」と吹き出しで言った。もうハッキングは始まっているようだった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

処理中です...