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第34話「覚醒、レイタ! 裏切りのビットなのだ!?」前編
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ドクン、とレイタの心臓が跳ねた。
敵の狙いは――俺。
今、この瞬間、レイタには自分がとんでもないことに巻き込まれているという実感が、雷のように落ちてきた。
「ぷぷるん……」
「……大丈夫なのだ、レイタ」
ぷぷるんが、ぐっと前に出る。
「敵がどんな理由で戦ってこようと……ぷぷるんがレイタを守るのだ。それがぷぷるんの戦いなのだ!」
レイタは小さく頷く。
「じゃあ、俺も戦うよ。理由なんてどうでもいい。大切なものを壊そうとするやつに、負けるわけにはいかない!」
戦う? 俺が? どうやって?
レイタは言葉を口にしてから思った。
戦えるわけがない。
レイタにあるのは『アリフ』の力だけだ。
不老不死の力により死にはしない。街ひとつが吹き飛ぶような爆発に巻き込まれても怪我ひとつしない。
でも、ただそれだけだ。
戦う力はレイタにはなかった。
いや、本当にそうだろうか。
ーーレイタを漢字で書くとしたら「零(ゼロ)」が「多い」と書くんだ。兆よりも上の単位である京(けい)や垓(がい)、秭(し)、穣(じょう)、溝(こう)、澗(かん)、正(せい)、載(さい)、極(ごく)、恒河沙(ごうがしゃ)、阿僧祇(あそうぎ)、那由他(なゆた)、不可思議(ふかしぎ)、無量大数(むりょうたいすう)を指す名前だよ。
いつか夢で見た、父が母に言った言葉。
それは、レイタという名前に父が込めた意味。
ただの夢かもしれないし、レイタが母の子宮の中にいた頃か、あるいは生まれたばかりの頃に現実にあったことかもしれない。
本来なら記憶しているはずのない記憶だった。記憶していても、その引き出しを開けることなどできないほどないほど奥底にある記憶。
だが、稀に胎児の頃の記憶を持つ者がいる。
前世の記憶を持つ者もいて、子どもがある日、行ったこともなく知るはずもない国や土地のことを詳細に喋り出すこともあるという。前世の名前や家族構成、どんな人物だったのかさえも。
親がその子と共にその地を訪れると、本当にその通りの景色があり、戸籍を調べるとその子が話した通りの人物が存在したことなどがわかったこともあるという。
前世の記憶まではさすがにない。
だが、胎児や赤ん坊の頃の記憶は彼の脳の片隅にずっとあり、その音声だけが再生されたものがあの夢だったのかもしれない。
ーー僕にはね、君も知らない不思議な力があるんだよ。
ーーそう、「名は体を表す」という、名前と実態が一致していることを意味する慣用句があるけれど、僕が持つ力は「名付けた名が本当に体を表す」。
ーーレイタだっけ? あんた、すごい力を持ってるみたいだね。不老不死とか、星の核と一体化できるアリフってやつだけじゃなくてさ。無限の才能や可能性みたいなのが、あんたの中に眠ってるのがわかるよ。
父だけではなく、以前一度だけ会った秋月ピノアという異世界から来た大賢者だという少女もまた、レイタにそう言っていた。
もし本当に、自分に無限の才能や可能性があるのだとしたら。
それが、大人たちや、特に教育者たちがよく言う「子どもには無限の可能性がある」なんていう、そんな子どもだましの言葉とは違う「本物」だったら、自分にも戦う力があるのかもしれない。
その瞬間、レイタは体の奥底に力の片鱗のようなものを感じた。
それと同時に、ジョフクのスカートがふわりと広がり、無数のリボン状のビットが空中に展開された。
「本気でいくわ。レイタくん。それに、ぷぷるん。――『ブラック三連星連合』の排除対象となったあなたたちの力、見せてもらうわよ」
そして再び、戦いの火蓋が切って落とされようというとき――
