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【第二部 異世界転移奇譚 RENJI 2 】「気づいたらまた異世界にいた。異世界転移、通算一万人目と10001人目の冒険者。」
第134話 はじめてのダンジョン攻略 ④
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武装したペッパーとロビは大量生産されているだけでなく、その背中から無数のドローンを射出した。
「冗談じゃない!」
イルルは手にした盾で突風を巻き起こすと同時に、杖をかざし、見えない防御壁を作り出した。
「そんな便利な杖があるのか?」
「この防御壁は一時的なものだけどね。
それより、これも、キミたちの世界の軍事兵器かい?」
ショウゴの問いに答えると、イルルはふたりに尋ねた。
レンジは首を振った。
「……そうか。
彼らは本来なら、魔法人工頭脳のようなものを持ち、家族がいない者や、両親が共働きでさびしい思いをしているこども……そういった人々の暮らしを豊かにしてくれる存在なんだね。
そんな存在をこんな風にしたのか」
「許せないね……」
「ここは、ぼくにまかせてくれ」
レンジはそう言って、防御壁の外に出た。
「レンジ! 危ないよ!!」
「大丈夫。レオナルドの魔装具がぼくを守ってくれるから」
無駄だと思うぜ、とショウゴは言った。
ボクもだ、とイルルが続いた。
ふたりはレンジが何をしようとしているのかがわかったからだった。
それは、ピノアにもわかっていた。
「きっとレンジは、わたしや、ステラとわたしのお父さん、ソラシド、レオナルド、前の世界の国王の代わりに怒ってくれてるんだと思う」
だから、そう言った。
ピノアは、ステラが持つ強大すぎる力をふたつに切り離すことによって、その力が自ら自我と肉体を作り出すことによって産まれた。
そうしなければ、ステラは自らの力を制御できず、彼女自身の身を滅ぼしかねなかった。
だから、父であるブライによってその力をふたつに分けられた。
その結果、ピノアは、本来なら術者以外のすべての人の存在を消す大厄災の魔法からさえも除外された。
ピノアは人ではないと判断されたのだ。
生き延びられたから、今またレンジと一緒にいられる。またステラに会える。
それはピノアにとってこれ以上ないほどに幸せなことだった。
だが、4000年もの長い時を生き続ける自分は、見た目はアルビノの魔人でも、本当に人ではないのだと感じていた。
自分はきっと、永遠に生き続けることができてしまう。
父は、人工的に作り出された魔人だった。
父はステラやピノアを愛してくれていた。
ふたりは母の顔を知らなかったが、ピノアという名をつけてくれたのも父であったし、カーバンクルという苗字は母の旧姓だった。
だから、父は母のことも愛していたのだと思う。
しかし、父はブライ・アジ・ダハーカという人工的に産み出された魔人のコピーに過ぎなかった。
オリジナル・ブライは、自らの出生の秘密を知り、父である前国王だけでなく、母やそのふたりの姉を手にかけた。それだけでなく、腹違いの兄弟である国王やレオナルドまでもその手にかけた。
大賢者という称号を手にしても、自分を産み出した者たちを殺しても、生まれの不幸から芽生えた自己顕示欲や承認欲求を満たすことはできず、彼は神になろうとした。
ソラシドは、今目の前にいるロボットたちに一番近い存在だ。
前の世界でも、この世界でも、ソラシドは頼りになる仲間だった。
ピノアのことをお姉さまと呼んでくれる、素直でかわいい子だった。
人工的に作られた魔法人工頭脳である彼は今、自ら子を産み出し、その魔法人工頭脳をこの世界のレオナルドに託された魔痩躯という身体に与えようとしている。
彼は、もはや人と何ら変わらない存在だった。
レオナルドも前の世界の国王もいい人だった。
だけど、レオナルドも国王も、父も、オリジナル・ブライも、人工的に産み出された命は、皆人生を狂わされ、たとえ、すべてを喰らう者がその存在を許しても、何者かがその存在を許していないようにすらピノアは感じていた。
そして、自分だけが何故か許され、永遠に生かされ続ける。
「君たちが看守か? 言葉はわかるか?」
レンジの問いに、看守ロボットたちからの返事はなかった。
そのかわりに、看守ロボットたちはドローンと共にレンジに向けて一斉射撃を行った。
硝煙の中から無傷のレンジが姿を現しても、看守ロボットたちは驚いた様子はなかった。
「それが返事か?