「河岸(かし)を変えるぞ、ジョフク。ここは俺たちが戦うには狭すぎる」
レイタはそう言い、
「古い言葉を使うのね、レイタくんは。遊び場所やギャンブルする場所を変えることを意味する慣用句、だったかしら?」
ジョフクは左右の目を高速で回転させると、まるで検索結果を表示するかのようにそう言った。
「前に映画で聞いたときは意味がわからなかった言葉なんだけどな。今は意味がわかる。不思議だよな」
わからないまま調べもしなかった言葉だった。
「遊女が抱え主や働き場所を変えることから転じて、そういう意味になったらしいぜ。お前らにお似合いの言葉だろ?」
だが、今のレイタにはその言葉の意味や由来がわかるだけではなく、
「どういう意味かしら? わたしたちが遊女だとでも?」
次の瞬間にはもう、そこは彼の家の玄関ではなく、彼らはまったく別の場所にいた。
レイタにはなぜ自分にそんなことができるのかわからなかった。
できそうだからやってみた。
できてしまった。
ただ、それだけだった。
自宅を破壊されたくなかったし、ご近所さんを巻き込みたくもなかった。
ウルやルゥ、マルブが敵かもしれない以上、自宅で戦うのは危険だった。
だから、場所を変えたのだ。
「そうは言ってない。こんな未開の辺境惑星に向かわされるなんて、かわいそうだなって思っただけだよ。遊女みたいに借金のカタに売られたようなもんだろ?」
また別の場所に。
「かわいそうなんて言葉、無闇やたらに他人に使うものじゃないわよ、坊や。この星の、いいえ、この国の、かしら? 下を見るのが大好きな地球人が、自分の方が相手より上だと思っているときに、下の人間を見て使う憐れみの言葉でしょう?」
さらに別の場所に。
「だから、言ってるんだよ。かわいそうだってな」
そして、廃墟のような場所で、レイタが言う河岸(かし)は落ち着いた。
「何が起きてるのだ!?」
「まさか本当に河岸を変えてみせるとは、おそれいったわね」
そこは、デッドモールと呼ばれる場所だった。
入居テナントの相次ぐ撤退により、稼働率が極端に低い状態で営業を継続するショッピングモールのことだが、
「4年前に閉鎖されたイ○ンモールだったかな。イ○ンでもやらかすことがあるんだな」
閉鎖によって廃墟化した状態で建物が放置されている場合も含まれており、廃虚モールと呼ばれることもある。
ここは、そんなデッドモールのひとつだった。
「創業者が三重県出身だからか、東海地方にちょっと作りすぎなんじゃないかしら? 一族の中には有名な政治家もいるみたいね」
ジョフクは、また両目をぐるぐると回転させて言った。やはり検索するときに眼球が回転するようだった。彼女の体や脳は、インターネットか何かに繋がっているのだろう。
「すごいわね、無敵の一族じゃない。このショッピングモールひとつで、この街や近隣市町村に古くからある商店街や個人経営の店をたくさん潰しておいて、そのことには何の責任も取らずに勝手に撤退しちゃうんだもの。資本主義と社会主義、共産主義の三択しかない未開文明ではありがちな現象ね」
「後学のために教えてくれないか? あんたのバカ丸出しな名前の星じゃ、他にどんな主義があるんだ?」
「そうね……この星の、あなたたちの国の言葉にするとしたら、ピラミッド型連鎖販売取引主義ってところかしら?」
「ただのマルチ商法じゃねーか!! よく発展できたな!?」
「失礼な坊やね。マルチレベルマーケティング主義っていうのもあるわよ?」
「ネットワークビジネスのことだろ!? てか、もうマルチがド頭についてるじゃねーか! マジでバカな星だな!?」
「フフ……確かにここでなら、被害を気にすることなく戦えるわ」
「よくわかった。お前も人の話を聞かないやつなんだな。ってか、被害なんて気にしてたのか?」
「気にするわけないじゃない?」
「だろうな……そういうやつらだよな」
ドオォォン――!
爆発音がデッドモールのどこからか聞こえた。
いつの間にか、そばにいたはずのぷぷるんの姿がなかった。
ジョフクのそばにも、部下はいちごパンツ星人100%チラとスポブラ星人ポブラしかいない。
ランドセル星人セルンの姿がなかった。
ふたりはとっくに戦いを始めていたのだろう。
敵の狙いは――俺。
今、この瞬間、レイタには自分がとんでもないことに巻き込まれているという実感が、雷のように落ちてきた。
「ぷぷるん……」
「……大丈夫なのだ、レイタ」
ぷぷるんが、ぐっと前に出る。
「敵がどんな理由で戦ってこようと……ぷぷるんがレイタを守るのだ。それがぷぷるんの戦いなのだ!」
レイタは小さく頷く。
「じゃあ、俺も戦うよ。理由なんてどうでもいい。大切なものを壊そうとするやつに、負けるわけにはいかない!」
戦う? 俺が? どうやって?
レイタは言葉を口にしてから思った。
戦えるわけがない。
レイタにあるのは『アリフ』の力だけだ。
不老不死の力により死にはしない。街ひとつが吹き飛ぶような爆発に巻き込まれても怪我ひとつしない。
でも、ただそれだけだ。
戦う力はレイタにはなかった。
いや、本当にそうだろうか。
ーーレイタを漢字で書くとしたら「零(ゼロ)」が「多い」と書くんだ。兆よりも上の単位である京(けい)や垓(がい)、秭(し)、穣(じょう)、溝(こう)、澗(かん)、正(せい)、載(さい)、極(ごく)、恒河沙(ごうがしゃ)、阿僧祇(あそうぎ)、那由他(なゆた)、不可思議(ふかしぎ)、無量大数(むりょうたいすう)を指す名前だよ。
いつか夢で見た、父が母に言った言葉。
それは、レイタという名前に父が込めた意味。
ただの夢かもしれないし、レイタが母の子宮の中にいた頃か、あるいは生まれたばかりの頃に現実にあったことかもしれない。
本来なら記憶しているはずのない記憶だった。記憶していても、その引き出しを開けることなどできないほどないほど奥底にある記憶。
だが、稀に胎児の頃の記憶を持つ者がいる。
前世の記憶を持つ者もいて、子どもがある日、行ったこともなく知るはずもない国や土地のことを詳細に喋り出すこともあるという。前世の名前や家族構成、どんな人物だったのかさえも。
親がその子と共にその地を訪れると、本当にその通りの景色があり、戸籍を調べるとその子が話した通りの人物が存在したことなどがわかったこともあるという。
前世の記憶まではさすがにない。
だが、胎児や赤ん坊の頃の記憶は彼の脳の片隅にずっとあり、その音声だけが再生されたものがあの夢だったのかもしれない。
ーー僕にはね、君も知らない不思議な力があるんだよ。
ーーそう、「名は体を表す」という、名前と実態が一致していることを意味する慣用句があるけれど、僕が持つ力は「名付けた名が本当に体を表す」。
ーーレイタだっけ? あんた、すごい力を持ってるみたいだね。不老不死とか、星の核と一体化できるアリフってやつだけじゃなくてさ。無限の才能や可能性みたいなのが、あんたの中に眠ってるのがわかるよ。
父だけではなく、以前一度だけ会った秋月ピノアという異世界から来た大賢者だという少女もまた、レイタにそう言っていた。
もし本当に、自分に無限の才能や可能性があるのだとしたら。
それが、大人たちや、特に教育者たちがよく言う「子どもには無限の可能性がある」なんていう、そんな子どもだましの言葉とは違う「本物」だったら、自分にも戦う力があるのかもしれない。
その瞬間、レイタは体の奥底に力の片鱗のようなものを感じた。
それと同時に、ジョフクのスカートがふわりと広がり、無数のリボン状のビットが空中に展開された。
「本気でいくわ。レイタくん。それに、ぷぷるん。――『ブラック三連星連合』の排除対象となったあなたたちの力、見せてもらうわよ」
そして再び、戦いの火蓋が切って落とされようというとき――
「河岸(かし)を変えるぞ、ジョフク。ここは俺たちが戦うには狭すぎる」
レイタはそう言い、