君たちはこんなことをするために作られた存在じゃないはずだ。
ぼくは君たちを壊したくない」
だが、彼らはさらに一斉射撃を行うだけだった。
「ごめんね。
必ず、元の君たちにいつか戻すから」
レンジは一瞬でその場にいた無数の看守ロボットたちやドローンを破壊していた。
「だから、今は少しだけ眠ってて」
ピノアもイルルもショウゴも、誰ひとりレンジのスピードを目で追うことができなかった。
そして、レンジは、
「行こうか」
と言って、6階へと続く階段を降りていった。
「冗談じゃない!」
イルルは手にした盾で突風を巻き起こすと同時に、杖をかざし、見えない防御壁を作り出した。
「そんな便利な杖があるのか?」
「この防御壁は一時的なものだけどね。
それより、これも、キミたちの世界の軍事兵器かい?」
ショウゴの問いに答えると、イルルはふたりに尋ねた。
レンジは首を振った。
「……そうか。
彼らは本来なら、魔法人工頭脳のようなものを持ち、家族がいない者や、両親が共働きでさびしい思いをしているこども……そういった人々の暮らしを豊かにしてくれる存在なんだね。
そんな存在をこんな風にしたのか」
「許せないね……」
「ここは、ぼくにまかせてくれ」
レンジはそう言って、防御壁の外に出た。
「レンジ! 危ないよ!!」
「大丈夫。レオナルドの魔装具がぼくを守ってくれるから」
無駄だと思うぜ、とショウゴは言った。
ボクもだ、とイルルが続いた。
ふたりはレンジが何をしようとしているのかがわかったからだった。
それは、ピノアにもわかっていた。
「きっとレンジは、わたしや、ステラとわたしのお父さん、ソラシド、レオナルド、前の世界の国王の代わりに怒ってくれてるんだと思う」
だから、そう言った。
ピノアは、ステラが持つ強大すぎる力をふたつに切り離すことによって、その力が自ら自我と肉体を作り出すことによって産まれた。
そうしなければ、ステラは自らの力を制御できず、彼女自身の身を滅ぼしかねなかった。
だから、父であるブライによってその力をふたつに分けられた。
その結果、ピノアは、本来なら術者以外のすべての人の存在を消す大厄災の魔法からさえも除外された。
ピノアは人ではないと判断されたのだ。
生き延びられたから、今またレンジと一緒にいられる。またステラに会える。
それはピノアにとってこれ以上ないほどに幸せなことだった。
だが、4000年もの長い時を生き続ける自分は、見た目はアルビノの魔人でも、本当に人ではないのだと感じていた。
自分はきっと、永遠に生き続けることができてしまう。
父は、人工的に作り出された魔人だった。
父はステラやピノアを愛してくれていた。
ふたりは母の顔を知らなかったが、ピノアという名をつけてくれたのも父であったし、カーバンクルという苗字は母の旧姓だった。
だから、父は母のことも愛していたのだと思う。
しかし、父はブライ・アジ・ダハーカという人工的に産み出された魔人のコピーに過ぎなかった。
オリジナル・ブライは、自らの出生の秘密を知り、父である前国王だけでなく、母やそのふたりの姉を手にかけた。それだけでなく、腹違いの兄弟である国王やレオナルドまでもその手にかけた。
大賢者という称号を手にしても、自分を産み出した者たちを殺しても、生まれの不幸から芽生えた自己顕示欲や承認欲求を満たすことはできず、彼は神になろうとした。
ソラシドは、今目の前にいるロボットたちに一番近い存在だ。
前の世界でも、この世界でも、ソラシドは頼りになる仲間だった。
ピノアのことをお姉さまと呼んでくれる、素直でかわいい子だった。
人工的に作られた魔法人工頭脳である彼は今、自ら子を産み出し、その魔法人工頭脳をこの世界のレオナルドに託された魔痩躯という身体に与えようとしている。
彼は、もはや人と何ら変わらない存在だった。
レオナルドも前の世界の国王もいい人だった。
だけど、レオナルドも国王も、父も、オリジナル・ブライも、人工的に産み出された命は、皆人生を狂わされ、たとえ、すべてを喰らう者がその存在を許しても、何者かがその存在を許していないようにすらピノアは感じていた。
そして、自分だけが何故か許され、永遠に生かされ続ける。
「君たちが看守か? 言葉はわかるか?」
レンジの問いに、看守ロボットたちからの返事はなかった。
そのかわりに、看守ロボットたちはドローンと共にレンジに向けて一斉射撃を行った。
硝煙の中から無傷のレンジが姿を現しても、看守ロボットたちは驚いた様子はなかった。
「それが返事か?
君たちはこんなことをするために作られた存在じゃないはずだ。
ぼくは君たちを壊したくない」
だが、彼らはさらに一斉射撃を行うだけだった。
「ごめんね。
必ず、元の君たちにいつか戻すから」
レンジは一瞬でその場にいた無数の看守ロボットたちやドローンを破壊していた。
「だから、今は少しだけ眠ってて」
ピノアもイルルもショウゴも、誰ひとりレンジのスピードを目で追うことができなかった。
そして、レンジは、
「行こうか」
と言って、6階へと続く階段を降りていった。
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