「古い言葉を使うのね、レイタくんは。遊び場所やギャンブルする場所を変えることを意味する慣用句、だったかしら?」
ジョフクは左右の目を高速で回転させると、まるで検索結果を表示するかのようにそう言った。
「前に映画で聞いたときは意味がわからなかった言葉なんだけどな。今は意味がわかる。不思議だよな」
わからないまま調べもしなかった言葉だった。
「遊女が抱え主や働き場所を変えることから転じて、そういう意味になったらしいぜ。お前らにお似合いの言葉だろ?」
だが、今のレイタにはその言葉の意味や由来がわかるだけではなく、
「どういう意味かしら? わたしたちが遊女だとでも?」
次の瞬間にはもう、そこは彼の家の玄関ではなく、彼らはまったく別の場所にいた。
レイタにはなぜ自分にそんなことができるのかわからなかった。
できそうだからやってみた。
できてしまった。
ただ、それだけだった。
自宅を破壊されたくなかったし、ご近所さんを巻き込みたくもなかった。
ウルやルゥ、マルブが敵かもしれない以上、自宅で戦うのは危険だった。
だから、場所を変えたのだ。
「そうは言ってない。こんな未開の辺境惑星に向かわされるなんて、かわいそうだなって思っただけだよ。遊女みたいに借金のカタに売られたようなもんだろ?」
また別の場所に。
「かわいそうなんて言葉、無闇やたらに他人に使うものじゃないわよ、坊や。この星の、いいえ、この国の、かしら? 下を見るのが大好きな地球人が、自分の方が相手より上だと思っているときに、下の人間を見て使う憐れみの言葉でしょう?」
さらに別の場所に。
「だから、言ってるんだよ。かわいそうだってな」
そして、廃墟のような場所で、レイタが言う河岸(かし)は落ち着いた。
「何が起きてるのだ!?」
「まさか本当に河岸を変えてみせるとは、おそれいったわね」
そこは、デッドモールと呼ばれる場所だった。
入居テナントの相次ぐ撤退により、稼働率が極端に低い状態で営業を継続するショッピングモールのことだが、
「4年前に閉鎖されたイ○ンモールだったかな。イ○ンでもやらかすことがあるんだな」
閉鎖によって廃墟化した状態で建物が放置されている場合も含まれており、廃虚モールと呼ばれることもある。
ここは、そんなデッドモールのひとつだった。
「創業者が三重県出身だからか、東海地方にちょっと作りすぎなんじゃないかしら? 一族の中には有名な政治家もいるみたいね」
ジョフクは、また両目をぐるぐると回転させて言った。やはり検索するときに眼球が回転するようだった。彼女の体や脳は、インターネットか何かに繋がっているのだろう。
「すごいわね、無敵の一族じゃない。このショッピングモールひとつで、この街や近隣市町村に古くからある商店街や個人経営の店をたくさん潰しておいて、そのことには何の責任も取らずに勝手に撤退しちゃうんだもの。資本主義と社会主義、共産主義の三択しかない未開文明ではありがちな現象ね」
「後学のために教えてくれないか? あんたのバカ丸出しな名前の星じゃ、他にどんな主義があるんだ?」
「そうね……この星の、あなたたちの国の言葉にするとしたら、ピラミッド型連鎖販売取引主義ってところかしら?」
「ただのマルチ商法じゃねーか!! よく発展できたな!?」
「失礼な坊やね。マルチレベルマーケティング主義っていうのもあるわよ?」
「ネットワークビジネスのことだろ!? てか、もうマルチがド頭についてるじゃねーか! マジでバカな星だな!?」
「フフ……確かにここでなら、被害を気にすることなく戦えるわ」
「よくわかった。お前も人の話を聞かないやつなんだな。ってか、被害なんて気にしてたのか?」
「気にするわけないじゃない?」
「だろうな……そういうやつらだよな」
ドオォォン――!
爆発音がデッドモールのどこからか聞こえた。
いつの間にか、そばにいたはずのぷぷるんの姿がなかった。
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